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第2話

 いつもは真由と琴美の三人でのランチなのだけれど、今日は来月末に式を挙げる真由が式場の打ち合わせをするとかでお休みしていた。


 社内のフロントで総合受付案内を遣っていた真由は、この春にクレーム処理で遣って来た業者の彼氏と運命的な出逢いを果たし、来月にはめでたく結婚。寿退社をすることになっている。


 知り合ってたった数カ月後の電撃結婚に、外野からはあれこれと聞くに堪えない噂まで取り沙汰されていたけれど、私と琴美は真由の事を『ふしだらな女』だなんて噂されているようなじゃないって知っているし、お相手の彼だって、会ったのは一度だけだったけれども、とても誠実そうな好印象の彼だったもの。



 ――やっぱ『運命の赤い糸』は存在しているのね。



「ホーント、運命って判らないものよねー。でも、恵理は私を裏切ったりしないでよ?」


「え?」


 琴美の力強いダメ出しに、私の心は大きく揺れた。だって琴美には悪いけど……私、もう彼氏候補が居るんだもの……


 彼氏だと断言出来ないのには少しばかりワケがある。


 彼は私の部下であり、一緒に生活している同居人。


 もっとも、彼が私の事をどう想ってくれているのかは物凄く疑問だし、女性の噂が常時絶えない彼にしてみれば、私の事なんか『都合の良い同居人』くらいにしか思っていないのかも知れない。




 彼は、私の父が経営している会社に、今年採用された新卒社員。


 いつも遅刻寸前に滑り込んでいる私と競い、三カ月前に勝手に事故って病院送りになった、自称『元走り屋』オトコ。


 事故ったと言っても、厳密に言えば私の無茶な運転が本当の原因だったのは判っている。私のフィットにぶつかりそうになって、彼は一旦変更した車線を戻したせいで後続車に突っ込まれ、勢いで反対車線へと押し遣られて、対向車と衝突して大怪我を負ってしまった。


 それまではお互い素性も知らない間柄だったのに、出社時によく出くわしてはその度にカーチェイス紛いなコトをしていたせいで、既に険悪な雰囲気が出来上がっていた。


 だから、彼が事故に遭おうと大して気にもならなかった。寧ろ、迷惑なドライバーが一人減ったわ……くらいにしか、私は考えてやしなかったんだもの。


 ところが、私の父は何故だか事故の事を知っていて、出社した私を捕まえるなり、一緒にお見舞いに行くと言い出した。その時はどうして父がそんな事を言い出したのか判らなかったけれど、まさかあのタチの悪いドライバーが父の会社の新卒社員だったなんて。


 事故直後のお見舞いに行った私に向かって、生意気にも上から目線のタメグチで私をこの上なく不愉快にさせてくれた不良オトコは、安全装備さえまともに機能出来ないくらい車を違法に弄っていたせいで、今どきの事故にしては珍しく重症だったみたい。でも、勝手に装備を取り外していた本人が悪いのであって、大怪我をしたのは私の責任じゃないもの。


 それに保険に加入していなかったらしく、入院治療や事故後の補償はおろか、生活費さえ捻出出来なくなって友人宅をあちこち転々と放浪する破目になった。


 けれど、それでも怪我や事故の補償一切を、一緒に住んでいる今だって、私に向かって口にすることは無い。


 一体、どういう心算なのか気になったけれど……私は敢えてその事を本人から訊き出そうとは思わない。と言うのも……正直言うと、最初彼とは余り関わりたくはなかったから。


 だって、私に対しては一応『上司』だからなのか、それほど気にはならないけれど、友達と一緒に居る時の彼は、口も悪ければガラも悪くてどこから見たって立派な不良なんだもの。


 もっとも私には総会屋……平たく言えばヤクザの親戚が居るから、ガラの悪さにはある程度の免疫がある。けれど……だからと言って、こちらから好んでお付き合いしたいだなんて思わないわ。


 なのに……まさかその彼が私の部署に配属されて来るだなんて……本当に想いも寄らなかった事なんだもの。


 彼は第一印象とは少しばかり違っていた。


『走り屋』だなんて偉そうに……路上を我物顔で走る迷惑極まりない暴走族じゃないの……と思っていたら、意外にも普段は公道マナーを守っているし、追い越しをする時は相手を驚かさないよう十分な車間距離と余裕を持ち、注意を払って追い越している。


 一般のドライバーなら信号が黄色になればアクセルを踏み込む人が多い中、敢えて彼は停車するし、渋滞になっても横道があれば車間を取り、道を車体で塞いで横道からのドライバーの迷惑になるような事もしない。却って他のドライバーよりも気を配り、優しい所があるように思えた。遅刻ギリギリで私と先を争っていたのは、別人だったのじゃないかしらと思えるくらいに。


 そんな彼が私と同居するようになったのは、配属された私の部署に遣って来て数週間後の事だった。彼は相変わらずの生活苦に悩まされていたみたいだったけれど、まさか本当に倒れてしまうとは思わなかったわ。

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