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聖騎士学園入学

 馬車が王都へ続く大通りを抜け、やがて白亜の高い壁が見えてきた。

 その中心に、聳え立つ尖塔と、広大な中庭を持つ巨大な建物。


「ここが……聖騎士学園……」


 思わず息を呑む。

 透の目の前に広がるのは、まるで要塞のような学園だった。

 門扉には王国の紋章が刻まれ、金色の装飾が朝日にきらめいている。


 門番の騎士がキサラを見るなり、慌てて敬礼した。


「副団長殿! ご苦労さまです!」


「ありがとう。彼を連れてきたわ」


 馬車を降りた透は、緊張で背筋を伸ばす。

 門をくぐった瞬間、石畳の上に広がる空気が一変した。

 静かで澄んでいて、それでいてピンと張り詰めている。


 広い中庭では、生徒たちが列を作り、剣を振るっていた。

 金属がぶつかり合う音。魔法陣が輝く音。

 まるで“戦場の縮図”だった。



「私はこれから学園長に挨拶してくるわ。

 少し待っていて、カミヤ」


「わかりました」


 キサラが正門横の階段を上がっていく。

 残された透は、落ち着かない気持ちで周囲を見回した。


(学園、っていうより……軍事施設だな)


 だが、不思議と懐かしさもあった。

 校舎の外観は、どこか転生前の世界――高校と似ている。

 窓から差し込む光、渡り廊下、掲示板、そして生徒たちの賑わい。


 ただし、その内容はまるで違う。


 黒板に描かれているのは歴史年表ではなく、“魔法陣構成式”。

 教室の机には“剣”や“杖”が並んでいる。

 体育館では、生徒たちが組手で吹っ飛ばし合っていた。


「剣術、柔術、魔術、体術……」


 思わず呟く。

 完全に“戦うための学校”だ。


「……俺、これ入学して大丈夫か?」


 若干の不安を抱えつつ渡り廊下を歩いていると――


 ドン、と誰かにぶつかった。


「す、すみません!」


 反射的に謝る。

 だが、相手の少年は目も合わせず、冷ややかな声で言い放った。


「……邪魔だ」


 透は思わず息を呑んだ。

 少年の周囲の空気が違う。

 まるで空間そのものが彼を中心に歪んでいるような圧。

 黒髪に銀の瞳、制服の上からでも分かる均整の取れた体。

 剣を佩いた姿が異様に様になっている。


 その場の空気がピリついた瞬間、背後から声が飛んだ。


「まさか――彼に会うとはね」


 キサラが戻ってきていた。


「カミヤ、彼は聖騎士学園一年の首席――リオン・ヴァルクライト。

 すべての分野で学園創設以来のトップの実力を持つ、天才よ」


「……へぇ」


 見惚れるほど整った顔立ち。だが、その目は冷たい。

 リオンはちらりとキサラを見ると、僅かに会釈した。


「副団長。こんな場所にいらっしゃるとは」


「新入生を連れてきたの」


「……この男が?」


 リオンの視線が透を射抜く。

 わずかに口角を上げた。


「……ふん」


 言葉もなく去っていく。

 残された透は苦笑いしか出なかった。


「なんか、すごい感じ悪いですね……」


「彼、そういう性格なの。気にしないで」


「いや、あれは誰でも気にするレベルだと思いますけど」


 そんな会話をしていると、キサラの耳に連絡が入った。


「学園長への謁見、準備ができたそうよ。行きましょう」



二人は校舎奥の階段を上り、重厚な扉の前に立った。

 金の装飾と魔法陣が刻まれたその扉は、まるで“儀式の間”のようだ。

 ノックの後、キサラが静かに告げる。


「副団長キサラ・アルメリア、推薦者カミヤ・トオルをお連れしました」


「入りなさい」


 低く響く声が中から聞こえた。


 扉を開けると、広い部屋の中央に一人の老紳士が座っていた。

 白い髭、深い碧眼、そして威厳を漂わせる微笑。


「ようこそ、聖騎士学園へ」


 学園長――アルノルト・フェルディナント。

 その名は王都でも知られる、数少ない“現役賢者”のひとりだ。


「あなたが……神谷透君ですね」


「はい。……あの、よろしくお願いします」


「ふむ。では、推薦書を拝見しよう」


 透は慌てて懐から封筒を取り出した。

 立派な蝋印――二番隊の紋章が押されている。


 アルノルトが封を切り、目を通す。

 そして、眉をわずかに上げた。


「……なるほど。レグルスらしい」


 その一言に、キサラが小さく吹き出した。


「やっぱり、そう思いますか?」


「ええ。文章の九割が感情と勢いで構成されている」


 透が首をかしげる。


「そんなに、ですか?」


「見てみるかね?」


 差し出された紙を恐る恐る覗くと――



『この男、根性がある! 爆発した! 面白い! 以上!』



「……雑っ!!!」


 思わず叫んだ。

 キサラも笑いを堪えきれず、肩を震わせる。


「いやぁ、団長、これ本気で書いてるんですよ……」


「わかる。レグルス君の字は勢いがすべてだからね」


 アルノルトは苦笑しながら推薦書を机に戻した。


「だが、彼が推薦するというのなら、それだけで価値はある。

 あの男が認めた者を、私が無下にはできん」


 そう言って、眼鏡を押し上げ、透をまっすぐ見た。


「――とはいえ、形式は形式だ」


「え?」


「入学前の実力テストを行う」


「……え、今からですか?」


「当然だ」


 淡々と答える学園長。

 横でキサラが微笑んだ。


「頑張ってね、カミヤ」


「いや、ちょっと、心の準備が――」


「大丈夫。死なない程度にやってくれるわ」


「物騒なこと言わないでください!?」


 すでに床の魔法陣が光り始めていた。

 学園長が杖を軽く振ると、部屋の奥の壁が音を立てて開く。

 広い訓練場が姿を現す。


「さぁ、見せてもらおうか。

 二番隊団長が“面白い”と書いた、その実力を」


 透は額を押さえた。

 まだ正式に入学もしていないのに、まるで試練の始まりのようだった。


「……なんか、嫌な予感しかしないんだけど」


 彼のぼやきを背に、光の柱が訓練場を満たしていった。


 そして――異世界での“学園生活”が、静かに幕を開ける。

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