第四テスト:総合戦・後編
試合再開の号令と同時に、リオンの足元が光を帯びた。
次の瞬間――空気が弾けるように、速度の速い魔術が放たれた。
「――《フレア・レイン》!」
小型の火球が連射のように撃ち出される。
一発一発の威力は小さいが、着弾の速さと密度が異常だった。
「うおっ!? 速っ!!」
透は反射的に跳び退り、間一髪で炎弾をかわす。
だが、すべてを避けきるのは不可能だ。
迫る一発を――ゴブリン棍棒で横薙ぎに払う。
火花が散る。
火球が裂け、地面に燃え跡を残して消えた。
「……ナイフよりは耐久度あるな」
息を整えながら、透は棍棒を軽く握り直す。
だがリオンは、眉ひとつ動かさず次の魔術を構築していた。
「では、これならどうだ」
リオンの詠唱が速まる。
「――《インフェルノ・スパーク》!」
先ほどの比ではない。
火球が爆ぜる音と同時に、雷を纏った火炎の矢が連続で射出された。
轟音。焼ける空気。
「っ、マジでヤバいやつじゃんコレ!」
透はとっさにインベントリを開く。
「なにか……防げるもん……っ!」
視線を走らせる。そこには、旅の道中で拾い集めた大量のアイテム。
その中に――見覚えのあるゼリー状の物体があった。
「……スライムゼリー?」
食料品だが、他に手段はない。
「ええい、やるしかねぇ!! インベントリ・オープン!!」
空間に波紋が走る。
どろりとした青い物体が次々と出現し、山のように積み重なる。
数百個分のスライムゼリーが、壁のように視界を覆った。
リオンの魔術が直撃――
ズガァァンッ!!
炎と雷が交錯し、蒸気が爆発的に上がる。
スライムゼリーは一瞬で蒸発したが、
同時に魔術の奔流も相殺され、視界を覆う煙だけが残った。
「……今のを、相殺した?」
リオンが初めて驚愕の表情を見せる。
煙が渦巻き、周囲を包む。
その中で――微かに、声が響いた。
「……インベントリ、オープン」
「――っ!」
リオンが反射的に上を向いた。
次の瞬間、轟音。
彼の頭上から――大量の石が降ってきた。
数百個。大小さまざまな岩石が、まるで雨のように落下する。
咄嗟に両腕を上げたリオンが詠唱する。
「――《シールド・オブ・フレイム》!」
炎の盾が展開し、石を受け止めた。
火花が弾け、岩が焼け焦げていく。
重い衝撃音のあと、煙の中にリオンの影が立ち上がる。
煙が晴れ、リオンが辺りを見渡した。
「どこだ……?」
その視線の先――地面を殴り続ける透の姿があった。
ドン、ドン、ドン――。
棍棒が地を打つたび、ウィンドウの数値が上がっていく。
“77”、“88”、“94”――。
「何を……?」
リオンが眉をひそめる。
透は汗を流しながら、ただ黙々と叩き続けていた。
(……この戦いで、ずっと考えてた)
剣術も、魔術も、拳も。
クリティカルが発動する瞬間には、ある共通点があった。
(――同じ動作を、連続で繰り返していた時だ)
少しでも他の動作を挟むと、クリティカル発動のカウントは止まる。
ならば、“連続で100回”同じ動作をすれば――
「……クリティカルが出せる!」
リオンが詠唱を始めるのが見えた。
高位魔術特有の、空気を焼くような魔力圧。
(ヤバい……唱え終わる前に終わらせる!!)
透は全身の力を振り絞り、
ゴブリン棍棒を地面に叩きつける速度をさらに上げた。
“96”――“97”――“98”――“99”――
「……っ今だッ!!」
透は横から振り上げるように、棍棒を一閃。
その先には、詠唱を終えたリオンの姿。
「――《ソーラ・バーン・カタストロフ》!!」
太陽の光を凝縮したような炎が放たれた。
それと同時に、透の棍棒から白い閃光が弾ける。
衝突。
炎と衝撃波がぶつかり合い、
場内全体が振動した。
床が裂け、風圧で観覧席の結界が軋む。
光が収まり、音が止む。
――相殺。
棍棒は灰となり、炎の魔術も掻き消えていた。
「……だ、ダメか……」
透は膝をつき、息を切らした。
全身の力が抜け、棍棒の残骸を握ったまま崩れ落ちる。
その前に、リオンがゆっくりと歩み寄ってきた。
無言で手をかざし、簡易錬成の剣を生み出す。
「――《クレイモア・アーツ》」
白銀の刃が、静かに輝きを放つ。
リオンはそれを透の喉元に突きつけた。
「……どこで覚えた」
「……は?」
「“錬成”だ。お前のあの能力……どこで学んだ?」
息を荒げながら、透は苦笑する。
「……知らねぇよ。気づいたら、できてたんだ……」
その声は掠れ、途切れそうだった。
リオンの瞳がわずかに揺れる。
だが、それ以上は何も言わなかった。
刃を引き、剣を霧のように消す。
「――終わりだ」
そう言い残し、リオンは静かに背を向けた。
歓声が爆発する。
観覧席のあちこちで、リオンの名を叫ぶ声が響いた。
『勝者――リオン・ヴァルクライト!!』
アナウンスが高らかに告げる。
その音が遠ざかる中、透の意識は闇に沈んでいった。
(……まだ、だ。終わりじゃ……ない……)
最後に、微かな思考だけを残して――完全に意識を失った。




