第二テスト:魔術
――光が収まった瞬間、再びあの白い試験空間に立っていた。
息をつく暇もなく、四隅のスピーカーが爆音を鳴らす。
『――さぁぁぁぁああッ!! 盛り上がってまいりました第二テストォ!!』
「……またこのテンションかよ」
耳を塞いでも無駄だった。鼓膜を直撃するハイテンションボイス。
『続きましては“魔術”の実力テスト!
方法はカンタンッ! 目の前の“岩”を魔術で破壊せよォォ!!』
「……お前、岩好きだな」
思わず突っ込む。
目の前には――先ほどと同じ、いや、少し大きくなった気さえする“巨大な岩”。
十メートルどころか十五メートルはある。もはや岩というより“山”。
さらに、その隣には透き通った泉が湧いていた。
オアシスのように光り、静かに波打っている。
『なお、魔力切れの場合は泉の水を飲めば即座に回復ッ! 安心してぶっ放せッ!!』
「魔力切れって……そもそも俺、魔力あるのか?」
ふとウィンドウを開いてみる。
そこには確かに“MP”のような欄が存在していた。
数値もある。けれど、基準がわからない。高いのか低いのかも見当がつかない。
(……まぁ、数字がゼロじゃないなら、撃てる……はず?)
とはいえ、魔術なんて使ったことがない。
ナイフでスライムを倒してた男が、魔法を撃てるわけがない。
困り果てた末に、観覧席――いや、上空の光の中に浮かぶ学園長席へ向かって叫んだ。
「すみませーん!! 俺、魔術使ったことないんですけど!!」
その瞬間、学園長アルノルトが口をぽかんと開けた。
「……なんと?」
観覧席全体がざわついた。
「まさか未経験?」「入試で魔術使えないとかありえるのか?」「推薦って何基準?」など、
好き放題な声が飛び交う。
透は苦笑しながら、肩をすくめた。
「いや、ほんとなんです。独学でナイフ振ってただけなんで……」
「ま、まいったな……」
アルノルトが頭を抱える。
キサラは後方で小さく溜め息をつき、リオンは露骨に顔をしかめた。
学園長が周囲を見回し、助けを求めるように声を上げた。
「……誰か、初級魔術を見せてやってくれ」
その視線がリオンに向かう。
リオンは露骨に目を逸らした。
だが、学園長の「頼む」という視線を無視できず、渋々立ち上がる。
「……了解しました」
めんどくさそうに言いながら、リオンは空中から降り立った。
その立ち姿は、完璧だった。制服の裾ひとつ乱れず、動きも静かで滑らか。
周囲から小さなどよめきが起きる。
リオンは岩に向かって歩き、無駄のない動作で手をかざした。
「――《ファイヤボール》」
短く、静かに。
次の瞬間、彼の手から放たれた炎の玉が空気を裂いた。
轟音。
岩が赤く光り、そして爆ぜた。
火花が散り、灰が舞う。
煙が晴れた時、岩は跡形もなかった。
「……これが、魔術だ」
そう言い残し、リオンは観覧席へと戻っていった。
まるで「これが現実だ、理解したか」とでも言うように。
「……いや、できるか!!」
透は全力で叫んだ。
再び地面が光り、同じ位置に新たな岩が生成される。
「……やっぱり恨んでるよな、岩のこと」
もはや定番のような気すらしてきた。
『ではぁ~、第二テスト再開ッ! 受験者、カミヤ・トオル! 魔術を放てぇぇ!』
「……うるさいわっ!」
とは言え、やるしかない。
透はリオンの構えを真似た。右手を前に出し、息を整える。
「……ファイヤボール!」
――何も起こらない。
いや、正確には。
空気が、わずかに震えた。
軽い波動のような感覚。
ウィンドウを確認すると――カウントが“1”上がっていた。
(……なるほど、これもカウント対象か)
つまり、魔術の発動行為そのものが“攻撃判定”としてカウントされる。
ならば――。
「よし……やってみるか」
透は腰を落とし、構えを整えた。
「ファイヤボール!」
「ファイヤボール!」
「ファイヤボール!」
何も起こらない。空撃ち。
それでも数値は、着実に増えていく。
“43”、“67”、“85”――
観覧席では、あきれたような溜め息が広がっていた。
「もうやめろ」「見てらんねぇ」「魔力の無駄遣いだ」
そんな声が飛ぶ中、リオンは頬杖をつき、退屈そうに窓の外を眺めていた。
しかし、透は止まらない。
拳を握り、ひたすらに唱え続けた。
魔力が削れていくのを感じる。
息も上がり、足も震える。
それでも――やめなかった。
「……99」
視界の端、カウントが上限目前で止まる。
透は深く息を吸い込み、最後の一声を放った。
「――ファイヤボール!!!」
その瞬間、空気が爆発した。
炎の奔流が右腕から迸り、まるで太陽の欠片のような光が空を焼く。
爆炎が一直線に岩へ叩きつけられた。
轟音。衝撃波。
光の洪水が視界を覆う。
岩は――木端微塵に吹き飛んだ。
遅れて爆風が吹き荒れ、地面が揺れる。
透は腕を押さえながら、呆然と立っていた。
「……やった、のか?」
焼け焦げた地面、崩れた岩の欠片。
ウィンドウを確認すると、カウントは“0”にリセットされている。
やはり、100で“発動”――間違いない。
観覧席から、大きな歓声が湧き上がった。
「すげぇぞ!」「初級魔術であれは無理だ!」
「爆発した!? 岩が消えた!!」
アルノルト学園長も立ち上がり、両手で拍手を送っていた。
「見事だ、カミヤ君! 魔術の基礎を体で覚えたようだね!」
「いや、覚えたっていうか……燃えたんですけど俺」
腕の焦げた袖を見ながら苦笑する透。
観覧席のリオンが、わずかに眉をひそめていた。
その瞳に、わずかな驚きと……ほんの少しの“焦り”が見える。
(……あの威力、初級じゃありえない)
彼は心の中でそう呟き、すぐに立ち上がった。
「……まぐれだ」
そう言い残し、静かに会場を後にした。
透は小さくガッツポーズを取った。
疲労は限界、腕も痛い。それでも、心は晴れやかだった。
(空撃ちでもカウントが上がる……ってことは、魔術も、剣も、条件は“攻撃動作”そのもの……か)
少しずつ、見えてきた。
クリティカル発動の“鍵”。
それが何を意味するのかは、まだ分からない。
けれど、確かに一歩進んだ気がした。
再びスピーカーが鳴り響く。
『――第二テスト、魔術! 合格ぅぅぅ!! おめでとぉぉ!!』
「……もう慣れてきた、このテンション」
笑いながら、透は額の汗を拭った。
岩の粉塵が風に舞い、消えていく。
その光景を見上げながら、透は静かに心の中で呟いた。
(――この学園で、絶対に解き明かしてやる)
《クリティカル発生の真理》を。
そして、まだ誰も知らない“自分のスキル”の正体を。




