実力テスト
――光が消える。
次の瞬間、透はどこかへ“落ちた”。
「うわっ……!」
足元の感覚が戻ると、そこは白く霞んだ空間だった。
天井も壁もなく、地面だけが淡く光っている。
広いのか狭いのかもわからない、不思議な空間。
「……どこだここ?」
声は反響しない。
自分の声が吸い込まれるように消える。
試験場、らしいが――正直、実感が湧かない。
と、そのとき。
四隅の空間にスピーカーのような装置が出現した。
そして次の瞬間、爆音が響き渡る。
『――さぁて諸君ッ! お待たせしましたぁ!!』
「うわっ!? でかっ!?」
鼓膜が破れそうなテンション。
声の主は、まるでアトラクションの司会者のようなノリだった。
『これより、実力テストを開始しまァす!!
内容はいたってシンプルッ! 剣術・柔術・体術・魔術!
この四大基本術を駆使して各課題をクリアしてもらいましょうッ!!』
「……無理だろ」
思わず口に出た。
透のスキルセットは、どう考えてもそんな万能ではない。
剣術も柔術も魔術も――独学のナイフ扱い以外まともにできない。
『それではまずぁ~いちばん最初の試験ッ!
――第一テスト、剣術! スタートォッ!!』
「待て待て待て! 説明短っ!」
抗議の暇もなく、足元が光り出す。
光の波紋が広がり、地面に無数の“剣”が突き刺さった。
「……なにこれ、剣の墓場?」
数え切れないほどの剣が並ぶ光景は、どこか神聖で、どこか不気味だ。
だが、目の前に現れた巨大な影を見た瞬間、彼は言葉を失った。
「……岩?」
高さ十メートルはある巨大な岩の塊。
どう見ても人力でどうにかできる代物ではない。
再びスピーカーから声が響く。
『さぁ受験者よ! そこにある“岩”を剣で破壊せよ!』
「鬼〇の刃かよ……」
内心で突っ込みながら、近くの剣を一本抜き取った。
重い。扱いづらい。
だが、やるしかない。
「うりゃぁぁぁ!」
渾身の力で斬りつける――が、
バキィッ
剣が折れた。
岩には浅い線が一本ついただけ。
「……だと思った」
溜め息をつく。
この時点で“無理ゲー”確定だった。
(どう考えても、これ人間のテストじゃないだろ……)
だが、視界の隅――ステータスウィンドウが点滅している。
数値表示:“80”。
「……ん?」
あの数字。スキル欄の数値だ。
攻撃のたびに増えていく――そう、あのときと同じだ。
(残り20……100でクリティカルが発動、かもしれない)
普通に岩を斬るのは無理。
でも、“あれ”が出れば――。
「……ワンチャン、あるな」
透は剣を次々と掴み、ひたすら岩に叩きつけた。
剣が折れるたびに新しいものに持ち替える。
そのたびに、ウィンドウの数値が上がっていく。
“83”、“90”、“97”――
そして、ついに“99”。
透が息を整える。
折れた剣を投げ捨て、新しい一本を抜いた。
(ここで決める。見てろよ、学園の連中)
その時、上空の光が少し暗くなった。
視界の端に、観覧席のような空間が浮かんでいる。
そこには、あの冷たい眼差しの少年――リオン・ヴァルクライトの姿があった。
腕を組み、興味なさそうに見下ろしている。
「……見てろよ、“首席”さん」
透は剣を上段に構えた。
両手で柄を握り、深く息を吸い込む。
「――クリティカル、発動しろよ……!」
そして叫ぶ。
「天命斬ッ!!」
名に意味はない。
ただ、格好つけてみたかった。
だが――
ゴォォォン!
剣が岩に触れた瞬間、世界が爆ぜた。
眩い光と共に、轟音が響き渡る。
岩が砕け、粉々に、四方へ吹き飛ぶ。
衝撃波が走り、砂煙が舞い上がった。
「なっ……なんだあれ!?」
「岩が……消し飛んだ!?」
観覧席が騒然とする。
中には悲鳴を上げる生徒までいた。
爆心地には、立ち尽くす透の姿。
手にしていた剣は跡形もなく消えていた。
「……や、やった……?」
呆然と呟く。
学園長アルノルトが思わず立ち上がり、手を叩いた。
「素晴らしい! 見事な剣術だ!」
「いやいやいや、剣術っていうか、爆発ですけど!?」
透の抗議は当然、誰にも届かない。
観覧席のリオンが、わずかに目を細めた。
その表情には、驚きと――ほんの一瞬の警戒が混ざっていた。
「……まぐれだろ」
そう言い残し、彼は静かに席を立った。
試験会場の照明が落ち、透の周囲が元の白い空間に戻る。
スピーカーから学園長の声が響く。
『第一テスト、剣術――合格!』
「……合格って、これでいいのか?」
呆然としながらも、どこかホッとした。
しかし、心の奥では別の感情が渦巻いていた。
(やっぱり、“クリティカル”には条件がある)
岩を砕いたのは偶然ではない。
あの数値が“100”になった瞬間、確かに何かが“起こる”。
それが自分のスキル――《Unknown Function》。
「……絶対に、解き明かしてやる」
そう小さく呟いた。
光が再び強くなり、透の体が浮かび上がる。
『――第二テストへ、移行します!』
「えっ、まだ続くの!?」
抗議の叫びが虚しく響く。
光が彼を包み、次の試験場へと転送された。
その表情には、不安よりも――わずかな高揚があった。




