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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

"晚安"

色々学べた事は有る


例えば『カッとなって人間を火掻き棒で殴り続けると、死ぬ』とか



暖炉の前で私は自分に失望していた

具体的には、自分の我慢の無さに


或いは、全く逆なのかも知れない

とっくに我慢の限界だった可能性も有る

ただ単に総てが終わった後の結果の出力として、私はこいつを殴り殺した


それだけの事なのかも知れない



幸いこの山荘には、他に人間は一人も居ない

厳密には一人居たのだが、ついさっき人間ではなく物体になった


死んで生命を失ったからだ


───厄介な『物体だ』


私はうつ伏せになった死体の頭を蹴り飛ばした

事態がそれにより好転する事は、何も無かった




『吹雪が止む迄には、何かしらの覚悟を決めなくてはならない』

私はそう思った


それは自首するにしても、このまま死体を隠蔽するなり何かするなりの場合であってもだ



不意にウイスキーが欲しくなり、私はキッチンへ向かおうと思った


いま冷静になるには、逆にアルコールの力でも借りなくてはならないだろう

死体に背を向けてドアへと歩く


その時、私のジャケットの裾を掴む者が居た



不意の事に心臓が凍り付きそうになりながら、私は弾かれた様に全身で振り向いて後ろを視る


どさり、と音がして死体が再び床に転げた


状況から判断するに、ジャケットを掴んだのが死体だった事は明白だった



この様な状況に視舞われた時、正気な人間であれば恐慌をきたすものなのかも知れない

しかし、私は眼の前の現実を淡々と観察していた


既に、色々な事に現実感が無くなり始めていた



『まあこんな事も有るよな』

もう考える事に疲れていたのかも知れない

『死後硬直とか、なんかそういうやつだよな』


頭の中でそう結論付けると、私はウイスキーを求めて再びの彷徨を始めようとした



またしても裾を掴む者が在る


ジャケットを掴む腕の、その手首を掴んで取り押さえようとする

その手首の冷たさに私は初めて恐怖を感じ、振り向きながら飛び退いた


またしても死体が、どさり、と床に倒れた



合理的説明が欲しかった

この状況に対する、合理的説明が


このように頭の割れた人間が連続で動くのは、理屈に合わない


私は死体から眼を離さないまま部屋の隅まで移動し、動画を撮影する為にスマートフォンを壁に立て掛けた


程なくして、撮影開始を意味する効果音が聞こえる

私は死体に背を向けた

直ぐに何者かが私のジャケットの裾を掴むのが解った

振り向く、死体が倒れる


私は走って部屋の隅に向かうと、撮影を停止し動画の再生を始めた



記録されていた映像も、別段理に適うものでは無かった

ばかりか、視終えた後で私はいらいらと頭を抱えてうずくまった


映像には『死体を引き起こして、自分の服の裾を掴ませる自分』が鮮明に映されて居た



───なんだ、これは?


何が起きているのか、まるで解らない


頭の中を様々な想像がぐるぐると巡った

それらはいずれも、結論へと辿り着く内容のものでは無かった


それでも思考する事を抑えられない

焦燥が湧き上がる

ふとした瞬間に爆発しそうな程に、それは私の中で溢れかえっていた


急に視界が、うっすらと暗くなる

何事かと私は正面を視上げた



頭の割れた死体が、明確に背筋を伸ばした姿勢で直立をして私の前に表情も無く立っていた

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