『転生したら握力がギガトン超えてて、鉛筆がダイヤになって世界経済クラッシュした件』
──この右手は、ただの手ではない──
目を閉じれば、あの衝撃が蘇る。
あの日。
体育の握力測定で、グリップを握っただけなのに――
「バキィィィィィンッ!!!」
爆発音。
粉々になった測定器。
吹き飛ぶ教師。
悲鳴を上げるクラスメイト。
そして。
俺は、握力で自分の心臓を握り潰して死んだ。
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「君は……すごく……おもしろい死に方をしたね」
白い空間に現れた神が、笑っていた。
「転生するかい?」
俺はうなずいた。
「でもな、神様。頼みがある」
「ほう?」
「もっと……握りたい」
「なるほど。握りたいのか」
「ああ。世界を。運命を。経済を……この手でッ!!」
「いいだろう。では、お前にはこのスキルを与えよう――」
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【スキル名】握力・無制限変質
【効果】触れたあらゆる物質に対し、握力を通して分子・原子・経済的価値を再定義する。
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こうして、俺の異世界転生が始まった。
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初日。
俺は市場で鉛筆を拾った。
見た目はただの木製の鉛筆。
芯が欠けかけて、地味で、誰も振り向かないような“しがない文房具”。
だが、それを握ったとき――
「グゥゥゥウウ……」
地鳴り。
空気が揺れ、光がねじれる。
「なんだ!? 空間が……割れているッ!」
そして――芯が、光った。
ーーーグラファイトーーーッ!!!
それは、炭素のみで構成される神秘の物質!
自然界に存在する、限界を超えた硬度ッ……!
「くっ、これ……再結晶してる!? 高圧環境じゃないのに!?」
隣で見ていた鍛冶師の老婆が絶叫する。
「まさか……まさかお前、素手でグラファイトを……“ダイヤモンドに変えた”のかァァァ!!?」
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【生成物】握成結晶体
【硬度】モース硬度∞(神の手認定)
【市場価値】1個で国家予算10年分
【副作用】通貨価値の崩壊
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この世界には“金貨”という基軸通貨がある。
だが、俺が生み出したダイヤモンドはその価値を遥かに凌駕した。
国王は震え、経済学者は発狂し、商人たちはペンを握りしめてこう叫んだ。
「すべての鉛筆を買い占めろォォォオオオ!!!」
かくして、世界は“鉛筆戦争”へと突入した――。
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### ■経済連合騎士団 vs 握力
王国は動いた。
俺を封印すべく、国家直属の最強部隊――
《四天王》を送り込んできた。
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◆第一の四天王《金剛のギルドー》
全身を金剛石で覆い、絶対の防御を誇る守護の巨人。
「我が盾を貫ける者など、この世に存在しない!」
俺はその金剛装甲を見て、つぶやいた。
「……炭素だな」
「なにっ……?」
俺の右手が、ギルドーの胸を“握る”。
**ズグンッ!!!**
「ぬあああああああああ!!!???」
砕ける金剛石。内部構造が“逆結晶”して崩壊する。
【勝負あり】
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◆他四天王《錬金のメルメリア》《重力のゴラヴィス》《黒鉄のアモン》
「あなたのダイヤモンド、我々がつぶしてあげる」
「無理だ」
「えっ」
「俺のダイヤは、“市場価値そのもの”だ」
「な、何を言って……きゃあああああっ!」
俺が差し出したのは、鉛筆の芯
そのイラストを“握った”瞬間――
全てがダイヤになった。
「ぬわああああああああ……!?」
【勝負あり】
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四天王が倒れた瞬間、各国の株価が大暴落。
紙幣の信用は消し飛び、通貨は“鉛筆”へと回帰する。
「もう金じゃ買えねえ……握れ!! 鉛筆を握るんだ!!!」
革命が起きた。
各国が【握力学園】を設立し、若者たちに“握る力”を教育しはじめた。
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そのとき、空に文字が浮かぶ。
《グリップ・フォービドゥン:封印完了まで残り72時間》
俺の右手に、聖印が刻まれる。
だが俺は静かに笑った。
「“ここ”は終わる。でも、“次”がある。握るべき世界がまだ残っている」
そして俺は地面に“鉛筆”を突き刺した。
その瞬間、光が走る。
地中深くから、何かが呼応したように……“現代日本”が震え始めた。
──握力よ、伝説へ──
篠崎 総司
“封印されし握力”の持ち主。
そして今――
現代に帰還した。
### ビル街の中心で“何か”が握られた
東京都新宿区、午前9時32分。
サラリーマンたちが足早に歩く中、異変は突如として起きた。
「え……ビル、揺れてない……?」
誰かが言ったその瞬間――
バキィィィィィンッ!!!
新築のガラス張りビルの中心から、音がした。
いや、「音」ではない。「悲鳴」に近い構造音だった。
鉄骨が“悲鳴を上げている”のだ。
そこに、ひとりの男がいた。
スーツでもない。作業着でもない。
ただの、白いTシャツに黒いジャージ。
そして、その手には……
「えっ、あれ……鉛筆……?」
### 鉛筆オタクの現場解説
その場にいたのは、高校二年の鉛筆オタク男子、永坂トオル。
鉛筆YouTuberに影響され、日々鉛筆を指で回しているタイプだ。
だが、彼は見た。
男が握っている“あの鉛筆”。
「まさか……いや、そんな……でも、でもッ!!」
トオルは震える声で言った。
「お、おい! お前ら逃げろ!! あれ……伝説の“HB”だぞッ!!!」
「……は?」
「鉛筆の芯……そう、**黒き結晶の精霊ッ!!**
炭素原子が整列し、喜び、共鳴して生まれた層状結晶体……。
大学研究でも使われ、論文にも発表される“工業の華”ッ!!
だがこの男が握れば、それはッ!!
もはや文房具ではない! 兵器だッッ!!!」
その時すでに、男――篠崎総司は、鉛筆を握っていた。
### 新宿崩壊
「……ただの文房具だと思ったか?」
男の右手が、鉛筆を軽く握る。
ギュッ……パキィン!!
……鉛筆の芯が砕けた。
だがその破片が、空中に浮かび、光を放ち始める。
「な、なんだこれ……」
見上げた人々の目に、あり得ない光景が映る。
鉛筆の芯が、空中で結晶化している。
一つ、二つ、五つ……百。
無数の小さな“ダイヤ”が、空中を漂い始める。
だが、誰も触れられない。
なぜならその空間全体が、“握られている”のだから。
ビルは傾き、道路が沈む。
「な、なんだコレ……“地面が、握られてる”……?」
地中深くまで圧縮されるような感覚。
トオルは膝をつきながらつぶやいた。
「これが……“ギガ・グリップ”……っ!!」
### :文具業界の震撼
その日を境に、鉛筆が再び金融資産として注目を浴びる。
「HB銘柄、急上昇です!!」
「ステッドラー社が国家予算規模の株価にッ!!」
「シャープペン? 邪道です!!」
政府は緊急対策会議を開き、「文具通貨管理庁(BMA)」を発足。
現金の代わりに“鉛筆券”が流通を始めた。
### 最後の台詞
東京湾に新設された封印神殿。
その中心に、再び“篠崎 総司”が収められようとしていた。
だが、彼は呟いた。
「なあ……まだ書き終わってないんだよな」
その目は、遠くを見ている。
鉛筆で何かを“書こう”としていた。
それは“名前”か、“物語”か、それとも――“この世界の次のルール”か。
書くこととは、世界を書き換えること。
それを、誰よりも理解している男。
名前は――篠崎 総司。
握ったのは鉛筆。変えたのは、世界そのもの。
そして、封印の儀が終わった瞬間。世界中の紙に、同時に“一本の縦線”が刻まれた。
その線は、まだ続いている。
──物語は、書きかけのままだ。