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平凡な者の異世界旅  作者: 悠遊之抽


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第85.5章: 酔月の夜 ―金貨28枚の代償―

AI Animonで「シャルルマン」を描いてみました!Pixivにアップしたので、よかったら下のリンクから見てみてくださいね~


https://pixiv.net/users/115760361/illustrations

風間伊佐が一階に降りると、ケンが床に大の字になって酔いつぶれていた。顔は真っ赤、全身からは強烈な酒の匂いが立ち込め、ろれつの回らない舌でうわ言のように呟いていた。


「ミナミ……行くな……もう一杯だけ、付き合ってくれよ……」


風間伊佐はしゃがみ込み、彼を軽く揺すりながら声をかけた。


「ケン、もう遅いよ。帰ろう」


そのときだった。ケンが突然起き上がり、風間伊佐に抱きついてきた。


「だめだ! ミナミ、行かないで! まだ一緒にいたいんだぁ〜!」


叫びながら、ケンは唇を尖らせて風間伊佐の顔にぐいぐいと迫ってくる。


「ちょ、やめろって! 俺はミナミじゃない! ケン、正気に戻れよ!」


風間伊佐は顔を両手で全力でガードし、唇の尊厳を必死に守ろうとした。


だが、酔っ払いのケンの力は予想以上に強く、手を押しのけてさらに迫ってくる。


「ミナミ〜〜〜……」


「やめろおおおおお!!!」


ついに堪忍袋の緒が切れた風間伊佐は、渾身の力でケンを突き飛ばした。


「ミナミ……」


床に転がりながらも、ケンはなお夢の中の名を呟き続けていた。


「まったく……」


風間伊佐はその人型の泥を見下ろし、深いため息をついた。


「お客様、お帰りですか?」


背後から、サブリナの落ち着いた声がかけられた。


振り返った風間伊佐は、苦笑いを浮かべて答える。


「ええ……ただ、うちの仲間がこの有様でして……」


「お気になさらず。ケン様はここで休ませておきましょう。酒が抜ければ、自分でお戻りになりますわ」


そう言って、サブリナは優雅な足取りで近づいてきた。


「ところで、お客様。アスタルテの今夜のおもてなし、いかがでしたか?」


その名を聞いた瞬間、風間伊佐の脳裏に、月明かりが差し込む部屋と、穏やかな語らいのひとときがよみがえった。酒に任せて互いの過去を語り合った、忘れがたい夜だった。


「……はい。とてもよかったです。たくさん話して、気持ちが軽くなりました」


「そうですか……」


サブリナは意味深に微笑みながら、帳場の方を指差した。


「それでは、お会計をお願い致します」


案内されるままに帳場へ向かい、差し出された明細書を手に取った風間伊佐。中を見た瞬間、彼の呼吸が止まった。


包間利用料:金貨5枚

アスタルテ指名料:金貨10枚

特製料理:金貨1枚

酔月醸〈すいげつじょう〉(最高級品)4杯:金貨12枚

合計:金貨28枚


「……っ!」


風間伊佐の脳内で警報が鳴り響く。急いで自分の世界の通貨に換算すると、およそ三千万円──かつての仕事では数年かけてようやく貯められる額だった。


「や、やばい……」


動揺しながら、彼は財布の中身をすべてぶちまけた。


「じゃらじゃらじゃら——」


銀貨と銅貨が鈴のような音を立て、テーブルの上に小山のように積み上がる。


「いち、に、さん……」


必死で数えていくが、数えるほどに不安が募っていく。


(……絶対、足りない)


サブリナはそんな風間伊佐を静かに見つめている。目の奥には一切の感情の揺らぎがなかった。


「銀貨百四十七枚……銅貨二十三枚……」


数え終えた風間伊佐は、声を震わせて報告した。


「二枚の金貨にも届かないですね……」


サブリナは事実を淡々と告げた。


「す、すみません! これだけあれば足りると思ってたんですが、まさか……!」


深々と頭を下げる風間伊佐。


確かに、この額があれば街の食堂では何度も贅沢な食事ができる。しかし、ここは“浮世仙月”。贅を極めた歓楽街である。ましてアスタルテがいる最上階ともなれば、次元が違った。


「ふふっ……」


サブリナの笑い声が静かに響く。


「お客様、その額は街ではなかなかのものですが──」


彼女は請求書の「28」という数字を指でトントンと叩きながら、やわらかく言った。


「浮世仙月では、それでようやく“端数”ですのよ」


その言葉は氷水のように風間伊佐の背筋を駆け抜けた。


「す、すみません……そんなに高いとは……」


「……うちは、ツケは受けておりません。でも、ケン様のご紹介ですし、特別に配慮いたします」


サブリナは彼の全身を観察するように見つめたあと、やわらかく訊いた。


「宮廷で、何かご高名な立場におられるとか?」


「……まあ、それに近い感じです」


勇者という身分を明かしたくない風間伊佐は、曖昧に答える。


「では、特別に……」


サブリナが手を叩くと、すぐに侍女が羊皮紙と羽根ペンを持って現れた。


「こちらに、借用書をご記入ください」


そう言って羊皮紙を差し出すと、風間伊佐は安堵の息をつきながらも慌てて筆を取った。


「明日には必ず持ってきます!」


「ご無理なさらず、一週間ほどお待ちしても構いませんよ?」


「いえ、明日です! 必ず!」


そう言って、風間伊佐は借用書に名前を書いた。


「……マックス、様?」


サブリナが小さく読み上げると、風間伊佐は軽く頭を下げて答える。


「すみません、それが本名です。先ほどまで偽名を使っていたのは、身分を隠したかっただけでして……どうかご内密に」


「承知しました、マックス様」


サブリナはにっこり微笑み、深々とお辞儀をした。


「では、期日までにお支払いをお待ちしております。万が一、支払いが滞った場合は……ご紹介者であるケン様に代わって頂くこともございますので」


「は、はい……ちゃんと返します……」


こうして、サブリナに頭を下げた後、風間伊佐は王宮へと向かって歩き出した。


月夜の街にはまだ灯りが残り、男女の笑い声が夜風に乗って響いていた。だが、バスリグの多くの通りはもう夜の帳に包まれ、人々は明日の生活のため、眠りについていた。


ひんやりとした風が、ほんの少し酔いを冷ましてくれる。


風間伊佐は空を見上げ、ぽつりと呟いた。


「一晩で三千万円かよ……」


思い出すだけで、身震いせずにはいられなかった。


◆◆◆風間伊佐の部屋◆◆◆


部屋に戻ると、アンナとジェミットの姉弟がベッドに寄り添って眠っていた。布団もかけずに、身を寄せ合って。


「まったく、こんな格好じゃ風邪ひくよ……」


そっと布団を手に取ってかけようとしたその時、アンナが寝言のように呟いた。


「マックスお兄ちゃん……行かないで……」


風間伊佐の動きがぴたりと止まった。


そして数秒後、優しく二人に布団をかけ、髪をそっと撫でながら囁いた。


「待ってるうちに眠っちゃったんだね。大丈夫、兄ちゃんはどこにも行かないよ」


訓練でかいた汗のにおい、酔月醸の酒の香り、アスタルテの仄かな香粉の匂い──三つの香りが入り混じる自分の体を嗅いで、伊佐は顔をしかめた。


「……これはさすがに臭いな」


子供たちを起こさないようにと、ソファにそっと横になり、そのまま深い眠りに落ちた。


-------------------翌朝-------------------


「マックスお兄ちゃん……マックスお兄ちゃん……」


優しい呼びかけに目を覚ました風間伊佐は、ぼんやりと天井を見上げた。


「……もう朝か?」


「マックスお兄ちゃん、起きた?」


声のする方に目を向けると、そこにはアンナの笑顔があった。


「おお、アンナか。おはよう」


「昨日、ジェミットと一緒にお兄ちゃんを待ってたの。でも、いつの間にか眠っちゃって……ごめんなさい」


「気にしないで。遅くなったのはこっちだから。これからは、無理して起きてなくていいよ」


「うん! あのね、昨日の夜、お兄ちゃんどこ行ってたの?」


「えっと……」風間伊佐は目を逸らしながら言った。「友達と夜ご飯食べて、ちょっと話をしてたんだよ」(まさか遊郭に行ってたなんて言えない……)


なんとかごまかしつつ、子供たちと一緒に食堂へ向かった。


「おはよう、勇者殿」


エリザベートが声をかけてきた。近づいてきた彼女は、犬のようにくんくんと伊佐の周囲の匂いを嗅いだ。


「昨日、お酒飲んだんですね? それに……香粉の匂いもします」


「げっ……! 昨日、騎士団の仲間と一緒に食堂に行ったんだけど、多分お店の香だよ!」


動揺しながら距離を取る伊佐。これ以上詮索されてはたまらない。


食事を終えた後、風間伊佐はシャルルマンの元へ近づき、小声で耳打ちした。


「陛下、執務室で少しだけお時間いただけますか?」


「ん? かまわんが……何やら妙に神妙な顔だな」


「それは、あとで説明します」


まるで後ろめたいことをしているような態度に、シャルルマンは首をかしげながらも頷き、二人で執務室へと向かった。


扉が閉まった瞬間──


「……では、話してもらおうか」


「申し訳ありませんっ!!」


風間伊佐は勢いよく土下座した。


「な、なにをする!?」


椅子から飛び上がりそうになったシャルルマン。


「陛下、28枚の金貨をお借りしたいのです!」


「28枚!? 一体何にそんな金額を!?」


「そ、それが……昨日、“浮世仙月”でツケをしてしまいまして……」


目を逸らしながら、風間伊佐は小さく言った。


数秒、部屋の空気が凍りついた。


「なっ……お前、そんな所で一晩で28枚も!? 正気か!?」


怒声が響き渡る。


「“勇者”としての名声、王室の体面、全部台無しになるぞ!? 何してるんだ、お前はっ!」


「わ、わかってます……でも、あんなに高いとは……」


伊佐は深く頭を下げた。


シャルルマンは執務室を行ったり来たりしながら、ため息を吐いた。


「……仕方ない。浮世仙月は裏の繋がりも多い。下手に揉めると厄介だ」


立ち止まり、鋭い視線を向ける。


「今回だけだ。私が肩代わりしよう。だが、二度とこんなことを繰り返すな」


「はいっ! 絶対に二度としません!」


侍従に金貨を取りに行かせたシャルルマンは、椅子に戻って腰を下ろした後、少しだけ声を落として尋ねた。


「……それでだ。浮世仙月って、実際どんなところなんだ?」


「え?」


風間伊佐は驚いて顔を上げた。


「いや、私が行くのは立場的にちょっとな。でも、正直……気にはなってたんだ」


「……やっぱり、陛下もそういうのに興味あるんだな」


内心でそう思いつつ、風間伊佐は昨夜の出来事を語り始めた。


「えっ!? 個室が5枚!? それってもう盗賊じゃないか!」


「しーっ! 陛下、声!」


その後も、風間伊佐の説明にシャルルマンの驚きと怒りの声が、執務室にこだました。


祝:

金貨1枚=銀貨100枚

銀貨1枚=銅貨100枚

銅貨1枚はおよそ100円

アリアン(Arian):


主人公と仲間:

風間かざま 伊佐いさ〔MAX〕

リック(Rick)

エマ(Emma)

レイチェル(Rachel)



世界・国家:

休ジェスト(ヒューゲスト)〔世界名〕

アレクス王国アレクス



王族・王宮関係者:

シャルルマン・ハンスウォーケン〔国王〕

エリザベート・ハンスウォーケン〔王女〕

ウォリック・ハンスウォーケン〔第一王子〕

ジフク・ハンスウォーケン〔第二王子〕

クリス・ハンスウォーケン〔第三王子〕



宮廷・騎士団関係:

リゼス・アンコベル〔首席女神官〕

アルドフ・ツァイコロフ〔宰相〕

アルドフ・ツァイコロフ〔騎士団長〕

マイヤー・オギリテ〔騎士団副団長〕

アリアン・レフォルト〔魔法騎士団長〕

カフス・フォンデシーン〔魔法騎士団副団長〕

ジュリエット・ナスタント〔初級神官〕

ダンブズ・ホークランド〔前大賢者〕

イレス・ヴォジリット〔メイド〕

リチャード・ディオジット公爵〔東方領地領主〕




主人公関係者:

天翔てんしょう〔風間伊佐の騎乗馬〕

養女の庶民の女の子: アンナ

養子の庶民の男の子: ジェミット



他国・神・魔族

東方帝国 ロールス

南方王国 シーク

中土王国 プシス

中土王国 ウランクス

シドレフ・グランシス〔プシス国王〕

プシス公爵 ヒルトン・ヴァルキス

ウランクス公爵 ヴァキル・キルコフ

魔族将軍 クラシド

魔族魔法将軍 シフィス



神:

光の神 エリクス(エリクス)

大地の神 ディートラ(ディートラ)




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