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平凡な者の異世界旅  作者: 悠遊之抽


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第84章: 月下の仙女

AIの「Animon」でキャラクターイラストを何枚か描いてみました。

ご興味のある方は、ぜひ下のリンクから私のPixivを覗いてみてくださいね!


https://www.pixiv.net/users/115760361/illustrations

風間伊佐は、少女に導かれるまま建物の階段を上り、二階へと足を運んだ。


二階にたどり着くと、目に映った光景は一階とはまるで異なっていた。ここは明らかに、より上等な客人のための区域だった。一階の開放的な広間とは違い、そこは広く静かな回廊で、両側には屏風で仕切られた半個室の雅座が並んでいる。客たちは皆、品のある衣服を纏い、落ち着いた口調で談笑していた。空気にはほのかな芳香が漂い、女性たちも洗練され、化粧は繊細で、立ち居振る舞いにも品があった。彼女たちは絶妙な距離感を保ち、媚びることなく、自然に人を惹きつける。


少女はそこでも足を止めず、伊佐をさらに上の階へと導いた。


三階に足を踏み入れると、そこにはわずかな扉だけが静かに並んでいた。どれもが精緻な装飾を施された特別室──この場所こそが、「浮世仙月」の最上層。王国において特権を持つごく限られた者たちのために用意された、特別な空間だった。


少女は、月光花の彫刻が施された一枚の扉の前で立ち止まった。彼女はノックもせず、静かに膝を折り、恭しく声をかけた。


「アスタルテ様、お客様をお連れしました」


「カタカナ、お客様をお通しなさい」


部屋の中から聞こえたのは、澄んだ声にかすかな艶を帯びた、まるで音楽のような声だった。その声には不思議な魔力が宿っているようで、やわらかに、しかしはっきりと伊佐の耳に届いた。


その言葉を受けて、カタカナと呼ばれた少女は静かに扉を開けた。


部屋の中では、幾つかの燭火がやさしく揺れ、窓から差し込む月光が床に白く映えていた。一階の賑わいと対照的に、ここは静かで、どこか神聖な雰囲気さえ漂っていた。


調度は控えめながら洗練されており、中央の木製のテーブルには美しい彫刻が施されている。奥には品格ある寝台が置かれ、窓の外には満月と星がきらめいていた。部屋にはほのかに清らかな香りが漂い、心を落ち着かせる。


そして、月明かりの差し込む窓辺に、一人の女性が背を向けて立っていた。


腰まで流れる艶やかな黒髪は、まるで絹糸のように滑らかで、その間にほのかな光がきらめいているように見えた。彼女は静かに立ち尽くし、優雅でありながら、自然の中に溶け込むような気配をまとっていた。


伊佐は思わず見とれてしまい、その場に立ち尽くしてしまった。


「どうぞ、お入りください」


カタカナの声で我に返り、伊佐はおずおずと部屋の中へと足を進めた。


彼が部屋に入ると、背後の扉は静かに閉じられ、残されたのは、伊佐とその背中だけだった。胸の内で、なにかが静かに軋み始めた。


まるで彼の視線を感じ取ったかのように、彼女はゆっくりとこちらに振り返った。


その瞬間、風間伊佐の呼吸は止まった。


それは言葉では言い尽くせないほどの美しさだった。匠の神が月の光から作り出したかのような、幻想的な顔立ち。月明かりに照らされる黒髪は輝き、蒼玉のような瞳がこちらを見つめていた。俗世の美の基準を遥かに超え、まさに月の宮殿から舞い降りたかのような存在──尊く、どこか遠く、そして神秘的。


その澄んだ瞳は、何もかもを見通すような静けさを宿しながらも、不思議と圧迫感はなかった。


「ようこそ。私はアスタルテと申します」


月下の仙女、アスタルテが、やわらかく口を開いた。


「お、おぉ……こんにちは、ぼ、僕は……カザ……マイケルです!」


風間伊佐は緊張のあまり、名乗りの途中で声が裏返ってしまった。


「どうぞ、お構いなく。まずはお掛けください」


アスタルテは微笑みながら、優しく座席をすすめた。


「は、はい……」


伊佐はぎこちない動きでテーブルのほうへ進み、促された席の向かい側に腰を下ろした。


その様子を見たアスタルテは、ふと微笑むと、テーブルに置かれた茶器を手に取り、彼の隣へと近づいた。そしてそっと身を屈め、茶を注ぎ始めた。


二人の距離は一尺もなかった。ふとした仕草の中で、彼女の胸元がわずかに見え隠れし、優しい香りが風間伊佐の鼻をくすぐった。彼の心は、不意に波立った。


「どうぞ、温かいうちに」


アスタルテはそのまま彼の隣に腰を下ろした。伊佐は思わず視線を逸らし、茶杯を手に取って気を紛らわせようとした。


「熱っ!」


彼は舌を出して思わず声を上げた。


「ゆっくりで大丈夫ですよ」


「す、すみません……ありがとうございます」


伊佐は照れ笑いを浮かべて答えた。


「ふふっ……でも、勇者様がこんなに慌てるなんて、ちょっと意外でした」


「──っ!?」


伊佐は目を見開いて、アスタルテを見つめた。


「ど、どうして……俺が勇者だってわかったんですか?」


「ママから、『今日お迎えするのは身分の高い方よ』と聞いていました。でも、あなたの様子はどうにも“高貴”というより……」

アスタルテはくすっと微笑んだ。


「それに、マックス様のお姿は、アレクスの方々とは少し違いますから。ですので、ほぼ確信しておりました」


正体を見抜かれた風間伊佐は、苦笑いを浮かべた。


「……そうか。じゃあ、もう隠せないな。でも、ここでは“勇者”の肩書きは、ちょっと面倒を招くかもしれないから……内緒にしてもらえると助かる」


「もちろんです。誰にも言いません」


「ありがとう、アスタルテ。改めて自己紹介するよ。俺の本名は風間伊佐。でも“マックス”って英語名で呼ばれることが多いんだ」


「はい、よろしくお願いいたします。マックス様」


「そんなにかしこまらなくていいよ」


「では、失礼して……ありがとうございます」


先ほどまでの緊張と淡い色気は静かに消え、そこには奇妙な心地よさと、柔らかな距離感が生まれていた。


「マックス様は、なぜ私たちの“浮世仙月”へお越しになったのですか?」


「ある人が、『気を紛らわせるには良い場所だ』って言って、ここに連れてきてくれたんだ」


風間伊佐は小さくため息をついた。


「気を紛らわせる……何か、あったのですね?」


「昨日、騎士たちの葬儀に出たばかりで……その人が、俺の落ち込みを見かねて……」


「……騎士たちの、葬儀……」


アスタルテはその言葉を静かに繰り返し、そっと彼を見つめた。


風間伊佐は自嘲気味に笑いながら、ぽつりと語り始めた。


「……俺は“勇者”だ。戦場では誰よりも前に立つべき存在なのに……俺は、逃げた。俺を守ろうとした多くの騎士たちが、魔族の刃に倒れた。葬儀で、その家族たちが泣き崩れるのを見て……」


その声は次第に弱くなり、力なく、疲れきった響きを帯びていた。


こんな風月の場でこんな話をすれば、きっと慰めの言葉か、あるいは気まずい沈黙が返ってくる。伊佐はそう思っていた。


だが、アスタルテの反応は、そのどちらでもなかった。


サファイアのようなその瞳に、同情もなければ、軽蔑もない。ただ静かに彼を見つめるその眼差しは、あまりにも穏やかで――かえって伊佐の胸をざわつかせた。


しばらくして、彼女は小さく息を吐き、そっと口を開いた。


「……そういうことだったのですね」


アスタルテは静かに続ける。


「人々は“勇者”という冠をあなたの頭に載せました。だから誰もが当然のように、あなたが神であるかのように振る舞うことを求めた。でも――彼らは忘れていたのです。神には鼓動がなく、人間にはある。人であるなら、恐れるのは当たり前のことです」


風間伊佐ははっとして顔を上げ、驚きの目で彼女を見つめた。


アスタルテは慰めもしなければ、励ましもしなかった。ただ、彼の痛みの核心を――“凡人”としての弱さと、“勇者”という称号の間にある深い断絶を、正確に言い当てた。


彼女は立ち上がると、部屋の隅にある棚から数枚の花びらを取り出し、テーブルに戻って彼の茶に静かに浮かべた。


花びらは湯に触れるとふわりと開き、心を落ち着かせるような優しい香りを漂わせる。


「月光花の花びらです」アスタルテは囁くように説明した。「乱れた心を、少しだけ穏やかにしてくれるんです」


風間伊佐は茶の中に舞う花びらを見つめ、その香りを静かに吸い込んだ。胸の奥に溜まっていたものが、ほんの少しだけ軽くなったような気がした。


アスタルテは再び彼の隣に腰を下ろし、柔らかな瞳で言葉を紡いだ。


「浮世仙月に来られる方々には、それぞれの理由があります。一時の快楽を求める人、昼の策略から逃れたい人、そして……ただ誰にもならなくていい、静かな場所を求める人」


「人は皆、仮面をかぶって生きています。策を巡らす将軍が、戦で散った魂に夜通し涙し、権力を握る大臣が、誤った決断に心から後悔することもある。人々は彼らの栄光だけを見て、その裏にある傷や恐れには気づかないのです」


その言葉を聞いて、伊佐は顔を上げた。目の前にいるのは、月明かりに映えるような美しさを持つ女――だが、その口から紡がれる言葉は、あまりにも人の心に届くものだった。


「だからこそ、マックス様」


アスタルテの眼差しは澄みきっていて、すべてを見透かすかのように伊佐を見つめていた。


「あなたの痛みの本質は、悲しみではありません。“勇者”という名に応えられなかったと思うこと――命を懸けてあなたを守った騎士たちに、報いることができなかったという、その想いなのです」


風間伊佐は何か言おうとしたが、言葉が出なかった。彼女の言葉は、あまりにも的確だった。


彼は深くうつむき、肩を小さく震わせる。その姿は、まるで自分の存在を影の中に押し込もうとするかのようだった。


アスタルテは彼から目を逸らさず、静かに、しかしはっきりと語った。


「マックス様。その痛みの重さは、あなたにしか分かりません。他人には、どんなに寄り添っても、その重みを等しく背負うことはできない。“忘れろ”とか“前を向け”なんて言葉は――まだ血を流しているあなたには、あまりにも残酷です」


彼女はそっと首を振った。蝋燭の灯りが、彼女の瞳に揺らめいた。


「私は、あなたの傷に触れることはできません。それは私のものではないから。ただ……少しでも痛みを和らげるお茶を一杯、そしてここで――誰にも邪魔されない静かな時間を、あなたに捧げたいと思っています」


その言葉は、伊佐の心の奥底に灯りをともすようだった。張りつめていた神経が、ふっと緩んでいくのを感じた――その時だった。


「ぐぅぅぅぅ……」


場違いな音が、静寂を破った。


「……あっ、ごめん……」


風間伊佐は赤面しながら言った。一階で果物と酒を少し口にしただけで、まともに食事をとっていなかったのだ。


アスタルテはふっと笑い、その微笑みは月光花のように、部屋の空気を柔らかく照らした。


「マックス様、お食事をお持ちしましょうか?」


「……うん、お願い……」


「フィエル」


アスタルテは扉の外に向かって呼びかけた。


「お客様に、お食事をお願い」


「はーい」


外から返事が返り、足音が階下へと遠ざかっていった。


「そういえば……」


風間伊佐はふと思い出したように言った。


「さっき、成績が悪いと罰を受けるって聞いたけど?」


「ええ、そういう決まりになっています。どうかされましたか?」


「いや、その……下で二人の娘さんに接客してもらったんだけど、すぐに呼ばれてこっちに来ちゃって……。それじゃあ、あの二人が損をしちゃうような気がしてさ。今回の分、少しでも彼女たちの売上に入れてもらえないかなって」

(昔、会社で営業の先輩が、もう少しで契約できそうだった案件を、急に他の人に取られて……また一からやり直しになったことがあってさ。その時、すごく気の毒に思ったんだ)


風間伊佐の言葉に、アスタルテのサファイアのような瞳が一瞬揺れた――が、すぐに元の穏やかな笑みに戻り、そっと言った。


「……なんて、変わった勇者様でしょう。ご安心ください、私がきちんと対応しておきます。でも……」


アスタルテは身を少し乗り出し、月のような瞳を細めて微笑む。その声は、少しいたずらっぽい響きを含んでいた。


「その代わり……もっとたくさんご利用していただきますからね、勇者様♡」


アリアン(Arian):


主人公と仲間:

風間かざま 伊佐いさ〔MAX〕

リック(Rick)

エマ(Emma)

レイチェル(Rachel)



世界・国家:

休ジェスト(ヒューゲスト)〔世界名〕

アレクス王国アレクス



王族・王宮関係者:

シャルルマン・ハンスウォーケン〔国王〕

エリザベート・ハンスウォーケン〔王女〕

ウォリック・ハンスウォーケン〔第一王子〕

ジフク・ハンスウォーケン〔第二王子〕

クリス・ハンスウォーケン〔第三王子〕



宮廷・騎士団関係:

リゼス・アンコベル〔首席女神官〕

アルドフ・ツァイコロフ〔宰相〕

アーサー・リチャード〔騎士団長〕

マイヤー・オギリテ〔騎士団副団長〕

アリアン・レフォルト〔魔法騎士団長〕

カフス・フォンデシーン〔魔法騎士団副団長〕

ジュリエット・ナスタント〔初級神官〕

ダンブズ・ホークランド〔前大賢者〕

イレス・ヴォジリット〔メイド〕

リチャード・ディオジット公爵〔東方領地領主〕




主人公関係者:

天翔てんしょう〔風間伊佐の騎乗馬〕

養女の庶民の女の子: アンナ

養子の庶民の男の子: ジェミット

浮世仙月の花魁: アスタルテ




他国・神・魔族

東方帝国 ロールス

南方王国 シーク

中土王国 プシス

中土王国 ウランクス

シドレフ・グランシス〔プシス国王〕

プシス公爵 ヒルトン・ヴァルキス

ウランクス公爵 ヴァキル・キルコフ

魔族将軍 クラシド

魔族魔法将軍 シフィス



神:

光の神 エリクス(エリクス)

大地の神 ディートラ(ディートラ)




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