第82章:逝きし者たちとのお別れ
アーサーの言葉に背中を押され、風間伊佐は再び騎士たちと共に、戦死した仲間の家族を一軒一軒訪ね歩いた。流れる涙と深い悲しみに直面するたび、伊佐の胸は締めつけられたが、アーサーの言葉が常に彼の心に在り続けた。
――この痛みを、心に刻め。この痛みこそが、彼らが何のために戦ったのかを教えてくれる。
それは、大切な人を守るため。
涙のない世界を築くため。
――あなたが、彼らの未完の理想を継ぎ、導くのです。
アーサーの声が、今も心に生きていた。
伊佐は心の中で何度もその言葉を反芻し、悲しみに暮れる人々の顔を魂に刻み込んでいった。もう、目を背けることはなかった。
◆◆◆ 一週間後 ◆◆◆
一週間にわたる訪問が終わり、風間伊佐と騎士たちは、仲間に最後の別れを告げるため、王家墓所で行われる合同葬儀に参列した。
荘厳な祭壇の前に立ったリゼスの声が、静寂の空気に重く響き渡る。
「尊き光の神・エリクスよ。我らアレクスの民は本日ここに集い、ただ戦士たちの死を悼むのではなく、決して消えることのない忠誠と栄光を見届けんがために、祈りを捧げます」
「彼らの剣は正義の手となり、盾は弱き者の守りとなりました。そして今、無敵であった剣は鞘に納まり、傷だらけの盾も静かに置かれました。我らの心には、鎧の下に刻まれた無数の傷と同じく、深い悲しみが残されています」
「真の力とは、剣を振るう技ではなく、信念を守る意志にこそ宿るもの。彼らの生き様は、勇気と献身で綴られた一篇の英雄譚でした。同胞への無償の愛にその身を捧げ、王国と民のために命を賭して戦い抜いたのです……」
葬儀には、貴族も平民も分け隔てなく参列していた。貴族たちは黒の礼服に身を包み、格式の中に深い悲しみを滲ませていた。平民たちは普段よりも丁寧に整えられた衣服を身に着け、亡き者への敬意を静かに示していた。
だが、身分に関係なく、全ての家族の目には涙があった。
風間伊佐はアンナとジェミットを連れ、騎士団の列に加わり、静かに黙祷を捧げた。
「……勇敢なる騎士たちよ。あなたたちの戦いは、もう終わりました。剣を置き、鎧を脱ぎなさい。あなたたちの家族は、エリクスの光により守られます。地上での使命は果たされ、天の安らぎが今、あなたたちを迎えているのです」
「安らかに眠れ、聖なる魂たちよ。神聖なる光がその旅路を導き、永遠の平和がその傷を癒しますように。私たちは、再び天で会える日まで、ここで祈り続けます」
リゼスの悼詞が終わると、場に重く低いホルンの音が響いた。それは、騎士団が仲間に捧げる最大の敬意を表すものであった。
空気は哀しみに満ち、風には祈りとすすり泣きが混じっていた。神官たちが前に出て、亡き戦士たちに最後の祝祷を施していった。
祝祷が終わると、一部の遺族は故郷での埋葬を望み、王宮はそれに応える形で専用の馬車を手配した。漆黒に塗られた馬車には、王国の紋章と神聖な印が刻まれ、厳粛の中に柔らかな聖光が差していた。
馬車が葬場の門に並ぶと、騎士たちは荘厳な面持ちで、戦友の棺を慎重に運び始めた。その列に、風間伊佐の姿もあった。
棺が馬車に収められると、静かに車輪が回り始めた。かけがえのない誇りと敬意を乗せたその馬車は、故郷への最後の旅路へと出発した。遺族たちはその両脇に寄り添いながら、涙をこらえきれず、すすり泣きながら後に続いていく。
その場に残った人々は、祭壇前に整然と並べられた棺が、ひとつずつ墓穴に下ろされる様子を静かに見守っていた。一鍬一鍬、土が棺の上にかけられる音が、まるで小さな鐘のように、参列者一人ひとりの心に重く響いた。
風間伊佐は、黙ってそれを見つめていた。
元の世界での彼は、もうすぐ三十歳を迎える冴えない男だった。裕福ではなかったが、両親は健在で、生と死の現実に深く向き合った経験はなかった。唯一の葬儀といえば、子供の頃に祖母を見送ったときだけだった。
だが今は違う。死の恐怖を知り、仲間の死を目の当たりにした。だからこそ、今の彼には分かる。死とは何か、涙とは何か、その意味が。
葬儀の場では、白髪の老女が息子の墓前で泣き崩れ、介抱されていた。若き未亡人は、まだ乳飲み子を胸に抱きしめ、静かに涙を落とす。小さな子どもは、かつての伊佐のように死の意味も分からず、ただ泣く母親を見つめ、彼女の服の裾をきつく握っていた。
それはもう、ぼんやりとした「悲しみ」などではなかった。刺すような現実として、伊佐の心に焼きついていた。
彼は、亡き騎士たちの名前と、彼らを想って泣く家族の顔を、深く心に刻み込んだ。ようやくこのとき、アーサーの言った「痛みを感じること」の意味を、本当に理解したのだった。
葬儀が終わっても、人々はその場を離れようとはしなかった。遺族たちは愛する者の墓前に残り、最後の言葉を静かに捧げていた。
伊佐と騎士たちは、そんな光景を黙って見守っていた。
そのとき、伊佐のそばにいたアンナが、そっと彼の服の袖を引いた。顔を向けると、涙で濡れた彼女の頬があった。
「……マックスお兄ちゃん……」
かすれた声で、彼女が言った。
「パパとママに、会いたいよ……」
伊佐は、何も言えなかった。ただそっと、アンナとジェミットを胸に抱き寄せた。
アンナの涙が彼の衣に染み込んでいく。ジェミットは訳も分からず、その光景をじっと見つめていた。
アリアン(Arian):
主人公と仲間:
風間 伊佐〔MAX〕
リック(Rick)
エマ(Emma)
レイチェル(Rachel)
世界・国家:
休ジェスト(ヒューゲスト)〔世界名〕
アレクス王国
王族・王宮関係者:
シャルルマン・ハンスウォーケン〔国王〕
エリザベート・ハンスウォーケン〔王女〕
ウォリック・ハンスウォーケン〔第一王子〕
ジフク・ハンスウォーケン〔第二王子〕
クリス・ハンスウォーケン〔第三王子〕
宮廷・騎士団関係:
リゼス・アンコベル〔首席女神官〕
アルドフ・ツァイコロフ〔宰相〕
アーサー・リチャード〔騎士団長〕
マイヤー・オギリテ〔騎士団副団長〕
アリアン・レフォルト〔魔法騎士団長〕
カフス・フォンデシーン〔魔法騎士団副団長〕
ジュリエット・ナスタント〔初級神官〕
ダンブズ・ホークランド〔前大賢者〕
イレス・ヴォジリット〔メイド〕
リチャード・ディオジット公爵〔東方領地領主〕
主人公関係者:
天翔〔風間伊佐の騎乗馬〕
養女の庶民の女の子: アンナ
養子の庶民の男の子: ジェミット
他国・神・魔族
東方帝国 ロールス
南方王国 シーク
中土王国 プシス
中土王国 ウランクス
シドレフ・グランシス〔プシス国王〕
プシス公爵 ヒルトン・ヴァルキス
ウランクス公爵 ヴァキル・キルコフ
魔族将軍 クラシド
魔族魔法将軍 シフィス
神:
光の神 エリクス(エリクス)
大地の神 ディートラ(ディートラ)




