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平凡な者の異世界旅  作者: 悠遊之抽


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第79章:血と涙の戦士の道

「では、勇者殿。私はこれで、失礼させていただきます」


「はい。また今度お会いしましょう、リチャード公爵」


リチャード・ディオジット公爵は風間伊佐とともに王宮の門を出たあと、互いに軽く礼を交わして別れた。

その背を見送った後、風間伊佐は振り返り、アンナとジェミットに声をかけた。


「さて、アンナ、ジェミット。俺たちも行こうか」


そう言って、伊佐はふたりの手を優しく取って、自室の方へと歩き出した。


歩きながら、アンナはちらちらと伊佐の顔を見上げていた。どうやら、大広間でのやり取りに何か気づいたらしく、ぽつりと尋ねる。


「ねぇ、マックスお兄ちゃん……さっきの広間で、何かあったの?」


伊佐は少し笑って、首を横に振る。


「ううん、特に何も。王様や貴族の人たちと、ちょっとお話しただけだよ」


「王様や貴族とお話……大変じゃなかった?」


「大変ってほどじゃないけど……ちょっと、疲れるかな」


「つかれる……?」


「うん。なんていうか……違う世界に住んでる人たちと話すと、うまく噛み合わない感じがしてさ」


「……そしたら、マックスお兄ちゃんは、いつも疲れちゃうんじゃない? だって、別の世界から来たんでしょ?」


「はは、確かにそうだけど……でも、君たちと話してるときは、全然疲れないよ。俺も、元の世界ではただの庶民だったしね」


そう言って伊佐は笑ったが、心の中では別の思いが渦巻いていた。


(あの貴族たちとは、やっぱり分かり合えない。ああいう“自分だけの世界”で生きてる連中と話すのは、本当に骨が折れる……でも、今それをアンナに話しても分からないだろうな。いつか、もう少し大人になったら伝えよう)


伊佐の笑顔を見たアンナも、少し安心したように微笑んだ。


「よかった……マックスお兄ちゃん、私たちのこと、めんどくさいって思ってないかなって……ちょっと不安だったの」


その笑顔を見た瞬間、伊佐の胸にズキュンと衝撃が走る。


(……くっ、また娘にしたくなる……!)


だが、伊佐の表情は一切崩れず、柔らかい手でアンナの頭を優しく撫でた。


「そんなことあるわけないだろ。君たちに出会えたことは、俺にとって何よりの幸運だよ」


「ほんとに……!?」


「ほんとに、心からそう思ってる」


「えへへ……」


アンナは顔を赤らめてうつむき、嬉しそうに笑った。


「じゃあ、ぼくは? ぼくもラッキーだった?」


隣でジェミットが口を挟む。


「もちろんだよ、ジェミットも入ってるに決まってるだろ〜?」


「やったー!!」


こうして三人は、手を繋ぎながら笑顔で伊佐の部屋へ向かった。


【風間伊佐の部屋・前】


「ここが俺の部屋だよ。さあ、中に入って」


伊佐はドアを開けて、アンナとジェミットを中へ案内した。


中に入ると、メイドのイレスがベッドを整えている最中だった。

物音に気づいた彼女は振り向き、一礼する。


「勇者様、おかえりなさいませ」


「おっ、イレス。久しぶり。元気にしてたか?」


「おかげさまで、何事もなく過ごしております」


そう答えながら、イレスは伊佐の後ろにいるふたりの子どもたちに目を向ける。


「そちらのおふたりは?」


「彼らは私がプシスで保護した子どもたちです。これから私と一緒にここで過ごすので、部屋の準備をお願いします。」


「かしこまりました」


イレスが出て行こうとしたそのとき──


「ま、待って!」


声を上げたのはアンナだった。彼女は俯きながら、小さな声で言った。


「あの……マックスお兄ちゃんと、一緒に寝たいなって……」


「ぼくもー! ぼくも一緒がいいー!」


ジェミットも元気に手を挙げて叫ぶ。


伊佐は苦笑しながら、イレスに目を向けた。


「じゃあこの部屋に、もう一つベッドを用意してくれる?」


「承知いたしました」


イレスは丁寧に一礼して、部屋を後にした。


イレスの姿が見えなくなると、伊佐はふたりに声をかける。


「今日はずっと外にいたから、疲れただろ? 晩ごはんまで少し休むか?」


「うん!!」


ジェミットは元気よく答えると、すぐさまベッドにダイブした。


「わぁ〜〜ふかふか! うちのベッドよりずっといい〜!」


「ジェミット! ベッドで飛び跳ねちゃダメでしょ! 壊れちゃうよ!」


「ねぇ、お姉ちゃん……パパとママ、いつになったら一緒にここに来られるかな? このベッド、すごく気持ちいいから、みんなで寝たいな……」


ジェミットの無邪気な言葉に、部屋の空気が一瞬止まった。


アンナも伊佐も、身体をぴくりと硬直させる。


──まだ幼いジェミットは、「死」というものの本当の意味を理解していない。


あのとき、両親を埋葬する際に彼に伝えたのは、


「パパとママは、長い眠りの魔法にかかっているから、何年かしないと起きられない。邪魔が入らないように、土の中で寝てもらってるんだよ」


……そんな優しい嘘だった。


アンナはジェミットを抱き寄せ、涙をこらえながら静かに語りかける。


「何年かしたら……きっとパパとママ、目を覚ますから。そのときは、みんなでここに来ようね」


そう言って、アンナはジェミットの肩に手を置き、しっかりと目を見て伝える。


「だから、それまでの間は──ジェミット、マックスお兄ちゃんの言うこと、ちゃんと聞くんだよ?」


「うん! ぼく、いい子にしてる! パパとママが起きるまで!」


その言葉に、アンナはもう一度ギュッと抱きしめた。


「えらいよ……ジェミット、ほんとにいい子だね……」


その瞳には、言葉にできない涙が浮かんでいた。


風間伊佐は、ただ黙ってその姿を見つめるしかなかった。

言葉にならない思いだけが、胸に重く広がっていた──




「勇者様!」


その時、後ろから声が聞こえた。風間伊佐が振り返ると、エリザベートが彼の部屋に入ってきた。


「おお、公主様、お久しぶりです」


「……聞いたんですけど……魔将に会ったって、本当ですか?」エリザベートは心配そうに尋ねた。


エリザベートの問いかけを聞き、青い魔族と紫の魔族の姿が再び伊佐の脳裏に浮かぶ。彼はうつむき、低い声で答えた。


「はい……」


「どこか怪我はありませんか?」エリザベートが慌てて尋ねる。


「ない……運よく……逃げられたんだ……」


「ふう……それならよかった……」エリザベートは安堵の息をついた。


「……本当ですか?」


「勇者様、何かおっしゃいましたか?」


「全然よくない。僕は勇者なのに、騎士たちを前に立たせて、自分だけ逃げ出した。彼らを青い魔族に殺されるままにしてしまった……」


「勇者様……」


「もう僕を勇者と呼ばないでくれ……僕にはその資格がない……」


そんな重苦しい空気の中、力強い声が響いた。


「友よっ!」


伊佐が顔を上げると、シャルルマンがやって来た。


「シャルルマン……」


「なんだ、その元気のない顔は?」


「君も聞いたんだな……僕はみんなを置いて逃げた。多くの人があの戦いで僕を守るために命を落とした……」


「そうか?」


「何だよ、その“そうか?”って……よくもそんな軽い調子で言えるな!ジェイソン、ジェイド、ホーク……彼らは僕を守るために、目の前であの青い魔族に殺された。僕には彼らの仇を討つ勇気すらなかった……僕は何の勇者なんだ……」


シャルルマンは彼をじっと見つめ、静かながらも強い口調で言った。


「確かに……君はまだ勇者としては未熟だ」


「父王!」


シャルルマンの言葉を聞いて、伊佐は歯を食いしばり、拳を強く握った。


「それで?君はこのまま自暴自棄になって、彼らの犠牲を無駄にするつもりか?」


「……」


「友よ、彼らの犠牲は何のためだと思う?」


「……」突然の問いに、伊佐は答えられなかった。


「ただ君が“勇者”だからか?最初はそうかもしれない。でも、最後に彼らが命を懸けて守ったのは、君が“勇者”としての潜在能力を持っているからだ」


「勇者の“潜在能力”……?」


「それは単に力があるからじゃない。君が身分に関係なく、見知らぬ庶民のために涙を流せるからだ」


「僕はマイヤーから聞いたよ。プシスの貧民街のこと。君は助けたいと思っていたが、現実に阻まれた。それでも最終的に二人の子供を救った」


そう言って伊佐は振り返り、兄妹を見た。


「騎士たちが命を懸けて君を守ったのは、君の身分だけでなく、世界を変えられると信じていたからだ。苦しむ人々を救うと信じていたからだ」


「でも僕は逃げた……あの時勇気を持って立ち向かっていれば、ジェイソンたちは死ななかったかもしれないのに……」


「そう思うか?」


シャルルマンの問いに、伊佐は驚いて目を見開いた。


「違うのか?」


「ウォリックに一度勝っただけで、もう戦場に立つ資格があると思っているのか?」


「冗談じゃない!」


「戦場は君たちのような遊びじゃない」


「戦場は残酷なんだ!」


「認めよう。君の実力なら戦場で立つことはできる。しかし力だけでは足りない」


「訓練では輝いても、戦場に出て帰ってこられず除隊する者は多い。なぜだ?」


「戦場ではいつも死と隣り合わせで、仲間が次々に倒れていく。叫び声を聞いても何もできないこともある……」


「そんな生と死の狭間で、なお戦い続ける者だけが真の戦士と呼ばれるのだ!」


……


伊佐は少し黙り、大きな声で叫んだ。


「だったら、なぜ僕のような未経験者を戦場に送ったんだ!?僕は力はあっても勇気のない臆病者だ!」


「……申し訳ない」伊佐の問いに、シャルルマンの声が和らいだ。


「今回の主戦線は帝国側だから、君にはまず戦場の厳しさを体験してもらおうと思っていた。直接戦場に立たせるつもりはなかったんだ……まさか魔将が出るとは、油断していた……」


シャルルマンの誠実な謝罪に、伊佐は返す言葉を失った。その時、アンナが彼のそばに歩み寄り、そっと手を握った。伊佐はアンナの心配そうな瞳を見て、ため息をついた。


「結局は……僕がまだ未熟な勇者だからだ……もし勇気を出して戦っていれば、こんなことにはならなかったんだ……」


「そんなこと言わないで。誰だって初めての戦場は慣れない。幾度もの戦いを経て技と意志を磨き、初めて戦士になれるんだから」


「じゃあ……僕もそんな戦士になれるの?」


「もちろん、君はアレクスの勇者だよ」


そう言って、伊佐とシャルルマンは微笑み合い、激しかった会話は互いの絆を強めた。


「さあ、そろそろ食事にしよう」エリザベートが突然言った。


「行こう、友よ」


「行こう」


シャルルマンと伊佐が部屋を出ようとした時、エリザベートは伊佐とアンナのしっかり握った手を見つめていた。すると、嬉しそうな声が響いた。


「ごはんだよ~!」


ジェミットが元気よく駆け寄り、伊佐のもう一方の手を取り、一緒に部屋を出た。


エリザベートは伊佐とアンナの兄妹を見つめながら、心の中でそっと呟いた。


「いいなあ……私も勇者様の手を繋ぎたいな……」

アリアン(Arian):


主人公と仲間:

風間かざま 伊佐いさ〔MAX〕

リック(Rick)

エマ(Emma)

レイチェル(Rachel)



世界・国家:

休ジェスト(ヒューゲスト)〔世界名〕

アレクス王国アレクス



王族・王宮関係者:

シャルルマン・ハンスウォーケン〔国王〕

エリザベート・ハンスウォーケン〔王女〕

ウォリック・ハンスウォーケン〔第一王子〕

ジフク・ハンスウォーケン〔第二王子〕

クリス・ハンスウォーケン〔第三王子〕



宮廷・騎士団関係:

リゼス・アンコベル〔首席女神官〕

アルドフ・ツァイコロフ〔宰相〕

アルドフ・ツァイコロフ〔騎士団長〕

マイヤー・オギリテ〔騎士団副団長〕

アリアン・レフォルト〔魔法騎士団長〕

カフス・フォンデシーン〔魔法騎士団副団長〕

ジュリエット・ナスタント〔初級神官〕

ダンブズ・ホークランド〔前大賢者〕

イレス・ヴォジリット〔メイド〕

リチャード・ディオジット公爵〔東方領地領主〕




主人公関係者:

天翔てんしょう〔風間伊佐の騎乗馬〕

養女の庶民の女の子: アンナ

養子の庶民の男の子: ジェミット



他国・神・魔族

東方帝国 ロールス

南方王国 シーク

中土王国 プシス

中土王国 ウランクス

シドレフ・グランシス〔プシス国王〕

プシス公爵 ヒルトン・ヴァルキス

ウランクス公爵 ヴァキル・キルコフ

魔族将軍 クラシド

魔族魔法将軍 シフィス



神:

光の神 エリクス(エリクス)

大地の神 ディートラ(ディートラ)




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