第73章:勇者と西方連合軍
軍営へ戻る頃には、夜の帳が薄らぎ始め、焚き火を囲むケンたちの姿が見えてきた。彼らは風間伊佐とシヴィドの帰還をじっと待っていた。
「勇者様、お帰りなさいませ」ケンは二人の姿を見つけて声をかけた。
「少女の家族の具合はどうだった?」ジェイソンも続けて尋ねる。
「ひとまずは治療が成功したが、あの家の環境を考えると、これで安心はできない」風間伊佐は答えた。
「どういう意味だ?」ジェイソンが問い返す。
「彼らの暮らしはかなり厳しい。住環境は劣悪で、まともな食事すら満足に手に入らない。今回治せても、次がどうなるか分からないのだ」風間伊佐は言葉を選びながら説明した。
「結局、この問題はプシス王国の政策に行き着く。重税が続く限り、民の貧困や虚弱は変わらない」リックマンが口を挟んだ。
「何とかできる方法はないのか?」ジェイソンが食い下がる。
「それは他国の内政問題だ。我々に干渉する権限はない」リックマンは冷静に答えた。
「そうか……」ジェイソンはため息をついた。
不満げなジェイソンの声が響く中、風間伊佐は遠く昇りゆく朝日に目を向けた。脳裏には、あの少女アナの笑顔が浮かび、拳をぎゅっと握り締める。アナが「勇者様」と呼んでくれたあの声が、まだ心に響いていた。
――
アレクス王国を出発してから約一ヶ月、討伐軍はついに魔族の森に到着した。プシスとウランクス両国の軍は既にここに陣を張り、アレクス軍の到着を待ち望んでいた。
到着後、東方帝国ロールスから派遣された指揮官が率いる騎士団が、風間伊佐たちと顔を合わせに現れた。
「帝国元帥殿、はじめまして。私は今回のアレクス軍指揮官、王国東部辺境領の公爵リチャード・ディオジットと申します」リチャード公爵は丁寧に元帥に敬礼した。
「顔を上げろ、リチャード公爵。貴国もこの人族と魔族の戦いに兵を送ってくれて感謝する」帝国元帥は優しく応えた。
「ありがとうございます、元帥殿。魔族との戦いに参加することは、人族国家の責務だと考えております」
「今回、貴国からも勇者が参戦していると聞いたが?」
「はい、こちらが我が国の勇者でございます」リチャード公爵は横に立つ風間伊佐を紹介した。
帝国元帥の鋭い視線を受け、風間伊佐は一瞬言葉を詰まらせたが、リチャード公爵の合図で口を開いた。
「はじめまして、私はアレクス王国の勇者、風間伊佐と申します。マックスとも呼んでください」
風間伊佐が名乗ると、帝国元帥は無言でじっと観察し、やがて口を開いた。
「お前の容貌はアレクス人とは少し違うな。だが、帝国の勇者に似ているようだ」
「帝国の勇者とは、どのような方ですか?」風間伊佐は好奇心を抑えきれず尋ねた。
「我々の勇者もお前と同じく、黒髪に黒い瞳を持つ。剣術と魔法に長け、前線で魔族と戦う我が軍の要だ」
「そうなんですか……」風間伊佐は心の中で考え込んだ。帝国の勇者も自分と同じ髪と瞳の色――もしかすると同じ世界から召喚されたのかもしれない。
「機会があれば、ぜひお前を帝国の勇者に会わせたい」
「ありがとうございます!ぜひお願いいたします!」
帝国元帥が自国の勇者との面会を約束すると、風間伊佐は即答で承諾した。
「ところで、お前以外にも他国で勇者が召喚されたと聞いている」
「本当ですか?」
「ええ、最近のことだが、まだ訓練中で戦場には出ていない」
帝国元帥の話に、風間伊佐は各国の勇者との出会いを心待ちにした。異世界に一人で来て頼る者がいない自分にとって、同じ世界出身者と会える可能性は心の支えだった。
「勇者マックスよ、貴様は我が国に続き、二国目の参戦勇者だ。期待しているぞ」
「えっ……はい、精一杯頑張ります」元帥の突然の期待に、風間伊佐はぎこちなく笑顔を作って応えた。
「さて、長旅で疲れているだろう。まずはここで休め。明日以降、作戦を話し合って前線へ向かおう」
そう告げると、帝国元帥は騎士団を率いて去っていった。アレクス軍もテントを張り、休息の準備を始める。
テントの中で横になり、天井を見つめる風間伊佐は元帥の言葉を反芻した。
「帝国の勇者も、黒髪黒瞳か……」
「他国でも勇者が召喚されている……」
つまり、この世界で選ばれた勇者は自分だけではない。
「もし彼らも自分と同じ世界から来ているのなら……穏やかな場所で育った彼らは、命をかけて魔族と戦うことをどう受け止めているのだろうか?」
そんな思いが頭を巡り、風間伊佐は手を握りしめた。まだ戦う覚悟ができていない自分に、ため息が漏れる。
「俺は一体何の勇者なんだ……戦う勇気すら持てない……」
「私にはあなたが勇者に見えるよ……」アナの声がまた心の中に響く。
「……それでも、俺はこの世界のために何かをしたいんだ……」
その思いが少し心を軽くし、風間伊佐は目を閉じて深い眠りに落ちていった。
――
翌日――討伐軍本陣にて――
「さあ、紹介しよう。こちらが今回アレクス王国の総指揮官、リチャード公爵と勇者マックスだ」帝国元帥はリチャード公爵と風間伊佐を軍議場へ案内し、プシスとウランクスの将軍たちに紹介した。
「はじめまして、マックス様。私はウランクスのヴァキル・キルコフ公爵です」
「勇者マックス様、プシスのヒルトン・ヴァルキス公爵と申します」
「皆さん、はじめまして。アレクス王国の勇者、風間伊佐です。マックスと呼んでください」
しばしの挨拶の後、軍事会議が始まったが、風間伊佐はヒルトン公爵の視線が自分に長く注がれているのを感じ取った。
「今回の作戦は以前と同じく、各国の魔法師が風の魔法で木々を切り開きつつ、軍は後方で戦陣を敷き、魔族の奇襲に備える」
初めて魔族との大規模な戦い以降、人々は森の中の細い小道だけで進軍すると、地形に詳しい魔族の伏兵に襲われやすいことに気づいた。そこで、その後の戦いでは人族は慎重に戦線を拡大しながら、森林を徐々に開発して前線基地を築く戦法を採用している。
「異議なければ、帝国騎士団とプシス王国軍が中軍、アレクス王国軍が左翼、ウランクス軍が右翼とする……」
その後の軍事会議では、連合軍の陣形や地形、魔族の過去の奇襲記録など細かな議論が続いた。
風間伊佐は一歩引いて静かに耳を傾け、自分が「戦闘」というものからまだまだ遠い存在だと改めて感じていた。
「これにて今日の会議は終了だ。出発は一週間後に決定した」帝国元帥が宣言し、将軍たちは本陣を離れた。
アレクスの軍営へ戻る道すがら、間近に迫る戦いに風間伊佐は次第に緊張を募らせていた。隣にいたリチャード公爵はその様子に気づき、声をかけた。
「勇者様、ご安心ください。戦闘が起きる可能性はありますが、主な攻撃目標は東方のロールス帝国です。もし戦いが起こっても、その規模は大きくないでしょう。それに、陛下の騎士団も護衛についていますから、あまり心配なさらなくて大丈夫です。」
リチャード公爵の言葉に風間伊佐は苦笑しながら答えた。
「リチャード公爵、ありがとうございます。そう言ってもらえると助かりますが、やはりこれが初めての戦場なので、少し緊張してしまいます。」
確かに、風間伊佐の元の世界でも戦争が全くなかったわけではない。しかし、彼が生まれ育った地域では数十年もの間、大規模な戦争は起きておらず、平和が続いていた。そんな彼が初めて直面する戦いに、緊張するのも無理はなかった。
「初めての戦場では誰だってそうなるものだ。私も勇者様と同じだったよ」とリチャード公爵は笑いながら言った。
「本当ですか?公爵様も初めての時は緊張したんですか?」
「もちろんだ。戦場で人が殺し合う凄惨な光景に慣れるのは、誰だって簡単じゃない。」
リチャード公爵の言葉を聞き、風間伊佐は映画で見た戦争の記録映像、兵士が血を流す惨状を思い出し、少し貧血気味になってしまった。
「だからこそ、勇者様、この機会を利用して早く戦場に慣れることだ。それがあなたにとっても、これからの戦いにとっても大きな助けになる。」
リチャード公爵が急に真剣な口調で言うと、風間伊佐は「はい……」と答え、重苦しい心を抱えながら前方を見つめた。まるで空に立ちこめる厚い積乱雲のように、胸の中は抑えきれない圧迫感で満たされていた。
アリアン(Arian):
主人公と仲間:
風間 伊佐〔MAX〕
リック(Rick)
エマ(Emma)
レイチェル(Rachel)
世界・国家:
休ジェスト(ヒューゲスト)〔世界名〕
アレクス王国
王族・王宮関係者:
シャルルマン・ハンスウォーケン〔国王〕
エリザベート・ハンスウォーケン〔王女〕
ウォリック・ハンスウォーケン〔第一王子〕
ジフク・ハンスウォーケン〔第二王子〕
クリス・ハンスウォーケン〔第三王子〕
宮廷・騎士団関係:
リゼス・アンコベル〔首席女神官〕
アルドフ・ツァイコロフ〔宰相〕
アーサー・リチャード〔騎士団長〕
マイヤー・オギリテ〔騎士団副団長〕
アリアン・レフォルト〔魔法騎士団長〕
カフス・フォンデシーン〔魔法騎士団副団長〕
ジュリエット・ナスタント〔初級神官〕
ダンブズ・ホークランド〔前大賢者〕
イレス・ヴォジリット〔メイド〕
リチャード・ディオジット公爵〔東方領地領主〕
天翔〔風間伊佐の騎乗馬〕
他国・神・魔族
東方帝国 ロールス
南方王国 シーク
中土王国 プシス
中土王国 ウランクス
シドレフ・グランシス〔プシス国王〕
プシス公爵 ヒルトン・ヴァルキス
ウランクス公爵 ヴァキル・キルコフ
魔族将軍 クラシド
魔族魔法将軍 シフィス
神:
光の神 エリクス(エリクス)
大地の神 ディートラ(ディートラ)




