第72章:あなたは……わたしの勇者
「お願いです……!子どもたちを、アレクスまで連れて行ってください……!」
声は弱々しかったが、アナの父の目には確かな決意が宿っていた。
「それは……」風間伊佐と西ヴィードは顔を見合わせ、言葉を失った。
「今のプシスの状況は……お二人も街を見てこられたのでしょう? 私たち平民の暮らしは、生きているだけでやっとです。この子たちの未来のために……どうか、アレクスに連れて行ってください」
懇願するような言葉に、風間伊佐は口を閉ざし、思案に沈んだ——だが、その思考を遮るように響いたのは、少女の叫びだった。
「やだ……!パパとママと離れたくない!!」
アナは父のもとへ駆け寄り、その胸にしがみついた。
父は悲しげな、しかし揺るぎない表情で娘の頭を優しく撫でながら言った。
「アナ、いい子だ……パパの言うことを聞いておくれ。アレクスには食べ物もある、ちゃんとした暮らしもある。ここより、ずっと希望があるんだ」
「でも……でもぉ……」
アナは父の胸に顔を埋め、涙をぽろぽろとこぼした。
そんなアナを抱きしめながら、彼は改めて風間伊佐へ頭を下げた。
「……お願いします。アレクスの騎士様……この子たちを、どうか……」
伊佐は苦しげに唇を噛んだ。そして、西ヴィードの方へ顔を向けて問うた。
「西ヴィード……これは無茶なお願いかもしれないけど、彼ら家族全員を……連れて行けないだろうか?」
伊佐の真剣な眼差しを受けて、西ヴィードは数秒間黙考し、そしてため息混じりに言った。
「……ふう。彼ら一家だけなら……なんとかなるかもしれないな」
「本当かい!?」
「貧民街の人間が、数人いなくなったくらいじゃ……あの領主は気にも留めないさ」
その言葉に、風間伊佐はアナの父に向き直った。
「そういうことです。ですから、ご家族一緒に戻りましょう、アレクスへ」
「本当に……いいのですか……?」
「はい。ただし、我々はこれから戦地へ向かいます。アレクスへ連れて行くのは帰還のときになります。それまでは、どうか他言無用でお願いします」
西ヴィードは厳しい表情で念を押した。
「うむ……わかりました。その日まで、身を隠して待ちます」
「まあ〜〜そういうことだから、俺たちが戻ってくるまでの間、どうか体に気をつけて、このお金で少しでも多く食料を買ってきてくれ。そうすれば、その時に一緒に帰る力がつくからな」
風間伊佐はそう付け加えた。
「ありがとう……ありがとう……」
その言葉を聞いて、アナの父は思わず涙を流し、震える手で風間伊佐から渡された袋をしっかりと握りしめた。
その様子を見ていたアナが顔を上げ、涙で濡れた頬を染めながら尋ねた。
「……本当に……?パパとママと、いっしょに行けるの……?」
「ただし——」西ヴィードが声を上げ、真剣な眼差しを向けた。
「今の話は絶対に他言無用だ。俺たちの正体も、君たちがアレクスへ行くことも、誰にも言ってはいけない」
「……はい。約束します。帰りをお待ちしています」
父は涙を拭い、力強く頷いた。
「よし、それじゃあ行こう。勇——……いや、マックス様、もう戻る時間です」
西ヴィードが立ち上がり、外へと向かう。
風間伊佐も後に続き、アナの家族に静かに頭を下げた。
「アナ、二人の騎士様をお見送りしておいで」
アナは父の言葉に頷き、二人の後を追って家の外に出た。
「アナちゃんだね?これからは、しっかりご両親の言うことを聞いて、栄養のあるものを食べさせてあげてね。元気にして、僕たちを待っててくれ」
伊佐はしゃがみ込み、アナの頭を撫でながら言った。
アナは顔を赤らめながら、小さく頷いた。
「うん……うん……。この間、パパとママと弟のこと、ちゃんと世話して、待ってる……」
伊佐は微笑み、立ち上がった。
「いい子だ。さ、早く戻りなさい。夜は冷えるから、風邪ひかないようにね」
「はい……ありがとう、勇者様」
「……!?」
アナの言葉に、風間伊佐と西ヴィードは目を見開いた。
西ヴィードは鋭い目でアナを見るが、伊佐はすぐに笑って言った。
「アナ……僕は、ただのアレクスの騎士だよ。勇者なんかじゃない」
「アレクスには、勇者様が召喚されたって……皆そう言ってるけど、誰も見たことないの。でも、わたしには、あなたが勇者様に見えるの」
アナの無垢な笑顔に、伊佐は目を見開き、そしてふっと微笑んだ。
「そうか……じゃあ、勇者様が帰ってくるのを、ちゃんと待ってるんだよ」
「うんっ!」
別れの言葉を交わし、伊佐と西ヴィードは夜の闇に紛れて軍の野営地へと戻っていった。
「……勇者様、か。本当に彼らをアレクスへ連れて行くつもりか?」
西ヴィードが問いかける。
「うん」伊佐は迷いのない口調で答えた。
「全員を救えるわけじゃない……でも、あの一家のことを見てしまった以上、目を背けられないんだ」
伊佐はそう言ったあと、ぽつりと呟いた。
「……でも結局は、自分の気持ちを満たすためだけかもしれない」
その言葉に、西ヴィードは微笑んだ。
「マックス様。あなたは本当に変わったお方ですね。貴族でもなければ、勇者らしくもない」
「じゃあ僕は何なんだい?」
「……ただの“普通の人間”さ」
西ヴィードは一呼吸置いて、続けた。
「でも——だからこそ、神があなたを『勇者』として選んだのかもしれません」
その言葉に、伊佐は夜空を見上げて呟いた。
「……神様、か……」
凍てつく風と闇夜に包まれ、二人は両側に朽ち果てた民家が並ぶ道を歩きながら、軍営へと向かった。
アリアン(Arian):
主人公と仲間:
風間 伊佐〔MAX〕
リック(Rick)
エマ(Emma)
レイチェル(Rachel)
世界・国家:
休ジェスト(ヒューゲスト)〔世界名〕
アレクス王国
王族・王宮関係者:
シャルルマン・ハンスウォーケン〔国王〕
エリザベート・ハンスウォーケン〔王女〕
ウォリック・ハンスウォーケン〔第一王子〕
ジフク・ハンスウォーケン〔第二王子〕
クリス・ハンスウォーケン〔第三王子〕
宮廷・騎士団関係:
リゼス・アンコベル〔首席女神官〕
アルドフ・ツァイコロフ〔宰相〕
アーサー・リチャード〔騎士団長〕
マイヤー・オギリテ〔騎士団副団長〕
アリアン・レフォルト〔魔法騎士団長〕
カフス・フォンデシーン〔魔法騎士団副団長〕
ジュリエット・ナスタント〔初級神官〕
ダンブズ・ホークランド〔前大賢者〕
イレス・ヴォジリット〔メイド〕
リチャード・ディオジット公爵〔東方領地領主〕
天翔〔風間伊佐の騎乗馬〕
他国・神・魔族
東方帝国 ロールス
南方王国 シーク
中土王国 プシス
中土王国 ウランクス
シドレフ・グランシス〔プシス国王〕
魔族将軍 クラシド
魔族魔法将軍 シフィス
神:
光の神 エリクス(エリクス)
大地の神 ディートラ(ディートラ)




