第68章:白馬天翔との初めての練習
天翔に乗ってしばらく駆けた後、風間伊佐はゆっくりと西ヴィドのもとへ戻ってきた。
「勇者様、白馬を駆るその姿――まるで一幅の絵のようでした。まさか初めてとは思えませんね」
風間伊佐は乱れた髪を手でかき上げながら、苦笑いを浮かべて言った。
「正直なところ……俺が乗ってたっていうより、天翔に運ばれてただけって感じでさ……」
彼は先ほどの疾走の間、自分がほとんど何も操作せず、ただ天翔の動きに任せていたことを語った。止まる時も、天翔が自然に止まってくれただけで、どうやって止めたのか、自分でもわからないという。
それを聞いた西ヴィドは感心したようにうなずいた。
「なるほど……やはりこの馬はただの馬ではありませんね。騎手と意識を通わせ、動きを判断する――まるで心を持ったかのようです」
「さて、勇者様。ではここからが本番です。馬術の基本を学んでいきましょう!」
「まずは手綱の操作から始めます。『引っ張る』のではなく『導く』――友人の手を取るようなイメージで。命令ではなく、共に歩むという気持ちが大切です」
「左に進みたいときは、左手で手綱を軽く引いてみてください」
西ヴィドの説明を聞き、風間伊佐は慎重に手綱を握り、左手で静かに外側へ引いた。天翔はその合図を敏感に察知し、数歩、左へと進んだ。
「うまくできましたね。次は前進の合図です。両足で馬の腹を軽く挟み、上半身を少し前に傾けてください。そうすると、馬は進む意志を感じ取ります」
「おお……」
風間伊佐が指示通りに動くと、天翔は素直に前へと歩き出した。その反応に思わず声を上げてしまう。
「では次に、加速と停止の方法を説明します」
「停止する時は、体をやや後ろに傾け、脚の力を抜いて、手綱を軽く引きます。同時に『シー』という声をかけてあげてください」
「加速する時は、脚に少し力を込めて馬腹を圧し、体を前に倒します。手綱は安定を保つ程度でOK。声で『ハッ』と合図してみましょう」
「えっ、手綱を振らなくていいのか?」風間伊佐が首をかしげる。
「なぜ振る必要があるんですか?」
「手綱はあくまで方向を導き、バランスを取るためのものです。スピード調整は脚と重心で行います」
(そうなのか……映像作品に騙されてた……)
風間伊佐は心の中で呟いた。
「では、実際に加速してから止まってみましょう」
伊佐は両脚に少し力を込め、体を前傾させながら「ハッ!」と声を出す。すると天翔は勢いよく駆け出した。
「勇者様、今度は曲がる練習です。左に曲がる時は、左手で手綱を軽く引き、右脚で馬腹を圧してください。右に曲がる時はその逆です」
西ヴィドの声が背後から響き、伊佐はその指示に従って天翔に合図を送る。多少ぎこちないものの、天翔はしっかりと反応してくれた。
先ほどまではただ運ばれているだけだったが、今は自分の意思で共に走っている――そんな感覚が芽生え始めていた。
――それは、信頼と呼ばれる絆の始まりだった。
練習が一段落し、伊佐は天翔を止めようとした。体を後ろに傾け、脚の力を抜き、手綱を引こうとする――が、つい力が入りすぎてしまい、手綱をぐいっと引いてしまう。
すると天翔は前脚を浮かせ、鋭い嘶きを上げて暴れかけた。
「勇者様!!」
西ヴィドが慌てて駆け寄る。
だが、天翔はすぐに落ち着きを取り戻し、振り返って伊佐を鋭い目で見つめた。
「ご、ごめん……つい力入りすぎた……もうしないから」
風間伊佐は苦笑いを浮かべながら頭を下げる。
「勇者様、くれぐれもご注意を。手綱は馬にとって繊細な合図。強く引けば、驚いて制御が利かなくなる危険もあります」
「はい、気をつけます!緊張してたせいでつい……!」
「では、今の感覚を忘れないうちに、もう少し練習してみましょう」
***
午前の練習を終え、天翔と別れる時、天翔が鼻先でそっと伊佐の手に触れた。まるで、「お前を認めたんだから、逃げるなよ」と言わんばかりに。
「大丈夫、また明日も来るからさ」
伊佐はその額を優しく撫でながら、そう答えた。
風間伊佐と西ヴィドは訓練場を後にし、陣営へ戻って食事をとる。そして午後には魔法部隊の到着を待つことになっていた。
午後はリシャール公爵主導の大規模な合同演習が行われているため、騎士団の大半はそちらへ向かっていた。陣には伊佐と西ヴィドの二人だけが残っていた。
その時――
「………………ししょー」
遠くから、何とも言えないトーンの呼び声が聞こえた。ほとんど風の音に紛れるほど、微かな声。
「師匠~~……」
空を見上げると、遠くに黒い点がこちらへと飛んでくる。
それは、魔法部隊を率いるアリアンだった。
彼女は一言も叫ばず、無言のまま滑空しながら着地する。そして無表情のまま、ぺこりと深く頭を下げる。
「……来た」
「えっと……アリアン殿? 一人で来たんですか?魔法部隊は……?」
「カフスに、任せた。問題ない」
相変わらず抑揚のない声と簡潔すぎる言葉。だが、その無表情の奥には、どこか嬉しそうな気配がほんのりと見えた。
「そ、それよりも……」
アリアンは少し視線をそらしながら、そっと一歩踏み出した。
「師匠……あの技、見た。……教えて」
「えっ……あの技って、決闘の最後のやつか?」
アリアンはこくりと無言でうなずいた。
「うーん、あれはちょっと難しいけど……まあ、部隊が来るまでなら時間あるし……少しだけな」
アリアンの目が一瞬だけ輝く。だが、声を上げることもなく、ただ小さく呟くように答えた。
「……感謝」
***
「師匠!この技、すごすぎるっ!速すぎて、目が追いつかない!……これじゃあ、王子が勝てるわけないねっ!」
アリアンは空中を飛び回りながら、珍しく興奮した様子で声を上げた。
「おおおお……!」
空を舞いながら、彼女は感嘆の声を何度も漏らしていた。
(……はぁ。アリアンの中二病、ますます悪化してないか……?)
風間伊佐は内心でため息をついた。
「勇者様、アリアン殿って……もともとあんな感じだったんですか!? なんだか以前と印象が違いすぎて……!」
アリアンは本来、魔法騎士団の団長として知られ、寡黙で厳格な人物として通っていた。
(寡黙で厳格……まあ、最初の頃はそんな感じだったけど、今は……なんか、どんどん変な方向に……)
風間伊佐は心の中でツッコミを入れた。
そう思いながら、彼はふと空中で技の練習を続けているアリアンの姿を見つめた。
(……まさか、原因って……俺か?)
そんなことを考えていると――
「勇者様、魔法部隊が来ました!」
西ヴィドの声に呼ばれて空を見上げると、遠くの空に人影が次々と現れた。
やがて彼らは風を裂くように飛来し、その姿がはっきりと見えるようになる。鎧に身を包み、マントをはためかせながら整然と空を進む魔導師たち――
その堂々たる姿に、風間伊佐は思わず見とれてしまっていた。
アリアン(Arian):
主人公と仲間:
風間 伊佐〔MAX〕
リック(Rick)
エマ(Emma)
レイチェル(Rachel)
世界・国家:
休ジェスト(ヒューゲスト)〔世界名〕
アレクス王国
王族・王宮関係者:
シャルルマン・ハンスウォーケン〔国王〕
エリザベート・ハンスウォーケン〔王女〕
ウォリック・ハンスウォーケン〔第一王子〕
ジフク・ハンスウォーケン〔第二王子〕
クリス・ハンスウォーケン〔第三王子〕
宮廷・騎士団関係:
リゼス・アンコベル〔首席女神官〕
アルドフ・ツァイコロフ〔宰相〕
アーサー・リチャード〔騎士団長〕
マイヤー・オギリテ〔騎士団副団長〕
アリアン・レフォルト〔魔法騎士団長〕
ジュリエット・ナスタント〔初級神官〕
ダンブズ・ホークランド〔前大賢者〕
イレス・ヴォジリット〔メイド〕
リチャード・ディオジット公爵〔東方領地領主〕
他国・神・魔族
東方帝国 ロールス
南方王国 シーク
中土王国 プシス
中土王国 ウランクス
シドレフ・グランシス〔プシス国王〕
魔族将軍 クラシド
魔族魔法将軍 シフィス
神:
光の神 エリクス(エリクス)
大地の神 ディートラ(ディートラ)




