第45章:魔法訓練の地へ飛ぶ
「……うん……ここは……どこだ……?」
ぼんやりと目を開けた風間伊佐が、寝ぼけた声で呟く。
「勇者様。ここは、あなたのお部屋です」
静かに答えたのは、侍女のイレースだった。
「俺の部屋……?たしか昨日は……風呂に入って……それで……」
昨夜の出来事を思い出そうとした瞬間、女王と王女の姿が脳裏に浮かぶ。思わず頬が緩んだその直後、チャリマンの怒り狂った顔が続き、拳が飛んできた記憶で背筋が凍る。
「まただッッ!!!何もしてないのに理不尽に殴られるとか、もうウンザリだ!!」
ガバッと起き上がり、心の中で全力で怒りを叫ぶ。
――ドンッ!!
「……起きろ。訓練の時間だ」
無言で扉を蹴破り、団長アリアンが現れた。相変わらずの無表情で伊佐に近づき、彼の上着を無言で引っ張って脱がせ始める。
「ちょっ!?やめっ……わかったってば!!自分で着替えるからっ!!」
伊佐は必死にズボンを押さえて抵抗。イレースが気を利かせて魔法使いの服をそっと差し出してくれる。
最終的にアリアンは無言のまま部屋の外に出ていき、伊佐が着替え終えるのを待つことに。
(なにあの人……突然服脱がすとか……完全にチンピラだろ……)
「……今、心の中で悪口言っただろ」
いつの間にか戻ってきたアリアンが、じっと伊佐を見つめる。
「い、言ってないってば!ぜんっぜん!」
伊佐は引きつった笑顔でごまかす。
「……そう」
アリアンはそれ以上追及せず、静かに口を開く。
「魔法は……心の力。鍛えれば……感情も読めるようになる」
「なるほど……でも、他人の気持ちが分かるってことは……余計な感情も抱えるわけで……いい面も悪い面もあるってことか……」
伊佐はそんな風に心の中で考えていたが──
「……で、やっぱり……さっき悪口言ったよね?」
「いや、言ってないってばあああ!!!」
伊佐は泣きそうになりながら必死に否定する。
その後、城の外へ出たところでアリアンの足が止まる。
「ん?団長、川に行くんじゃ──わぁぁぁぁあああああっ!?」
言い終わる前に、アリアンが無言で伊佐を抱きかかえ、空へと舞い上がる。
「ちょ……ちょっと待っ……高っ……こ、こわ……でも……」
視界に広がるのは、どこまでも続く美しい自然。澄んだ空気、まばゆい緑――まさに別世界。
「すげえ……最高の景色だ……」
思わず見とれる伊佐だったが、背中に感じる柔らかくて温かな感触に、顔が一気に赤くなる。
「……どうかした?」
背後から無表情のまま、アリアンが小さく尋ねてくる。
「いや……初めて空飛んだからさ……ちょっと慣れてなくて……」
伊佐はあからさまにごまかす。
「……そう」
「ていうか団長、最初から飛んでいくなら……風魔法の練習してからでもよかったんじゃ?」
「……たしかに。うっかり」
「この団長……まさか、かなり抜けてる……?」
心の中で叫びながらも、伊佐はアリアンに抱えられたまま、王都から数キロ離れた川辺へと向かっていったのだった――。




