第44章:真・サービスシーン
「ヒシャシャ シャシャ One Two Three ノォ〜〜〜〜!」
シャルルマンが意味不明なメロディーを口ずさみながら、風間伊佐の背中をゴシゴシと洗っていた。
「ん……この感覚、なんとも言えないな……」
伊佐は内心、ちょっと複雑な思いを抱えていた。
「マックス、お主、なかなか良い体つきをしておるな。筋肉のラインがはっきりしておる。ちゃんと鍛えておる身体じゃな」
シャルルマンはうなずきながら褒める。
「それは当然でしょ。うちの団は演武会の準備があるから、練習のたびに体力トレーニングもしっかりやってるんだ。体力ないと持たないしね」
伊佐はちょっぴり誇らしげに心の中でつぶやいた。
「とはいえ、我が筋肉にはまだまだ及ばぬな。この境地に至るには、あと数年は修行が必要ぞ!!!!!ハハハハハ!」
シャルルマンは大声で笑いながら、ふんぞり返る。
「……このおっさん、筋肉フェチなんじゃないのか= =」
伊佐は心の中でツッコミを入れた。
「ダンプスのこと、アリアンから聞いたであろう」
シャルルマンの声がふいに真剣になり、場の空気が引き締まる。
「うん……」
「ダンプスはのう、部下というより、もはや家族のような存在じゃ。わしが物心つく頃には、すでに傍らにいて、ずっと支えてくれておった」
懐かしむようにシャルルマンは語った。
「冗談ばかり言ってはいたが、大事な局面では一切ブレることなく、常に頼れる男だった。どんな危機にも、真っ先に立ち向かう男じゃった」
「今でも時折思うのだ……あの時、犠牲になったのがあやつでなく、この我であったなら……と」
「陛下……」
「正直言って、アレクシスがここまで繁栄できたのは、わしの才覚ゆえではない。全ては部下たちの力ゆえじゃ。軍を預ければ百戦錬磨、政を任せれば国は整い、経済を託せば繁栄がもたらされた。わしはただ、その王座に座り、印を押していただけにすぎん」
「ダンプスとて、ただの魔法騎士団長などではなかった。あやつの力があったからこそ、魔族を退けることができたのじゃ」
「だからこそ、もし犠牲になるのがわしだったなら……王位を息子に譲っておれば、アレクシスは今も問題なく続いておったかもしれぬ」
シャルルマンは悔しそうに口を結んだ。
「陛下、それをおっしゃったら、先代の大賢者の想いを無にすることになりますよ」
伊佐はまっすぐに言葉を返した。
「王にすべての能力が備わっている必要はないし、何もかも自ら手を下す必要もありません。陛下、王として一番大切なのは何だと思いますか?」
「ふむ……なんじゃろうな……」
シャルルマンはしばし思案する。
「私は“リーダーシップ”だと思います」
伊佐は力強く言った。
「リーダーシップ、か?」
「そうです。どれほど優れた才能も、それを見出し、信頼し、力を与えられる存在がいなければ、ただの埋もれた原石に過ぎません」
「そして何より、大勢の才ある者たちに“この人のために尽くしたい”と思わせる人格的な魅力が必要です」
「陛下、私は信じています。ダンプス様は、陛下がご存命である限り、希望は決して潰えないと信じていたはずです。彼がいなくなっても、陛下がいるかぎり、アレクシスを導くことができると――だから、優秀な人材は再び陛下の元に集い、王国はさらに栄えると!」
「ですから……どうかご自分を卑下しないでください。ダンプス様が託したその想いを胸に、陛下はアレクシスを導き続けるべきなのです!!!!!!」
伊佐は強く、確信を持って語った。
「……そうか。わしが少々、視野狭窄になっておったようじゃな」
シャルルマンはふっと笑った。
「過去に囚われるとは、王にあるまじきことよ……伊佐よ、お主の言葉、まさに金言じゃ!宝に勝る価値があるわ!ハハハハハ!」
「……陛下、元気になってくれて何よりです」
伊佐は心の中で、そっと安堵の息をついた。
「さて、背中も流し終えたし、もう一度湯に浸かってこようかの!」
シャルルマンはそう言って、元気よく立ち上がる――
――その瞬間、シャルルマンの“覇王の竜”が伊佐の顔面スレスレに!
「いやいやいやいやっ!近い近い近い!陛下、こっち来ないでぇぇぇぇっ!!!!!!!!!!」
伊佐の絶叫が浴場に響き渡った。
入浴を終えて、風呂場を出ると――
「うんうん、まさか風魔法がドライヤー代わりになるとはな。便利なもんじゃ」
シャルルマンは風魔法で伊佐の髪を乾かしながら、楽しげに言った。
「……あら〜〜」
「勇者さまぁっっっ!!!」
向かいから歩いてきたのは、湯上がりの王妃とイリザベートだった。
二人はゆったりとした浴衣姿で、鎖骨があらわになり、肌にはまだ水気が残っている。その布地が身体にぴたりと貼りついて――
伊佐の脳内、完全石化。
「その……」
王妃が何かを言いかけたそのとき――
「おのれっっっ……」
背後からシャルルマンの怒りがにじみ出た声が。
「ワシの嫁と娘を、そんな目で見るなぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!!!!!!」
ドガッ!
シャルルマンの拳が伊佐の顔面を直撃し――次の瞬間、彼が目を覚ましたのは自室のベッドだった。
意識がぼんやりとする中、かすかに王妃がシャルルマンを怒鳴る声と、イリザベートが彼を必死に呼びかける声が聞こえていた――。




