第42章:王族の晩餐
アリアンの授業が終わった直後、風間伊佐はシャルルマーニュに招かれ、共に晩餐の席についた。テーブルにはシャルルマーニュ王と王妃、エリザベート姫、そして三人の王子たちが並んでいた。
「どうだ、マックス。我らがアレクスの料理は口に合ったか?」 シャルルマーニュが穏やかな笑みを浮かべて尋ねる。
「うーん、僕のいた世界の味とはちょっと違うけど……かなりイケるよ〜〜」 伊佐は口いっぱいに食べ物を頬張りながら、もぐもぐと答えた。
「そうか、それは何よりだ。ところで今日はアリアンに何を教わった?」
「えっと、団長は魔法の体系と起源について話してくれて……それと……」
伊佐はふと口をつぐみ、複雑な表情を浮かべた。本当は「人類が初めて魔族を討伐した歴史」について語ろうとしたのだが、咄嗟にあの戦でシャルルマーニュが大敗を喫し、親友を失ったことを思い出し、言葉を飲み込んでしまった。
「ん? 他には?」 シャルルマーニュが不思議そうに尋ねる。
「……」
「初めて魔族を討伐した時の話もしてくれたのよ」 沈黙を破ったのはエリザベートだった。
「……あの時のことか……」 シャルルマーニュはその言葉に目を伏せ、過去の情景がよみがえったようだった。
(ノオオオオ……姫様、そこはお父さんの地雷だってば~~!!) 伊佐は内心で顔面蒼白になりながら叫んだ。
そんな彼の様子を見て、エリザベートは無邪気な笑みを浮かべた。
「その話を聞いて、どう思った?」 シャルルマーニュが顔を上げて尋ねる。
(どう思ったって……俺、まだ基本の魔法すら使えないんだけど!?) 伊佐は心の中でツッコんだ。
「僕の考えでは、あの戦いは大きな犠牲を払ったけど、重要な教訓を残したと思います。つまり、今我々が相手にしているのは、かつてのような統率のない部族ではなく、複数の種族が結束した強大な軍隊です」
「さらに、その軍は非常に洗練された戦術を持ち、各種族の特性を活かして連携し、戦力を最大限に引き出している」
「しかも、魔族の中には我々の知らない種族もいて、その一部は我々の想像を超える力を持っています。次に出兵するなら、綿密な計画が不可欠です。でなければ、かつての惨劇が繰り返されるだけです」
伊佐は震える声を抑えながら、なんとか言葉を絞り出した。
「ふむ、なかなか見識があるな」 シャルルマーニュは頷いた。
「では、そのための具体策はあるか?」 さらに問いかける。
「うーん……正直、戦争の経験もないし、魔法や戦技の基礎すら学び始めたばかりなので……今のところ、特に策はありません」 伊佐はバツが悪そうに笑った。
「ふん、何も知らないくせに偉そうなことを言うな」 シャルルマーニュの隣に座っていた王子が鼻で笑った。
「ヴォリック!」 シャルルマーニュが声を荒げる。
「父上! 異世界から来た勇者だと言っても、魔法も戦技もできない男に、我々の未来を託すなんて愚かすぎます!」 「たった一回の儀式で魔族に対抗できる力が得られるなら、俺たちの今までの努力は何だったんですか!」
「やめなさい! ヴォリック! 勇者に対してそのような口を利いていいと思っているのか!」 シャルルマーニュが厳しい口調で叱責した。
「でも……でも……」
「食事が終わったら、すぐに今日の課題に取りかかれ」 父王の一言に、ヴォリックは項垂れた。
「……はい……」
(第一王子、ヴォリック・ハンスウォーケン……あいつの言ってること、意外と的を射てるんだよな。普通の人間の俺が、突然異世界に召喚されて、いきなり特別な力を得るなんて……理不尽にも程があるよな)
(まるで何年も会社で頑張って、やっと上司が退職したと思ったら、社長の甥っ子がいきなり降ってきて「今日から君がマネージャーね」って言われるようなもんだろこれ!) 伊佐は無言で拳を握りしめ、コクリと頷いた。
食後——
「すまなかったな、マックス」 シャルルマーニュと王妃が伊佐に頭を下げた。
「ヴォリックは、初めての魔族大戦以来、誰よりも努力してきた。政務も魔法も武技も、すべてにおいて手を抜かず……だがその分、あまりにも真面目すぎて、時に感情が暴走してしまう。どうか彼を許してやってほしい」
「大丈夫ですよ、気にしてません」 伊佐は笑って答えた。 (まあ、十年前に父王が戦場で命を落としかけたとなれば……魔族の圧倒的な力を知ってしまえば、不安になるのも無理はない。地球だって、重圧の中にいれば人は精神的に追い詰められるもんだし)
「ご理解いただき感謝する。では我々はこれで」 シャルルマーニュと王妃は一礼し、席を立った。
「やあ、勇者殿」
「おお、ジーフク殿下」 (第二王子、ジーフク・ハンスウォーケン。兄とは違い、どこか深みのある知性を感じさせる人物だ)
「勇者儀式の時、私も見に行ったんだ。あの光景は衝撃的だったよ。あの時、どんな感覚だった?」
「うーん、言葉にするのは難しいけど……全身にエネルギーが流れ込んでくる感じと、同時に体が破裂しそうな痛みがあったかな」
「そうか……」 ジーフクは伊佐をじっと見つめた。
「今はどんな感じだい?」
「今? 儀式の光が消えてからは、元の世界で抱えてた病気や痛みがなくなったのと……なんか体が若返った気がする」
「ほうほう……」
「それじゃ、勇者殿、訓練がんばってくれたまえ〜。行くぞ、クリス」 ジーフクはそう言い残し、伊佐をじっと見つめていたまだ幼い第三王子、クリス・ハンスウォーケンを連れて食堂を後にした。
「はあ……ただ飯食っただけなのに、めっちゃ疲れた……」 伊佐は心の中でため息をついた。
「勇者さま、帰りましょう?」 エリザベートが優しく微笑みかけた。
「あっ、うん、行こう」 (うおおお……姫様の笑顔、全ての疲れが吹き飛ぶ癒し力ぅ〜〜)
その後、伊佐はエリザベートと並んで談笑しながら地球の料理について語り合い、分かれ道の廊下に差しかかったところで、エリザベートは手を振り、自室へと戻っていった。




