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第4章:宰相と賢者

「どうした、チャイコロフ卿?」

シャリマン王は穏やかな声で問いかけた。


「陛下、この場で王女殿下の婚約を決定するのは、あまりにも軽率ではございませんか?どうか、御再考を。」

冷静な口調で進言したのは、一人の中年大臣だった。


「そうだ!!その通りだ!!」

「今は勇者召喚の儀であって、婚約の話など場違いだ!」

「軽々しく婚約を決めるなど、言語道断だ!」

「この決定は国に禍をもたらしますぞ、陛下!」

「どうか御再考を!」

「御再考を願います!」


一人が声を上げると、他の大臣たちも次々と騒ぎ出した。


「静粛に!!!!」

シャリマン王の側近騎士が一喝すると、場内は一気に静まり返る。


「ふん……」

シャリマン王は静かに笑みを浮かべた。


「我が娘の婚約に、そこまで熱心とはな。」


王の眼差しが鋭さを増し、空気が凍りつく。


「陛下……」大臣が再び口を開く。


「王女の婚約は政に大きく関わること、慎重に進めねばなりません。」


「ふっ。」

王は冷たく鼻を鳴らした。


「政に影響だと?……いや、影響するのはそなたたちの利権ではないのか?」


「陛下!!」


「列席する大臣方は、アレシスのために尽くしておられる。その中で王女の婚約を強引に進めれば、政局に混乱を招くのは自明の理!陛下、どうかご再考を!!」


「……分かった。そこまで言うなら、今回はそなたの意見を採ろう。」


「恐れ入ります、陛下!!」

大臣は深々と一礼し、席へと戻った。


「さて、婚約の件は後回しだ。リジェス、勇者を儀式の場所へ案内せよ。」


「はっ、かしこまりました、陛下!」

リジェスは即座に返事をする。


「これにて勇者召喚の儀は終了とする。皆、下がるがよい。」

王が立ち上がり退出しようとしたその時、ふと立ち止まり、風間伊佐の方を振り返って、にやりと笑った。

まるで「娘はお前に決まりだ」と言わんばかりの表情だった。


風間伊佐は思わず身震いした。


(な、なんだよこの王様……まだあんなに幼い娘を俺に!?俺をロリコンだとでも思ってんのか!?)


「気持ち悪っ……帰ったらお香焚いて厄払いしねぇと……って、この世界に寺とかあんのか?」

ぶつぶつと呟く風間。


王女エリザベスが父に従い、伊佐の前を通り過ぎる際、ふと二人の視線が交差した。


「え、あっ、ど、どうも〜……」

伊佐は無理やり笑顔を作り、手を挙げて挨拶する。


しかし王女は瞬時に顔を本に隠し、小走りで王の後を追った。


(終わった……完全にロリコン認定された……俺の名誉が……シャリマン王ぉぉぉぉ!なぜ俺をこんな目にぃぃぃ!!)

伊佐は心の中で絶叫した。


「勇者様、こちらへ!」

リジェスが促す。


「お、おう……」

ようやく我に返った伊佐。


「ちっ、勇者様?まだガキじゃねえか、王女を娶ろうなんて。」

「身の程を知れってんだ。」

「あれじゃ亜人の一匹も倒せないだろうよ。」

「そうそう、何が伝説の勇者だ。シャリマン王も迷信に踊らされすぎだ。」


退場していく大臣たちは、口々に文句を呟き、伊佐に冷たい視線を浴びせてくる。


「はぁ……俺だって自信ないし、そう思われるのも無理ないけどさ……でもさすがにキツいわ、これ……」

伊佐はしょんぼりとつぶやいた。


「勇者殿。」

後ろから声がかかる。


振り返ると、先ほど王に進言したあの中年大臣が立っていた。


「先ほどは失礼しました。決してあなたを責めたわけではありません。ただ、王女の婚約は国家の安定に関わる重要な事案。下手をすれば、国全体を揺るがしかねません。」


「そのへんは理解してます。てか、王女……年齢的に完全にアウトでしょ。ほんとにそういうつもり、これっぽっちもないですから。」


「そうでしょうな。しかし、今日の陛下はあまりに異例でした。初対面の勇者に婚約を持ち出すなど、あまりにも軽率です。」


「ね、俺も驚いたって。なんで初対面の俺に娘を!? そっちの方がよっぽど非常識じゃん!」


「……ご存じないかもしれませんが、陛下は人族史上稀に見る名君です。先王が崩御された際、王の兄弟たちは政変を起こそうとしましたが、陛下はまるで先を読んでいたかのように、事前に関係者を一斉に逮捕しました。まるで人の本質を見抜く“眼”を持っているかのようでした。」


「本質を見抜く眼……え、やばくね?心の中まで全部見抜かれてそう……」

伊佐は内心でビビる。


「おそらく陛下は、あなたを“この国の未来を託すべき人物”と見抜いたのでしょう。……とはいえ、今回の件はあまりに唐突でしたが。」


「国の未来!? 冗談じゃないっての! 俺はただの普通の人間で、間違って召喚されただけだぞ!?国王とか無理無理!!」

伊佐は心の中で全力拒否。


「加えて、陛下は『大臣たちは自分の利益しか考えていない』とおっしゃいましたが……実際、王女との婚約を狙う者も多いのです。王室に近づき、自分に有利な政策を通すために。」


「そんな中で、あなたが婚約者に選ばれたとなれば、彼らの警戒心を買うのは避けられません。」


「これから先は、どうかお気をつけを。」


そして彼は小声で呟いた。


「……勇者召喚が本当に意味があるのかは、まだ分かりません。時に、人族の方が魔族よりも恐ろしい……」


「えっ?」

最後の一言を聞き取れなかった伊佐は、問い返す前に彼の姿を見失っていた。


「うーん……さっきは強く出てきたけど、案外いい人だったな……」

伊佐は呟いた。


「ねぇ、リジェス。さっきの人の名前ってなんだったっけ?」


「アルドフ・チャイコロフ。アレシス王国の宰相、民からは“大賢者”と呼ばれております。」

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