第26章:魔族大戦 - 序章 - Over the Dead Bodies
激しい一夜の戦いの末、魔族軍は夜明けと共に撤退した。
包囲されていたウランクス軍はほぼ壊滅し、魔法部隊も大打撃を受けた。
かろうじて森から脱出した兵士たちを集めてみれば、生存者は約2万人。
しかし、彼らの士気は地に落ちていた。
「……申し訳ありません。プシス王陛下、そして元帥閣下。昨夜の戦で、我が軍は三万人を失いました。兵たちは皆、戦意を喪失しております。どうか、しばし後方にて再編の時間をいただけませんか……」
ウランクス王は深く頭を下げ、声を絞り出すように願い出た。
「ふん……ウランクス軍の役立たずぶりは知っていたが、まさかここまでとはな……見事なまでの一撃壊滅だな。」
プシス王ヒドレフは冷笑を浮かべながら言い放った。
「だがな、まだ二万人も兵が残っているではないか。それで撤退だと? 我々を愚か者とでも思っているのか!」
ヒドレフの声が戦場に響き渡る。
「……し、しかし……兵の心はすでに折れております……これ以上の戦は無理です……どうか……ご容赦を……」
ウランクス王の声は震えていた。
「ウランクス王よ……そのような態度、帝国に対する重大な侮辱だぞ!!!」
ヒドレフが怒声を上げる。
「もうよい、ヒドレフ王。」
重く威厳ある声で、帝国元帥が口を開いた。
「確かに、一夜にして三万の兵を失ったと聞いては、私とて驚きを隠せぬ。だが……損耗は事実。後方での再編を許可しよう。立て直した後、再び前線に合流してもらう。プシス軍と私は先に進軍する。」
「……感謝いたします、元帥閣下……」
(ふん……本当はもう少しウランクスの兵を削っておきたかったのだが、まあいい。くくく……)
ヒドレフは内心で不敵にほくそ笑んでいた。
ウランクス軍が後退を始めると、プシス軍は道の両側に整列し、その退却を見送った。
ボロボロの姿で通り過ぎていく兵士たち――恐怖に染まった顔、負傷し馬車に横たわる者たち。
その惨状に、プシス兵の中にも不安の色が広がり始める。
「進軍せよ!!!!!」
やがてウランクス軍が後方に退いたのを確認すると、プシス軍は即座に出発。
前日の激戦地に到着した彼らの目に映ったのは、無数のウランクス兵の亡骸であった。
その数の多さに、兵士たちの表情は凍りつく。
そして、敵である魔族側――半獣人の死体はわずか数百に過ぎず、その中にはリザードマンや飛竜の姿も混ざっていた。
「……ふむ、どうやらウランクス王の報告に偽りはなかったようだな。今回の魔族は、以前のものとは異なる。重装備をまとい、飛竜まで使うとは……油断はできんぞ。」
帝国元帥の声に重みが増す。
「ご安心を、元帥閣下。我がプシス軍の装備と練度は、ウランクス軍とは比べものになりません。もし魔族と戦うことになれば、今ご覧になったウランクスの屍は、やがて魔族の屍となるでしょう。」
ヒドレフは自信たっぷりに笑みを浮かべて言い切った。
「だが、油断は禁物だ。もし魔族が本当にそのような戦力を持っているとすれば……プシス軍にも相応の犠牲が出るだろう。」
「ご忠告、感謝いたします。心得ておりますよ。」
ヒドレフは軽く笑って応じた。
あまりにも多くのウランクス兵が戦死したため、戦場から遺体を片付けるには数日を要する。
そこで、帝国元帥は命じた――「そのまま屍の上を進め」と。
こうして、プシス軍の兵たちは、同盟軍の無惨な亡骸を踏みしめながら進軍することになった。
そして彼らの心に巣食っていた不安は、やがて確かな“恐怖”へと変わっていった。




