第15章:使命(しめい)
「――異界の者よ」
「な、なんだ!?」
風間伊佐は目を見開いた。視界いっぱいに広がるのは、ただただ眩い光。そこには物も影もなく、ただ前方にぼんやりと人のような形をした存在が立っていた。
「お前は誰だ!? もしかして……光の神か!?」
「違う。いわゆる神とされる存在たちは、太古の昔にこの世を離れている。
だが、後の時代には彼らと接触した者もいた。神跡を使い、人族を繁栄へと導いた者たちがな」
「じゃあ……お前も神跡を得た人間なのか?」
「私か? まあ……“神に少しだけ目をかけられた存在”ってところだ。ははは」
「うーん、言ってる言葉はわかるのに、ぜんぜん意味が頭に入ってこないんだけど……」
「気にするな。知らなくても、お前が現世で生きるには困らないことばかりだ」
「は!? じゃあ、なんで出てきたんだよ!? 勇者としての使命とか、そういうの言いに来たんじゃないのか!?」
「……使命など存在しない。
正直、勇者は“選ばれし者”ではなく、単なる“偶然の産物”だ」
「ええ!? じゃああんなに信じてた人たちは、ただの空回りじゃん!」
「ふふ、そう言われても仕方ないな」
「なにそれ……」
「人の信仰とは複雑なものだ。
未知を恐れ、痛みを抱え、苦しみの中で縋るように信じる。
理性的に見れば不合理だが――信仰の力は絶大だ。
旧世界が滅んだのも、その信仰が崩れ、人々が欲望のまま争い始めたのが一因だった」
「えーと、すみません先生? 何言ってるか難しすぎて……」
「心配はいらん。これらは過去の話。
旧世界と現世界のつながりを知りたければ、遺跡を巡るといい」
「いや、いきなり言われてもさ……」
「とにかく、今はお前に伝えておきたいことがある。時間がないから、よく聞け」
「一つ、弱さを知る者こそ、強さの本当の意味がわかる。
二つ、知恵は力なり――その価値は、千年経とうが万年経とうが揺るがない。
三つ、他人に盲従するな。行動の指針は常に、自らの心で決めろ。
四つ、人族は人類にあらず。現世の人族は、旧世の人類よりもはるかに野蛮だ」
「ちょっ……マジで全部よくわかんないんだけど!?」
「それでいい。今はただ、覚えておけばいい。
これからの旅の中で、自分自身の答えを見つけ、
お前だけの物語を築けばいい」
「ちょっと質問しても……」
「残念だが、時間切れだ」
「えっ……じゃあ、また会える?」
「お前が“人類の英雄”になれたなら、あるいはな。
期待しているぞ、異界の勇者よ」
「いや、“さらに古き時代の……”だろ……」
──
「勇者様っ! 勇者様っ!」
風間伊佐は、重く閉じていたまぶたをなんとか開いた。
目に映ったのは、泣きはらした顔でこちらを覗き込むイリザベスだった。
「よかった……! 勇者様が目を覚ましたわ!
誰か! 早く、父上を呼んで!」
「……人族は人類にあらず……って、どういう意味なんだ……」
伊佐は、まだ意識の戻りきらないまま、ぼそりと呟いた。




