第11章:儀式前の浄化
「勇者様、勇者様!」
「んんん……」
「勇者様、勇者様、起きてください。準備の時間ですよ!」
「……母ちゃんかよ。今日は休みだから、もうちょっとだけ……。ん〜……」
「勇者様、勇者様っ……!」
「……あ」
風間伊佐は、ゆっくりと瞼を開いた。
視界に映るのは、中世ヨーロッパのような木造の天井。
周囲を見渡せば、そこにはクラシックな雰囲気に包まれた空間が広がっていた。
そして、自分の傍らには、修道服に身を包んだ若い少女が一人、微笑んで立っていた。
「勇者様、目覚めましたね。まもなく勇者儀式のお時間です」
「……勇者儀式か。やっぱり夢じゃなかったんだな……」風間伊佐は心の中で呟いた。
「勇者様、どうか衣服をすべてお脱ぎください」
そう言って、少女は水盆をそっと差し出した。
「……はあああっ!?」
その一言に、風間伊佐の眠気は一瞬で吹き飛んだ。
「これより、聖水を用いて勇者様の御身を清めさせていただきます。
ですので、すべてのお召し物を脱いでいただけますか?」
「え、えーと……それ、自分でやっちゃダメですか!?」風間伊佐はしどろもどろに返す。
「勇者様、これは儀式の正式な手順です。教会の規定により、聖職者が責任を持って清めを行うことになっております」
少女の口調はあくまで穏やかだった。
「いやいや、自分でやるからさ……!俺も言わないし、君も言わなきゃ誰にもバレないって!」
「勇者様、それでも大司教様の『穢れ見通しの眼』には隠せませんよ?
儀式が遅れると、王様にまで報告が……」
「くっ……あの性格悪い王様に知られたら、絶対ろくなことにならない……」
(このクソ王、覚えてろ……極刑に処してやるからなあああ!!!)
脳内に自動再生される王のドヤ顔。
しぶしぶ衣服を脱ぎ、全裸にタオル一枚で身を包んだ風間伊佐は――
「これ、完全に羞恥プレイじゃん……」
小声で嘆きながら、ベッドにちょこんと腰掛けた。
少女は、柔らかそうな布を聖水に浸し、それを丁寧に取り上げて彼の髪へと当てる。
「……うわ、俺の髪っていつもバッサバサで、洗うたび絡まって痛いのに……。
この子、全然痛くない……うまっ。プロじゃん……」
風間伊佐は内心で感動していた。
「……あ」
髪と顔を終えた少女は、次に彼の上半身に手を伸ばした。
その瞬間、風間伊佐の口から、思わず声が漏れる。
「勇者様、どうかなさいましたか?」
「な、なんでもないよ。ちょっとくすぐったかっただけ……」
照れ隠しのように笑う彼。
「では、勇者様。お立ちいただいて、その……タオルもお外しください」
「う、うわあああっ!?」
「勇者様、お身体を完全に聖別する必要がございます。どうかご協力を……」
「えっと……ここだけは自分でやっても……?」風間伊佐、ギリギリの抵抗。
「ご安心ください。私はこう見えて、しっかり訓練を受けております。
人の身体の洗浄は得意分野です」
「いやそこじゃないんだよぉぉぉ!!俺のプライドだよ!!!」
内心で絶叫。
「勇者様……」
「……わ、わかったよ……」
覚悟を決めてタオルを取る。
ただし、最後の砦を両手で必死にガード。
「勇者様、両手も外してくださいませ。でないと……」
「…………」
「もう、いいや!なるようになれだーっ!!」
――ついに、風間伊佐は男としての尊厳を投げ捨てた。
だが、その瞬間、少女は一瞬だけ動きを止める。
「ゆ、勇者様……そ、それでは……始めますね……」
「……う、うん」
「……あ……」
――風間伊佐が意味不明な声を漏らしたちょうどその頃、聖堂では着々と儀式の準備が進んでいた。




