いつだって俺のそばに
このお話は完全フィクションです
「雫にまた会える..?」
「そうだ」
は?こいつ...何言ってるんだ?
嘘?夢?現実?そもそもここは何処なんだ?
聞きたいことが山ほどある。
「何だ?聞きたい質問があれば教えるぞ」
「ま、まず、ここは何処なんだ」
「ここはゲームでいう世界の端のようなものだ。
普段あるようだが、見る事はできない。
そして、お前が望んだ時にだけ会うことができる。
まぁもっとも、今回は私から呼んだのだがな」
よ、よく分からんが...誰からも見えない世界てことか..?
「雫には本当に会えるのか?」
「あぁ会えるぞ。ただし、条件がある。」
「条件?」
「誰か1人を世界から存在ごと消す代わりに、お前は雫が死ぬ前の時間、つまり今日の朝頃まで戻ることができる。
例えそれが、お前の大切な友人、後輩だろうが、全く知らない赤の他人でもだ。
消える人間は完全にランダム。
それが条件だ。」
「は...は...?1人死ぬってことか...?」
「まぁ簡単に言えばそういうことだが、少し違う。
世界から存在が消える、忘れ去られてしまう。
酷く言えば、生まれなかったことになる。だな」
「は?そんなこ...」
シヴァは俺の言葉を遮るようにこう言った。
「世界から存在は消えてしまうが、お前自身は覚えている。つまり、世界にいるすべての人間はそいつの事を忘れてしまうが、お前だけはそいつの事を覚えている。お前は、恋人を救う為に忘れ去られたそいつの存在を抱えながら生きていくんだ。お前にそれをする勇気と覚悟があるか。どうだ?やるか?」
沈黙が続いた。どのくらい時間が経っただろうか。
そんな事出来るわけない。
世界にいる誰かを犠牲にして恋人を救う?
もしそれで救えなかったら....?
「か、回数制限はあるのか...?」
「ないぞ。ただ一回につき、1人消える。それだけだ。ただお前が死んだ場合は勝手にリトライされる。一度受諾した場合、お前が納得のいく未来が来るまで何回も何回もリトライされるんだ。その場合でも、消えるのは1人だ。死んだ人数は関係ない。」
俺が...命を救う?どうやって...?
静寂を斬るようにシヴァは言った。
「何だ。優柔不断なやつだな。
まぁいい。時間を与えよう。
期限は明日の夕方6時まで。
じっくり悩み考えると良い。恋人を失った今を生きるか、僅かな可能性に賭けて創造した未来を生きるか。」
「何かを掴むには条件が必要なのだよ」
目が覚めた。最悪の目覚めだ。体が重い。
時刻は11時。完全に遅刻だ。通知の数のやばい事。
「恐ろしい会社だわ。。。」
俺は服を着替えベランダで煙草を吸う。
こんな時でも煙草はやめられない。
「ふぅ。。。煙草辞めたんだけどな。。父に似ちまったか。」
身支度を整え12時半。街を歩く。今日の街はやけにうるさく感じた。
木々は風で揺れ音を鳴らし、子供の声は頭に響く。
「うぅ...さみいぃぃ...」
この時期は冷える。昼過ぎにも関わらず気温は4度。
気候変動もいいとこだ。
一歩一歩歩くにつれ、風が耳をフルスピードで横切り「ボボボボボ」と音を鳴らす。
歩いても歩いても止まない。
涙が溢れた。いつも歩く街も、揺れる木々も、邪魔をする向かい風すらも静かにしてくれない。
「うるせぇよ...クソッタレ...」
公園のベンチに腰掛ける。子供たちが無邪気に遊んでいる。
人の気も知らずに。
いっその事死んでしまおうか。そうすれば、
会社としても不要な人材が減ってラッキー。
俺としても、この腐った世界から解放される。
更には...雫にも会える。
別にリトライなんかしなくても会えるんだ。
「もういいのかな...解放されて」
「私は私の人生で後悔したくない」
我に帰った。雫の言葉だ。あいつの口癖だった。
脳に電撃が走る。やれと。
「解放される?違う。逃げてるだけだ。
いつもいつもそうやって事実から逃げて、本音から逃げて自分の気持ちも行動も出せずに終わる。
だから失敗するんだろ?」
そうだ。俺はいつも逃げてきた。柳田に聞かれたあの時だって、本当は好きなのに大好きなのに本音を言えなかった。自分を押し殺してた。
素を出すのが恥ずかしかったから。
認められないと思っていたから。
「シヴァ!!やるぞ俺は。1人いなくなる?知ったこっちゃねぇ。俺は俺のやりたいようにやるぞ!全員救って完璧な未来を思い描くまで!!!」
思わず叫んでしまった。でも、嫌な気がしない。
人目すら気にしていない今の自分が1番輝いている。
最高の気分だ。
「よう言った。それでこそ男や。」
俺が雫を救う。その未来が来るまで...!!
【【【 リトライ1回目 】】】
犠牲者 1人目‥‥水森 真斗
第二話 いつだって俺のそばに 完
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