また会いたい
このお話は完全フィクションです
「政府は物価高について検討しており.....」
「はぁ....世間も大変なこった」
深くため息をつきながら言葉を吐いた。
「物価高やら、税金やらあーだこーだうるさいんだよなぁ。こっちの方が大変だっての。毎日毎日上司に怒られる毎日、会社の居場所も危ういんだよ。ほんっっっとに何してんだろなぁ俺」
昼飯を食べながら言う。
確かに世間が大変なのは分かっている。でもこの国で必死に生きている俺だって大変だ。世間がどうのこうのとか知ったこっちゃねぇ。相対的にみれば俺の方が大変だろ。
そんなクズな思考が頭をよぎってしまう。
昔はエリート街道を歩くのを夢見ていた。しかし、今となってはどうだか。会社にいるのに精一杯。同期の奴には置いてけぼり。後輩に至ってはタメ語。
「はぁ...ほんっとつっかえねぇな俺...」
昼飯が喉を通らない。折角の昼休憩も胸糞悪い時間になっちまう。
「先輩も十分頑張ってますよ!会社が価値を分かってくれないだけですって!」
こいつは後輩の柳田。こんな俺とまともに話してくれる唯一の後輩だ。
「はぁ...どうだか。仮に辞職したとしても拾ってくれる会社やありゃあしねぇんだ。成果を出しても誰1人として褒めてやくんねぇ。まるでそれが当たり前。ここは腐ってやがる。」
「でも、彼女さんの為に頑張るんでしょ?なら尚更頑張んなきゃじゃないですか!」
俺には彼女がいる。名前は雫だ。容姿端麗、スタイル抜群、おまけに性格も完璧。学生時代では俗に言うマドンナ的存在。
「先輩って学生時代に告白されたんでしたっけ?」
「ん?あぁそうだよ。未だに何で俺なのかわかんねぇよな。もっと良いやついただろ。」
「って言って長続きしてるじゃないですかー笑
彼女さんの事大好きなんでしょー?笑」
「馬鹿野郎。別れるのが怖えだけだ。」
「またまたー笑」
はぁ。ウゼェ。この濁りきった言葉を吐いてやりたい。こんなにも怠い昼休憩は久々だ。
「あ、そろそろ時間ですよ!あと10分しかない!」
はぁ...またあの地獄が始まる。俺の人生どうなってんだよ。前世で人殺したとかじゃなきゃ釣り合わないだろ。いや、それでもまだ地獄すぎるわ。
「お会計2000円です。」
重くガサついた手でお金を渡す。お釣り?あぁ忘れてた...そんな事どうでも良くなるぐらい戻りたくない。
「次のニュースです。...県...市で...無差別殺人が発生しており...警察は...」
はぁ...。今日何回ため息ついたんだろう。足が重い。職場に戻りたくない。またあの地獄が.....
「やっぱり腐ってやがる」
現在深夜12時。やっと仕事を終わらせた。帰ろう。
やっと帰れる。雫の待つ家に。
今日はもう疲れた。寝よう帰って。
愚痴を言っている間に着いた。
無駄に遠いのもムカつく。
「全く...もっと近くにしろよな。」
文句を言いながら階段を上がる。
だが、体が異変に気づくのは一瞬だった。
いつもより空気が重い。背筋を何かが走る。
「は...?」
ドアを開けると一面赤に染まっていた。
「どう...なって...」
ハッとなり叫んだ。
「雫!!!」
返事がない。頼む頼む頼む。外出していてくれ。雫..!
そんな微かな望みが脳をよぎる。俺たちの家なのに。
そんな事あるはずはないのに。
「雫....」
誰かが亡くなるのは昔飼ってた犬ぐらいだ。あの時はまだ小さかった。親も皆泣いていた。
俺には理解できなかった。何故泣いているのか。
そんな心に響くほど思い入れはあったのか。
しかし、今なら分かる。あの時のあの場に居た俺を除いた全員の気持ちが。
「クソッタレ....」
俺は警察から多くのことを聞いた
1. 死亡してから時間が経っている事
2. 現在多発している無差別殺人事件の犯人と同一人物の犯行の可能性が高いという事
3. 犯人は未だに捕まっていないという事
4. 現場からナイフとライターが盗まれた事
そして、
5. 犯人は死亡してから数時間その場で滞在していた事
俺は許せなかった。人が目の前で死んでいるのにその場で滞在?頭がイカれてるのか?
視界がぼやけていく。
もう泣き疲れた。人生に疲れた。
俺はその場で崩れるように眠った
「おい!お前!お前だお前!起きろ!」
「うぅ...あぁ頭いてぇ...」
「やっと起きたか。起きるのも遅いノロマだな」
「誰がノロマだ...いってててて...」
それより、
何だこいつ...話してるが人...なのか...?背中に生えてるのは羽...?
「我の名はシヴァ。天使だ」
は...?天使...?本当にいるのか?そんな奴。架空上の生き物だろ...?
「まったく...疑った目をしているな?まぁ良い。早速本題だ。お主もう一度雫に会いたいか?」
「は...は?」
第一話 また会いたい 完