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この世界を愛して欲しい。

作者: ヨスガ


「恨まんでくれよ。魔物に魅入られた子よ」


 現在地、土砂降りの森の中。俺をおくるみに包んだまま使用人の男はそう言って、そっと地面に置かれた。

 そうして当然のように去って行く。

 ――呆然とし過ぎて声も出なかったさ。


 異世界転生。そんなものはアニメや漫画や小説を漁った俺には楽勝だとそう思っていた。

 地球で階段落ちを決めてあっさり死んでしまったらしい俺は目覚めると記憶を持ったまま赤子になっていた。

 暫く現状確認のため周囲を観察していると、大人たちの会話でここが地球ではなく所謂剣と魔法の世界――異世界なんだと気づけた。

 正直よっしゃあと歓喜したね。なんたって記憶があるんだからこれだけでイージーモードだって。

 魔法のコツとか裏ワザ的なのとか、前世の記憶を頼ればわけないってさ。

 だから親に「おはよう」って声をかけた時も、うちの子天才じゃん!ってなると思ってたさ。

 現実は、悲鳴だったけどさ。


「何でこうなった」


 ぼんやりとそうこぼす。雨はどんどんと染みて、これが現実だと知らしめる。


「何でって、そりゃ生まれたばかりの赤子がいきなり流暢に喋ったら魔物憑きだと思われて当然じゃない?」

「誰だ」


 いきなり声をかけて来たのはひょろりとした体躯の男だった。


「まったくもう。せっかく記憶だけは継いであげたのになんだって常識外れな事をしたんだい?」

「常識外れ?」


 男はひょいっと俺を抱き上げた。


「おい」

「地べたで濡れたまま話したいのかい?」

「……ありがとう」

「どういたしまして。しっかし、怪しまない?普通」

「お前が転生を仕組んだやつなんだろ」

「ご明察~。ほんと、そういう知識だけはあるんだよねえ」


 男の周りは暖かく、そして雨も弾いているようだ。


「あのね、例えば君の居た世界でだって、生まれたばかりの赤子が舌っ足らずでも無くはきはき話したら気味悪がられるって、わかるかい?」

「天才児じゃん」

「うーん、そうか君に欠けてるのは一般常識かあ」

「なんだよ」

「今の話をもってして、だけど。反省してる?」

「いいや」

「おや、それは何故?」

「子どもがどうだろうが何だろうが、虐待したり捨てる方がおかしいからだ」

「おやおや、正論だ。だけど、君の世界でもこの世界でも、正論は通らないなんてざらにあるよ?」

「だからなんだよ」

「うん?」

「通らないからって俺が考えを変える理由になるかよ」


 男はあははは、と軽やかにわらった。あっさりし過ぎていて、馬鹿にしてるのかと文句も言えない。


「うん、そうだねえ。君がそういう馬鹿正直だから、呼んでみたんだ」

「はあ??」

「君さっきから僕を責めないね」

「何で責めるんだよ」


 唐突に言われた言葉に面食らう。さっきから何を言ってるんだこいつは。


「普通さあ、こんな目にあわせやがってーとか、言うもんじゃない?」

「俺を捨てたのは親であってアンタじゃないだろ」

「あははは、ホントに状況でしか判断しないんだね」


 物事の裏には理由や背景があるんだろうなとは思うが俺が気にしてやるつもりはない。

 被害者ぶるなと言われようが、被害者だからな。


「不器用な君には支えてくれる相棒が必要だ。面倒くさがらず友をつくって、この世界で幸せになってくれ」

「どうやって?俺は今ここに捨てられてるんだが」

「あははは。僕に頼ろうとか思わないのかい?」

「頼めば助けてくれるのか?」

「まあ、せっかく僕の世界に来てくれたんだから、孤児院に運ぶくらいは」

「助かる」

「……強くおなり。この世界は力がすべてだ。君の知識があればそれは叶うだろう」

「言われなくても」


 赤子の俺を優しく抱く相手に格好つけても仕方ないが、それでも言うべき事は言っておかないとな。


「俺を呼んでくれて、助けてくれてありがとうな」

「どういたしまして。願わくば、この世界を愛して欲しい」



 あれから結構な年月が経って、孤児院を出た俺は親友と冒険者になった。

 背中を預けられる相手が幼い頃に出来たってのは凄く心強くて、そしてあの『召喚者』の言う通り他人との軋轢が生まれそうになる度に親友がとりなしてくれて、俺を支えてくれた。

 礼を言う俺に親友はいつも助けられてるのは自分の方だと微笑んでくれる。

 ――元居た世界ではありえないくらい、この剣と魔法の世界は力が全てで、それを得た俺を受け入れてくれる。

 だからきっと俺を呼んだって言ってたあの『召喚者』は、間違いなく俺の神様なんだろう。


「この世界を愛して、か」

「どうしたんだい?」

「ひとり言だ」

「ふうん?」


 かつての世界では思わなかった、確かに必要とされているという実感。勝ち取って生きているんだという実感。それを得た今はあの神様の愛して欲しいという願いを笑い飛ばす事は決してない。


「やっぱりいいな、この世界は」

「満たされてるからそう映るんだよ」

「それって何か悪い事か?」

「いいや。ただ羨ましいだけだよ」

「はん。何か不満なら言えよな。お前の為ならなんとでもしてやる」

「君って本当、僕らが好きだよね」

「ああ」


 世界ってのはきっと、愛してるモノの事なんだろう。

 安心してくれ神様。俺は確かに、この世界を愛している。


END

直情的で力のある主人公にとっては生きやすい剣と魔法の世界。けれど親友にとっては恐らく生き難い世界。利口に生きられる親友は現代日本の方が生きやすいでしょう。置かれた場所で咲くことも大事ですが、向いている場所に身を置くことで楽に生きられるというお話でした。

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