泣きっ面にキス
笠木 澪様から御題を頂きました。
ありがとうございました。
予鈴のチャイムがなる。屋上に居るせいか、教室に居るときよりも、ずっと響いて感じられた。
今から帰らないと、授業に間に合わない。でも、こんな泣き顔、みんなに見られるのは嫌だなあ。目を浅くこすってみたけれど、私の涙は止め処なく溢れ、ぽたぽたと、スカートを濡らした。
上を見上げると綺麗な空が広がっていた。透明な青が空一面に敷かれ、煙がそのまま舞い上がったような薄い雲がぼんやりと浮かんでいる。日差しも柔らかい。私の気持ちとは正反対の、あっけらかんとした天気だった。
そのとき。
ドアが開かれる音。余程強く開いたのか、バン、と強い音が耳を劈く。きぃきぃ、と錆びたドアが往復して、緩やかに閉まっていった。
痛んだ茶髪がサラリと揺れたのが一番に目に入ってきた。そのあとに、キャラメルブラウンの両目、病的なほどに白い肌が見えて、ああ、木坂さんだ、と分かった。
木坂さんは、いつも教室で異質な存在だった。絶対に誰とも関わろうとしないし、授業中はいつも空席だった。教室に居るときは突っ伏しているか、何を考えているのか分からない空虚な目で窓の外を眺めているかのどっちかだ。面白半分で話しかけるクラスメイトが居たけれど、返事以上の会話はしないし、教師に怒られても男子に掴みかかられても、無表情で前を見据えるだけ。満足に反応を示さない彼女に、いつしか誰も興味を抱かなくなっていった。
そんな木坂さんが、今、私の目の前に居る。何を考えているのか分からない、甘い茶色の目が、こちらを見ている。
「木坂さん……」
私の呟いた声はひどく涙声で嗄れていた。
木坂さんは私の顔を見てにっこりと微笑んだ。にぃっと口を引いて、ピンクの唇が綺麗な形で曲線を描く。それは、いつも仏頂面の彼女には珍しい表情で、私は思わず呆気にとられた。面食らっている私を他所に、彼女はずいずいと、私の方に近寄り、少しだけ目を細めて見る。
近くで見る彼女の頬は真っ白で、キメが細かい。睫も長く、目は少しだけ潤んで見えた。
「泣いてる顔、可愛いね」
「え……、木坂さ……ん?」
彼女はにこ、と笑って、少し背伸びをしたかと思えば、私の目元を舐めた。ざらざらとして生暖かい舌の感触にぞわり、と鳥肌が立つ。
「驚いている顔も可愛い」
口元が猫の口のように歪んでいる。悪戯に微笑む彼女はどこか色っぽく、妖艶だった。
私の涙から出来た頬の筋を、彼女の舌が這う。私はぎゅ、と目を瞑り、思わず吐いた息が予想以上に熱を帯びているのを感じた。
「もっと、もっと。可愛い顔が見たいなあ?」
彼女の柔らかい唇が私の唇に触れる。
いつもよりも、すごく近い位置で彼女と目があった。
書いててすごく楽しかったです。
可愛い女の子大好き´`*!
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