第 6 話
「大丈夫ですか?」
『『『……中二病?』』』
機械音による問い。
【サークルHSN】の3人は、心の中で同じ思いに至っていた。
男子なら大小の差はあるけれども必ずかかる病気。
救ってくれた人間を見ての3人の率直な感想は、中二病そのまんまの姿をした人間だった。
身に着けている衣装は忍び装束、サイバーパンク風のフルフェイスマスクを被り、機会によって声を変えている。
その身なりを見れば、3人がそう思ってしまうのは当然だ。
「……え、えぇ……」
「……あ、ありがとうございます」
「……た、助かりました」
痛々しい恰好をしているとはいっても、自分たちの命の恩人に変わりはない。
そのため、3人は戸惑いつつもリディオに感謝の言葉を述べた。
「最初のブラックウルフ3頭を相手にしていたらどんどん増えてしまって……」
「……ん~、そうですか……」
戦士風の装備をしている博也が、ブラックウルフに囲まれてしまった理由を呟いた。
こうなってしまった理由を理解していない様子の呟きに、リディオは言いにくそうな反応を示す。
「……何か駄目だったですか?」
リディオの反応を見て、自分たちでは気付かなかった良くない原因があるのではないかと、博也は問いかける。
「ここは音が反響するので、他のブラックウルフたちの耳に聞こえてしまったのではないかと……」
「……あぁ」
「なるほど……」
リディオと【サークルHSN】の3人が今いる場所は天井も高く、音が少し反響するような場所だ。
広いから動き回れて戦闘しやすいと彼らは思ったのかもしれないが、ここで戦闘すれば反響によって別の場所にいたブラックウルフたちに聞こえてしまうことになる。
それが、次々にブラックウルフたちが集まってしまうような状況を生み出してしまったのではないかと、リディオは3人に説明する。
それを聞いた回復薬の夏雄と魔法使いの修平は、頷きをもって納得の意を示した。
「ところで、3人て大学生ですか?」
「えぇ……」
「まぁ……」
「……はい」
顔や身長や態度、細かい仕草や肉体の作りなどを見ていると、3人は若いと言っても高校生に見えない。
そのため、3人が大学生なのではないかとリディオが問いかけると、思っていた通りの返答が来た。
3人からすると、何でそんな質問をしてくるのだろうと言ったところだろう。
「じゃあ、自分より年上なので敬語じゃなくてもいいですよ」
「「「えっ!? 年下!?」」」
『『『……まぁ、そうか……』』』
あれだけのブラックウルフの集団を、ソロであっという間に倒してしまうような実力の持ち主だ。
ヘルメットで顔が見えないとはいっても、ある程度の年月ダンジョンに挑戦している探索者なのではないかと【サークルHSN】の3人は思っていた。
そのため、年下だと知った3人は思わず驚きの声を上げてしまった。
しかし、自分たちよりも年上の人間が、こんな恰好をしていると思うと痛々しすぎるため、年下と言われた方がすぐに納得できた。
「この近くにいたブラックウルフたちは倒したみたいですが、ここにいると同じ目に遭うかもしれません。魔石を取って移動しましょう」
「……あ、あぁ……」
「わ、分かった」
「すぐにやろう」
追加が来ないところを見ると、近くにいたブラックウルフたちは倒せたみたいだが、他の魔物が寄ってこないとも限らない。
そのため、リディオは魔石の採取を済ませ、この場から離れることを3人に提案する。
その提案に納得した3人は、解体用と思われる短刀を取り出し、リディオと共に魔石の採取を始めた。
「改めて、俺たちは【サークルHSN】っていうチャンネルに投稿している大学3人組で、俺が博也」
「修平」
「夏雄だ」
ブラックウルフの魔石を取り終えたリディオと3人は、近くの通路に移動する。
ここなら先程の場所よりも狭いが動き回れるし、音は反響しないし、左右を警戒していれば魔物の急襲を受けることはない。
そこで、3人は改めて自己紹介をしてくれた。
「あぁ、3人の頭文字ですね?」
「その通り」
【サークルHSN】というチャンネル名を聞いて、リディオはすぐにHSNの部分が3人の名前の頭文字のイニシャルだと分かり問いかける。
それに、博也が頷きで返した。
「自分は【ASMR~魔物の悲鳴~】っていうチャンネルで投稿しているリディオと言います」
「……【ASMR~魔物の悲鳴~】?」
「すごいチャンネル名だな……」
「チャンネル名まで……」
3人に対し、リディオも自己紹介する。
すると、チャンネル名を聞いた3人は、またも微妙な表情へと変わる。
恰好だけでなく、チャンネル名まで中二っぽいと感じたためかもしれない。
「あっ!?」
「……どうしました?」
お互いが自己紹介を終えたところで、博也が突然大きな声を上げる。
魔物が来た気配はないため、何事かと思ったリディオは、その理由を問いかけた。
「すまん! ずっと配信中だったみたいだ……」
いまさらになって、博也は撮影用小型ドローンのランプがついていることに気が付いた。
そして、自分たちが配信していたことを思い出し、すぐさま許可なく配信していたことをリディオに謝罪してきた。
「…………あっ……」
3人を助けることに意識を向けていたため、ドローンのことは失念していた。
そのため、知らないうちに自分が他のチャンネルに登場してしまったことに今更ながらに気付き、思わず声を漏らしてしまった。