第 2 話
「ギャウ!!」
「……予想通り大したことないみたいだな」
今日から二桁の階層に入ったため、念のため警戒をしていたのだが、出てくる魔物は大したことがない。
そのため、投稿ネームリディオは、目の前に現れた小鬼の魔物、ゴブリンの首を腰に差した忍者刀で斬り飛ばしてつまらなそうに呟いた。
どうして予想通りかというと、他の投稿者の映像を見て、出現する魔物の傾向を把握していたためだ。
「初見でも問題なかったかもな」
この程度の魔物たちを相手にするなら、他の投稿者の映像を見て予習してくる必要もなかったかもしれない。
予習してきた分、ヒリヒリするような感覚が全くなくなってしまい、テンションが下がってしまった。
「まぁ、安全に進めるなら良いか……」
隕石の落下によって突如できたダンジョン。
そのダンジョンには多くの種類の魔物が存在していて、その魔物の体内には魔石と呼ばれる物が存在している。
研究者たちによって、その魔石からエネルギーを抽出できるようになったことになり、資源の多くを海外に頼らなければならない状況から脱出することに成功。
それによって、日本の経済は急成長することになった。
そうなると、少しでも多くの魔石を手に入れ、より国を豊かにしたいと考えるもの。
政府は有資格者にダンジョンを開放し、魔石を採取することを許可した。
ダンジョンに入れるのは隕石落下時に、落下地点から2km以内に存在していた人間、その人間の血を引く者に限られている。
魔石を得、それを換金すれば大金を手に入れることができるが、魔物との戦闘には危険が伴う。
安全に資金を得られるのならそれに越したことはない。
そう考えたリディオは、気持ちを切り替えて先へと進むことにした。
「この層もあっさり攻略できそうだな……」
地下へと階層を広げるダンジョンは、その階層ごとに内部が違っている。
時には西洋風の城のようない壁と床の通路をしていたり、地下で太陽がないのにも関わらずジャングルのような内部になっている階層もある。
そして階層を重ねるごとに魔物の種類や数が変わり、強さも上がっていく。
だが、リディオの実力からすると、はっきり言って変化ないに等しい。
ここまで、1日で1層を攻略してきたリディオ。
別にそれにこだわっているわけではないが、今日も1日でこの階層の攻略ができてしまいそうだ。
「んっ?」
10層は洞窟のような通路が迷路のように広がっている造りになっていて、ところどころ光が灯っていて薄暗くなっている。
ダンジョンが灯しているのだろうが、もう少し明るくしてもらいたいところだ。
しかし、他の探索者のVpostチャンネルで予習をしていたため、この程度のことは予想していていたため、リディオは100均で購入したヘッドライトを付けて移動している。
そのヘッドライトが照らす先に、一瞬何かが動くのが見えた。
「「「ガルル……!!」」」
薄暗くしているのは、ここに出現する魔物を隠すためなのだろうか。
それとも、魔物たちが自分の特徴を有利にできるところに住み着いていたのだろうか。
どちらなのかなんてわからないが、姿を現したのは全身黒の毛並みをした三頭の狼たちだった。
ヘッドライトによって姿を消している意味がなくなった狼たちは、リディオとの距離を少しずつ詰めてきた。
「はぁ~……」
涎を垂らし、「獲物を見つけた」と言うように自分を睨みつけている狼たち。
そんな狼たちを見て、リディオはため息を吐く。
「……犬が少し増えても大して変わらないんだよ」
「「「ッッッ!?」」」
狼たちが重心を下げ、今にも獲物に襲い掛かろうとした瞬間。
その獲物であるリディオの姿が消える。
そして、声が聞こえたと思った時には、リディオは狼たちの一頭の背後に立っていた。
「ッ!?」
背後に立ったリディオは、いつの間にか抜いていた忍者刀を振り下ろす。
それにより、声を上げる間もなく狼の首が地面に落ちた。
「ガルルッ!!」「ガウッ!!」
仲間が殺られて怒りの表情に満ちた狼たちは、息を合わせるようにリディオに襲い掛かる。
「フッ!」
「「ッッッ!?」」
「フンッ!」
狼たちによる素早い噛みつき攻撃を、リディオは笑みを浮かべつつ回避する。
そして、小さく息を吐き、攻撃後で無防備の状態になった二頭の狼の首を忍者刀で斬り落とした。
「他には……いないな」
姿を現したのが三頭だからと言って、すぐに警戒を解かない。
もしかしたら、その瞬間を狙って残っている可能性も考えられるため、リディオは周囲を見渡す。
どうやら、隠れられるところはない。
そのことを確認し、リディオはようやく肩の力を抜いた。
「それにしても、ブラックウルフか……」
この狼の名前を呟くリディオ。
見た目そのままの名前で、ダンジョンで初めて見た者がつけたそうだ。
「前世と同じ名前だな……」
忍者刀の血を拭って鞘に納め、リディオは小さく呟く。
この言葉からも分かるように、彼は転生者だ。