第 1 話
「なぁ、隼人ランキング見たか?」
「あぁ、相変わらずHOLYが1位だったな」
休み明け月曜の朝、とある高校の教室の男子たちによって交わされる会話。
今では定番のやり取りだ。
隕石の落下によって突如地球にダンジョンというものが生まれ、その内部には地球上には存在しない生物である魔物が存在していた。
そして、その魔物の体内から採れる魔石と呼ばれる石が、研究の結果新エネルギーとして活用できると発覚した。
そのため、ダンジョンを管理することにした政府は、魔石を集めるためにダンジョン内に入り採取の許可を与えた。
ダンジョンに入るために必要なのは探索免許と呼ばれるもので、免許取得は16歳以上となっている。
好奇心からか、探索免許を取得する者は少なくない。
しかし、免許取得はしてもダンジョン内で魔物を相手に戦うには危険が伴うため、内部に入らないただの免許持ちばかりだ。
政府はダンジョンに入ることは許可しても、大怪我を負おうが、最悪命を落としても、本人が認めたうえでのことと完全に自己責任としているため、免許持ちでも奥深くまで探索に行ける者は少ないのだから中に入るのを躊躇うのは仕方がないことだろう。
ダンジョン出口で魔石を売ることで収入を得る探索免許取得者(探索者)だが、魔石は大きいほど高値で買い取られ、それを得るには地下の階層へ向かう必要がある。
その分、階層を下るたびに出現する魔物は強力になっていくため、危険度も増していく。
そんななか、下の階層に行かなくても収入を得ようと、魔物との戦闘動画を投稿する者が増え始めた。
動画投稿チャンネルVpost。
そこに投稿するポスター(poster)と呼ばれる人々だ。
最初は上の階層の戦闘でも少しの儲けが出ていたが、見慣れた者たちはより刺激を求めるもの。
より下層の魔物との戦闘動画を投稿するチャンネルに、人気が集中するようになっていった。
そして、毎週日曜にその視聴数ランキングが発表されるため、休み明けの月曜日はそのランキングの話で盛り上がるのがどこの学校でも同じだ。
現在1位なのが、先ほども出たHOLYという名前で投稿しているチャンネルだ。
その人気の理由は明白。
探索者の中でも、深い階層で魔物と戦っている動画を投稿しているからだ。
「ホーリーも良いけど、俺はやっぱりレモンちゃんの方が好きかな……」
「輝也は見た目重視だからな……」
「うるせえ!」
彼らの話に上がった「レモンちゃん」というのは、HOLY同様Vpostの中でも人気の高いposterだ。
モデルとしてもやっていけるのではないかというような整った容姿とスタイルをしているにもかかわらず、魔物相手に勇敢に戦う姿勢が評価されている理由だ。
「康介は? 誰の動画見てんだ?」
「えっ? 俺? 俺は……」
「相変わらず動物の動画ばっか見てんだろ?」
「……悪いかよ」
隼人に問いかけられた康介という少年が返答する前に、輝也が先回りするように問いかけてくる。
Vpost好き仲間の3人だが、康介は動物映像好きということで2人と仲良くなった。
それは今でも変わっていないため、 康介は輝也の言葉に拗ねたように声を上げる。
「でも、ダンジョン関連も見てるよ」
確かに動物物の映像をメインに見ているが、最近はそればかりではない。
2人の影響から、ダンジョン関連の映像も見るようにしている。
「へぇ~」
「どんなの?」
「さっき2人が言ってたのとか……かな?」
2人がHOLYやレモンのチャンネルが好きなのは、毎週のように聞かされているので分かっている。
そのため、彼らに話を合わせるためにもその2つのチャンネルは見るようにしている。
「HOLY格好いいだろ!?」「レモンちゃんかわいいだろ!?」
「あ、あぁ……」
康介が自分と同じチャンネルを見ているということを聞いた隼人と輝也は、すぐさま推しチャンネルの良さを訴えかけてきた。
その圧に、康介は引き気味に同意するしかなかった。
「おい! 席着け!」
朝のホームルームを始めるために、担任が入ってきた。
それを合図にするように生徒たちは会話をやめ、自分の席に着くために散り散りになる。
自分の席に座る康介の所に集まっていた隼人と輝也も同様に、自分の席へと戻っていた。
◆◆◆◆◆
「……さてと、始めるか……」
ダンジョン内。
1人の男が小さく呟き、手のひらサイズのドローンを取り出す。
持ち主が簡単なプログラムをすることで、一定距離から魔物との戦闘を自動録画してくれるカメラ付きドローンだ。
このドローンができたことで、ダンジョン内での戦闘を配信するposterが増え、中には人気の探索者も出現するようになったと言ってもいい。
「今日から2桁だから、警戒しないとな」
ダンジョンは地下へと広がっていて、彼は今日から10層に入ることにしている。
ゲームのように、下の階層へ進むごとに出現する魔物が強くなる。
しかし、ゲームとは違いって、大怪我をして動けなくなればそこで人生終わりを迎えることになる。
つまり、死だ。
その場合、死体を地上まで持ち帰ってくれる仲間がいなければ、時間が経過するとダンジョンに吸収されて骨も残らないため、遺族は失踪宣告後に遺体のない葬式をおこなうことになる。
そのようなことにならないようにと、彼は警戒しつつドローンを引き連れて10階層の攻略のために歩を進めた。
「……何だ? あいつ……」
「あぁ、おかしなヘルメット被って……」
ダンジョンの一桁台には、それなりの人数の探索者が入っている。
そして、先ほどの彼を見た探索者たちは小声で感想を交わし合う。
何故なら、サイバーパンク風のフルフェイスヘルメットを被り、全身黒の忍装束を身に着けた中二病丸出しの人間が、一人でダンジョン内を闊歩しているからだ。
ドローンを飛ばしているところからposterであることは理解できるが、あんな姿の映像を投稿しているなんて、恥ずかしいと思わないのか。
仲間だと思われるとこちらは恥ずかしい。
そのため、他の探索者たちは、彼と関わりたくないため遠巻きに見ていた。
「どんな魔物が出るのかな~?」
他から白い目で見られるような恰好をしているということなど気にすることなく、ヘルメットの男は楽し気に歩を進めて行ったのだった。