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9話 授業

「竜に乗るには様々な知識、技術が必要になる」


 先生は前置きをする。


「例えば天気の知識、ベテランの竜騎士にもなると山岳での飛行も多くなる。しかし、山の天気は移ろいやすい。そこで天気の知識を活かすことでどこまで飛行していていいかのデッドラインが見極められるようになる」

「はい、先生!」

「なんだ?」


 生徒が質問する。


「単純に雨の日は休めばいいだけじゃないですか?」

「いい質問だ。例えば、今ぎりぎり飛行できる程度の雨だとするだろ? そして、これ以上悪化したら自分の命が危ないっていう状況の時に、これからどんな天気になるのかの判断ができないと危険だ。その知識がないと、そういった不安定な天候の場合、飛行を断念せざるを得ない。しかし、これは勿体無いだろう? だから、天気の知識が必要なんだ」


 先生は教科書のあるページを開くように指示する。


「天気の知識だけでない。他にも竜に対する知識を高め、パートナーが100%の力を発揮できるようにするのも大事だ。他にも、飛行の際に騎乗テクニックに関わる、中でも最も大事な技術である姿勢制御は重要だ」


 先生は次のページを開かせる。


「姿勢制御とは、竜への騎乗中における姿勢の制御のことをいう。呼んで字の如くだが、これがまた奥が深い。これがどれだけ上手いかでその竜のポテンシャルをどれだけ引き出せるかが変わるといっても過言ではない。例えるなら……そうだな。伝わるか分からんが、競馬の騎手の姿勢と同じくらい大事だ」


 その例えに生徒たちからは微かに笑い声が聞こえる。

 皆、その例えでは分からないと困惑しているのだ。


「ちっ、世代が違ったか。まあいいだろう。騎竜中の姿勢には主に四つある。一つ目が『一体姿勢』、竜にしがみつくような姿勢だな。空気抵抗が少ない反面、重心制御はほとんどできない。お前たちも高等部の2年ぐらいになると重心制御だけで竜に指示を飛ばすようになるから、これは欠点だな。竜を操作不能になる」


 先生の指示に従って、生徒たちが次のページを開く。

 ばらばらと紙を捲る音が響いた。


「二つ目は『斜角姿勢』だ。前方に対して上り坂を作るような、ある種猫のような姿勢だ。お尻を高く上げ、頭を低く保つ。騎馬でもこの体制を取ることが多いが、騎竜における『斜角姿勢』は重心制御が大変だ。下手すると振り落とされるが、竜を制御するのも容易い」


 次のページをめくる。


「三つ目は『逆斜姿勢』だ。これは『斜角姿勢』と逆の姿勢だな。お尻を下げて頭を高く保つ。視界が広くとれて重心制御もしやすい。『休憩姿勢』とも呼ばれるこの体勢は空気抵抗が大きいため、荒っぽい操竜のときには行わない姿勢でもあるな」


 最後のページをめくる。


「四つ目は『制御姿勢』だ。これは頭と尻を同じ位置に保つ姿勢で、『斜角姿勢』よりも空気抵抗が高く、『逆斜姿勢』よりは低い。重心制御がしやすく、安定性が高いため人気がある姿勢だ」


 最後に先生はいくつかの言葉で締めくくる。


「これはまだ基本中の基本だ。実際にはこれらを組み合わせて騎竜することがお前たちの仕事、しかし、何事も基本から始まるので忘れないように」


 ◇


「中間考査?」

「ああ」


 ノイアスは自分のハーネスを相棒のハーネスにかけながら頷く。


「この学校は3学期制で、それぞれ一つの学期に中間考査と期末試験があるんだ」

「……期末試験に受からないと、退学?」

「まさか。単に試験の形式をとってるだけで中間考査と何も変わらない……期末試験の成績で留年したりはするけどな」


 俺はその言葉に震え上がる。


「アルディオは大丈夫だよ」

「内容は……?」

「んー、どうだろ。上下操作・水平飛行・旋回ぐらいはやるんじゃないか?」

「……まだ竜に乗れてない人もいるのに?」

「な、残酷だよ」

「……」


 先ほどノイアスがあげた操作は操竜において最も基本的なものだ。

 俺は大丈夫だろうか。全部独学なんだが……


「そういえば、アルディオのハーネスはまだ届いてないのか?」

「うん。もう少しかかるだろうって」

「この巨体だもんな。特注品になるか」

『レディに向かって巨体とは何じゃ!』

「GURRR!」

「おっと」


 イシェリアが威嚇して、ノイアスが咄嗟に距離をとる。


「怒らせたかな」

「……イシェリア」

『はん』


 イシェリアが長い息吹を出す。

 辺りに独特の匂いが広がって、思わず鼻を摘んだ。

 

「イシェリア、臭い」

『何じゃと!? 撤回せい、撤回!』「GURRRRR」

「はは、アルディオも嫌われたな」

「……」

「じゃあ、そろそろ練習を始めるか」


 ノイアスは自分の乗騎に跨る。

 俺も渋々といった様子のイシェリアの背中に登った。


「そう言えば、ノイアスの竜はなんて名前なんだ?」

「ん? ベリオコットだ、ベリオコット。何でだ?」

「いや、ちょっと気になって」

『妾の方が良い名じゃろう?』

「……ちょっと子供っぽい」

「そうか?」

「あ、いや、そっちじゃなくて」


 ノイアスに首を傾げられる。

 しかし、すぐに彼は竜に指示を出して羽ばたかせた。


「羽ばたけ、ベリット!」

「KSH AAAA!」

「……ニックネームはベリットっていうんだな」

『早う行かんのか? ノイアスとやらが待っているぞ」


 見上げると、滞空しているノイアスはこちらを覗き込んでいる。


「今行く! イシェリア、飛べ!」

「GURRRRRR!」


 イシェリアの大きな翼がはためいて、暴風が吹き荒れる。

 すぐさま急上昇すると、ノイアスに追いついた。


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