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6話 飛び級と別れ

「飛び級?」

「そう」


 あれから少し経って、先生はそんなことを真面目な顔で言ってきた。


「どうして?」

「貴方、竜に乗って飛んでいたでしょう? それで、先生たちと話し合った結果、貴方をこの初等クラスに収めておくにはもったないと考えたのよ」

『当然じゃな』

「うわっ」


 つい声を上げてしまう。


「……どうしたの、アルディオ君?」

「いや……何でもないです」


 いきなりイシェリアの声がした気がした。

 気のせいだよな? イシェリアはここにいないし。


「それで、どうかしら?」

「……」

『受けろ、その話』

「!!??」

「どうしたの、さっきからキョロキョロして」

「いや……」


 まさか、アイツ、どこからでも俺に話しかけられるのか?


『さよう』


「うわっ」

「……?」


『妾はお主とパスを繋げて話ておる。故に、お主からも思うだけで思念を読み取り妾が受け答えできるのじゃ』

『……つまり、こういうことか?』

『さよう』

『……何だか気持ち悪いな』


 そう言うとイシェリアから怒号のような抗議が飛んでくる。


『とにかく、さっさとその話を受けろ! 竜騎士に、妾に乗りたくないのか!』


「……分かりました。受けます」

「えっ、良いのよ? 無理しなくても」

「いえ、受けさせてください」


 どうやら、俺が奇行に走ったことで乗り気でないと見られてしまったらしい。

 イシェリアの言う通り……いや、彼女のせいで勘違いされたんだった。


 それから俺の引っ越しの準備が始まった。

 基本的には俺の荷物はないので、荷造りはしなくてよかった。


「……アルディオ君、行っちゃうの?」

「……」


 銀の君、などとアーガル君ではないが小洒落て呼びたくなるほど綺麗な銀髪をしたエルシアさんは寂しそうにしていた。


(もし俺の年齢が思春期に差し掛かっていたら、悩んだんだろうな)


 しかし、俺の脳みそはいまだ男女の区別も曖昧な時期である。

 特に後ろ髪も引かれることなくお別れできそうだった。


「うん、行くね」

「……寂しくなるね」

「そうだね」


 しばらく何気ない会話が続く。


「……どうして、アルディオ君は竜騎士になりたいの?」

「え?」

「だって、だから、飛び級するんでしょ?」

「……」


 俺は一度考える。

 脳裏に一瞬、これは引き留められてるんではないかと考えがよぎった。

 しかし、だとしてもどうでもいいかと俺の中の子供の部分が断じる。


「空が好きなんだ」

「……」

「空に触れたくて、空を駆けたくて、空を飛びたくて、そこを悠々と羽ばたける竜が羨ましかった」

「でも、空には触れられないよ?」


 エルシアは不満そうだ。


「うん、けど、それを確かめたいんだ」

「分かりきってても」

「うん」

「……そっか」

「俺は……竜に乗りたい。触って、乗って、一緒に飛んで、触れ合いたい。竜のことがもっと知りたい。だから、竜騎士になるんだ」

「……空も、竜も好きなんだね」

「うん、大好きだ」


 そう言うと、何かを諦めたような顔をして、エルシアさんはこちらに向く。


「あっちでも頑張ってね」

「うん、頑張る」


 こうして、俺は周りにちょっと惜しまれつつ旅立つことになった。

 ちなみに、アーガル君はずっといじけていた。

 あのぐらいの年齢ならよくあることだと思う。


「さようなら〜」

「「「さようなら〜」」」

「……」


 よくわからないお別れの儀式。同じ校舎なのに必要なんだろうか?


「……さようなら、私の初恋の人」


 エルシアが何かを言ったような気がしたが、春の風にかき消された。


 ◇


 その日に俺は中等部一年の寮に移り、試しに中等部の制服に袖を通した。


「見てみて、イシェリアー」

『何じゃ、我が片割れよ』


 飼育小屋に行ってイシェリアに制服を見せびらかす。


「良いだろ〜」

『はん、妾の方がよほど美しい銀の鱗を身に纏っているわ』

「でも、イシェリア全裸じゃん」


 すると、とんでもない形相でイシェリアは睨んでくる。


『……言うな』

「はいはい」


 翌日、俺は教室の前で挨拶をした。


「今日からここで学ぶアルディオです。よろしく」

「じゃあ、アルディオ。お前はあそこの席に座れ」

「はい」


 今回は愛想のいい隣に恵まれなかった。

 まあ、前回が大当たりみたいなものだったんだろう。


「……小さいな」


 隣でボソッと言われた。

 あ、やっぱり外れかも。


 その日の最初の授業は屋外での実習だった。

 皆、竜たちを引き連れている。というより、用意してもらっている。


「では、皆さん。まずは竜と触れ合ってみてください」


「……」

『……』


 イシェリアも連れてこられたのだが、明らかに大きい。

 存在感だけで周囲を威圧してしまっている。

 そのせいで俺の周りだけ竜が萎縮してしまっているようだ。


「どうする?」

『どうするも何も……』


 触れ合え、などと言われてもどうしたらいいか分からない。

 しかし、周囲は意外に苦戦しているようだ。


「FSHN!」

「うわっ」


「おい、これどうすんだよ〜」

「知るかよ。とにかくやるっきゃねえ」


 わーわー言ってるのはどうやら金や権力でここに入った子どもらしい。

 逆に実力で引き入れられた庶民育ちの子供は落ち着いて指示に従っている。


「くそっ、何で庶民どもなんかに」

「おいそこ! 問題ある発言は慎む!」

「ちっ」


 どうやらここでは差別的発言も禁止らしい。


「言っただろう! お前たちには組織文化への理解が足らない。お前たちはチームだ。チームが、チームメイトを貶すようなことがあってはならない! 分かったか!」

「……分かりました」


 育ちのいい子供も案外聞き分けがいいらしい。

 結局、悪戦苦闘しながら竜と向き合っている。


「よし、注目!」

「「「……」」」

「お前たちの中に、まだ身分差別なんていうふざけた代物を持ち合わせてる奴がいるらしい。よって、それがどれだけ馬鹿げたことかを見せてやる!」

『おい、準備しろ』

「え?」


 その瞬間、俺に一斉に注目が向く。


「アルディオ!」

「……は、はい!」

「お前は初等部からの飛び級生だよな? だったら、その実力を見せてみろ!」

「……」


(すっげえ無茶振り……)


 よく考えてみても竜騎士になるための学校なんだから、ここは訓練校ということになる。

 だとしたら、この規律の高さも頷けるか。


「……分かりました」

『小僧、背中に乗れ』

「うん」


 俺はイシェリアの銀の巨体によじ登っていく。


「おい、何を──」

「羽ばたけ!」

「GYAOOOOOO!」


 瞬間、暴風が各々を襲う。

 イシェリアの大きな翼がはためき、瞬間的に上昇したのだ。

 当然、俺の腕にも相当の力がかかってくる。


「ぐっ……」

「おい、何して──!」

 

 すぐに先生の声も遠くなって聞こえなくなった。


「イシェリア、回れ!」

『なるほど』


 イシェリアはその場でローリングする。

 俺は吹き飛ばされないよう遠心力に耐えながら、鱗にしがみついていた。


「がっ……はぁ、はぁ」

『もう限界かえ?』

「まだまだ!」


 それから俺は在らん限りの力を振り絞ってイシェリアに複雑な飛行をさせた。

 多分、力を見せることはできたと思う。


「……まじかよ」

 

 アルディオの担任教師は空を見上げて絶句した。


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