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ロワイアルゲーム ~異世界なんて適当にチーレムやっとけ~  作者: とりうさぎ
復讐編

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【95】地雷

「“ダイブ”って聞いて何をするかは予想がついた。前に神白たちが黒尾にやってた最悪のノリの一つだから。それで私はどうにかそれを食い止められないか考えた。でも黒尾を説得するのは無理そうだし、力づくでやめさせるのも難しい。そこで私は雲藤を利用する方法を思いついたの」


 ダークテイルのアジトとはまた別の洋館。本館からトンネルを少し戻り、分かれ道を進んだ先にこの別館はある。三階建てで本館よりはやや小ぶりだが、おおよその形状や敷地は同じである。

 ouro6oros(ウロボロス)たちが現在寝泊まりしている館らしく、連中が俺を保護するための部屋も用意されていた。本館にあった雲藤さんの部屋に似ているが、それよりも一回り大きく、家具も多い。


「雲藤さんを利用?」

「あいつの『空気(エアー)』は空気を操る。それを利用できれば、上昇気流かなんか発生させて神白たちも大事にならない。だから、麦嶋は雲藤の方に行ってもらったの。あんたが懐柔してくれれば、あいつがスキルを使ってくれると思って」

「なるほど、上昇気流ね。つまり、俺も利用されたってわけだ」

「そんな卑屈な言い方しないで。利用じゃなくて信用だから。あんたの場合は」

「お、おう」


 口に出してから照れくさいことを言ったと察したのか、ワインレッドの間仕切りカーテンの向こう側からわざとらしい咳払いが聞こえてくる。

 俺はベッドに寝そべりながらなんとなく天井に視線をずらし、彼女の話に耳を傾けた。


「雲藤が動いてくれなくても、私の『7(セヴン)』でどうにかするつもりだった。でも──」

「カードを奪われて、2ana(ラーナ)に小さくされたと」

「黒尾の取り巻きやってた黄髪の女が俊敏でさ……あいつにカード取られた。それにしても、まさか屋上から“ダイブ”させるとはね。あの高さなら普通に死ぬって分からないかな? 雲藤がいなかったら本当まずかったよ。麦嶋のおかげだね」


 返答しようとしたら、カーテンの隙間から少女が顔を出した。


「あの……用意してもらってこんなこと言うのもなんだけど、こういう服は着たことないというか、恥ずかしいというか」


 もじもじしている七原少女に、raffl3sia(ラフレシア)がソファから立ち上がって抗議する。


「はぁ? あたしの服が気に入らないってわけ!?」

「冷静に考えたら私たち初対面だし、敵同士だし、服を借りる義理とか無いし」

「それはこっちのセリフだし!? でもおまえが貸せって脅すから貸したんだろ!? 体型も同じくらいでちょうどいいとか理屈っぽいこと言ってさ!」

「そんなこと言ってない」

「言ったじゃん! なんなのこいつ!?」


 俺はベッドから手を伸ばし、片側のカーテンを引っ張った。仕切りが半分解放されて、彼女の姿が露わになる。


「ちょ、ちょっと!?」

「なんだ可愛いじゃん。似合ってる似合ってる」

「……っ!」


 それはいつしかムゥでraffl3sia(ラフレシア)が着ていた黒のゴスロリファッションだった。胸元のリボンや腰のベルトなどの小物は白で、垂れ蓋付きのポケットなんかもついているミリタリー風の衣装。今の彼女には若干大きめでダボッとしており、スカートも膝下まできっちりあったが、それはそれで上品だし悪くない。

 しかし七原さんはまだ着慣れていないようで、閉まっている方のカーテンの端をつまんで姿を隠した。


「もう……いいでしょ」

「わぁ! かわいい~!」


 俺と一緒にベッドに寝転がっていたエリーゼが体を起こし、羨望の眼差しを向けた。その様子を見て、raffl3sia(ラフレシア)もどこか得意気だった。


「ふふん! 当然よ。だってあたしの服だもんっ!」


 服がいいのか、七原さんのポテンシャルが高いのか、その両方か。分からないがとにかく似合っていた。


「恥ずかしがんなくてもいいのに。きっと知華子ちゃんも今の七原さんを見たら可愛いって──」

「え!? ほ、本当!? 知華子が私を?」

「う、うん」

「ふふ、えへへへ……えひっ! もう麦嶋ったら! ハネムーンはまだ早いよぉぉ!」


 笑い方きも。そこまで言ってねぇし、どんだけ好きなんだよ。

 raffl3sia(ラフレシア)が「え、なにこいつ? 李知華子のこと好きなの?」みたいな視線を向けてきたので、俺は静かに数回頷いた。raffl3sia(ラフレシア)の開いた口が塞がらない。


「ところで雲藤さんの話に戻すけどさ──」

「戻すの!?」


 raffl3sia(ラフレシア)に突っ込まれるが無視する。


「──もしかしたら雲藤さんは、俺たちが思ってる以上に黒尾君の復讐に反対なのかもしれない」


 カーテンから姿を現し、ご機嫌な様子の七原さんが両手を頬に添えて言葉を返してくる。


「どういうこと~?」

「だって俺、言うほど懐柔できなかったし。結局自分で屋上行って、黒尾君を止めに行ったじゃん」

「あーそういえばそうだね」

「それに一人目が落とされたとき、まだ話始めてちょっとしか経ってなかったよ。だから、彼女はなんだかんだ言って初めから彼らを助けるつもりだったんじゃない?」


 すると、リビングの真ん中あたりでスクワットをしているエラーコード。柔道着を着た二足歩行の巨大カブト虫がしゃがれ声を出す。


「妙じゃのう。黒尾を始めとする、かの五人の転移者(プレイヤー)の恨みは本物じゃ。そんな敵に塩を送るような真似するとは思えんが……」

「誰しもおまえらみたいに争いが好きなわけじゃないからな。気が変わったんだろ」

「しかし、もし仮に黒尾の復讐が打ち止めとなった暁には、わしらとダークテイルの休戦協定も破棄となる。おぬしの保護はそれでも続けるが、それ以外の転移者(プレイヤー)は即刻殲滅対象じゃ。覚悟しておけ」


 七原さんが鼻で笑った。


「覚悟するのはそっちでしょ? もしそうなれば、私と麦嶋、神白のグループに加えて黒尾たちも一気にまとめて相手することになるんだから」


 そうなれば激熱だな。みんなでこいつら倒して、茉莉也ちゃんたちとも合流して、クラス全員でヴェノムギアを倒すんだ。ハッピーエンドまっしぐらだ。


「くっくっく。七原よ。おぬしに関しては今すぐ処理してもよいのだぞ?」

「あーそういうこと言うんだ?」

「んっ、うぐ!?」


 彼は突如胸を押さえて床に倒れた。


beet1e(ビートル)!?」


 raffl3sia(ラフレシア)が駆け寄るが、黒蛇がもう能力を発動しているようで、カブト虫は復活していた。


「お、おぬしよくも──」


 beet1e(ビートル)は目を光らせて臨戦態勢をとるが、すでに七原さんが鈍化をかけているらしく一歩も動けない。

 そんな彼を見兼ねて、すぐさま蛇が間に割って入ってくる。


「やめろ……近接攻撃主体の貴様では分が悪すぎる……それに黒尾直人は必ず復讐を成し遂げる……それで十分転移者(プレイヤー)は減らせるんだ……焦ることはない」

「じゃが、七原を放っておくのは──」

「いいや……放っておいて構わない……どうせ何もできはしない……我が何もさせない」


 蛇がなんらかの能力を発動した。

 エリーゼがいち早く異変に気づき、窓の外を指さし声を上げる。


「あ、結界~」


 この別館から黒尾君たちのいる本館へ行くには、一度トンネルに戻る必要がある。そのトンネルへと繋がる洞穴にどす黒い壁ができていた。ちょうど栓がされるみたいに。


 しまった。そういえばouro6oros(こいつ)、戦闘力が低い代わりに不死身とかテレポートとかに加えて、結界なんかも使える多芸な奴だった。ムゥでこいつらと出くわしたときにも使っていた。

 確かあのときはエリーゼが一発で解いてくれたんだったな。でも今は──


「ねぇムギ。お庭でかけっこしようよ~」


 無理そうだな。

 すると、ouro6oros(ウロボロス)がカードを構える七原さんを横目で見て、その赤い目を光らせる。


「貴様もあまり図に乗るなよ……七原茜」

「は?」

「これはある種の膠着状態だ……beet1e(ビートル)が貴様を屠れないのと同様……貴様もbeet1e(ビートル)を屠ることはできない……我がいる限りはな」


 瞬間、ouro6oros(ウロボロス)が倒れた。眼光が失せ、蛇が死ぬ。


「だったらあんたの寿命を──」

「──やはりな」

「!?」


 蛇の死骸が消え、そいつはベッドの上に何事もなかったかのように現れる。


「我は不死と無限を司る……どうやら『7(セヴン)』でも我を屠ることは叶わないようだ……したがって黒尾直人の復讐が終わるまで、貴様らはここから一歩も出さない……」



 ※  ※  ※



「くそ! 七原め……この僕をこけにしやがって!」

「申し訳ありません、クロー様。わたくしたちの不徳の致すところ──」

「うるさいっ! サイアたちは早く神白(クズ)どもを地下牢にぶち込んどけ!」


 異世界でできたガールフレンド。そのうちの一人、青い髪の美しい彼女に僕はつい怒鳴ってしまう。

 彼女は怯えた表情をするが、すぐに粛々と頭を下げ、他二人と階段を降りていく。


「く、黒尾君……」


 電車オタクの桐谷がどもりながら僕を呼ぶ。


「こ、これからどうするの? な、七原さんたちはたぶんまた来る。今度はもっと強引な手法を取ってくるかも……だ、だからもう──」

「だからもう!? もう、なんだ!?」

「え、えっと……」

「やめないぞ! 七原なんて関係ない! 復讐は続ける! てか、さっきからなんだ!? 君らだってそれを望んでたはずだぞ! これまで神白たちから受けた仕打ちを思い出せ!」

「……」

「茂田もそうだろ!?」


 茂田はいつも通り、ビビってるくせしてそれをごまかすように口笛を吹き、首を縦に振ってみせた。


 そのときだった。塔屋のほうから嫌な声が聞こえてきた。


「──あえあえ~? 茂田たち帰ってんじゃ~ん?」


 喉を限界まで引き締め、捻じって、拡張したような声。あざといを通り越して、もはや正気とは思えない萌え声である。


名波(ななみ)……」


 名波(ななみ)花怜(かれん)。ロワイヤルゲーム開始時、僕らと徒党を組み、同じ場所にスポーンした一人である。全身ピンクと黒のフリフリ地雷系ファッションをこよなく愛し、黒マスクと日傘は常備。兎のぬいぐるみみたいなハンドバッグは今日も彼女の肩にかかっている。それらをどこで調達したのかは謎だ。

 そして何より、彼女はデブだった。地雷系ファッションが、その名の通り爆発しそうである。


「茂田たちが帰ってるってことはぁ~? カレンてゃの好きぴとぉ……あのブスもっ! いるってことぉ~?」

「あぁ、朝吹(あさぶき)新妻(にいづま)? そういえば見てないな。どうなの?」


 小心者の茂田は目を逸らした。桐谷は顔を伏せつつも声を捻りだす。


「あ、あの。ごめんなさぃ」

「ふえぇ?」

「わ、忘れた、というか──」

「わすれた……わ、忘れたぁぁ!? おい電車ぁぁああ!?」

「は、はい!」


 地雷が踏み抜かれた。どすの効いた声が屋上に響き渡る。


「カレンてゃ言ったよなぁ!? 翠斗(すいと)きゅんと、あのブスを連れてこいって!」

「そ、そ、それどころじゃなかったっていうか……」

「うああああ! やっぱカレンてゃも行けば良かったんだぁぁ! もう死ぬ! 死んで殺す! 死ぬ殺す死ぬ殺す! 今死んで殺すのぉ!」


 名波がカードを出した。やばいやばい。


「待て名波!」

「ふぅーっ! ふぅーっ!」

「くっ……!」


 なんだよあの呼吸。獣じゃん。でも笑うな。耐えろ。

 そもそも、僕らからすれば朝吹と新妻はどうだっていい。あの二人に恨みはない(別に好きでもない)。こいつだけなんだ。彼らに異常な矢印が向いているのは。


「……分かった。ouro6oros(ウロボロス)に事情を説明して、朝吹たちのところに行けばいい!」

「はぁぁぁあああ!? 前は行くなって! そう言ったくせにぃぃぃ!?」

「それは、神白を生かしたまま攫うのが目的だったから! 君のスキルは殺傷能力が高すぎる! だから残ってもらったんだ……って何回も説明しただろ!?」

「だからぁぁ! 私のスキルは対象を選べるし、そこは調節できんのぉぉ! 死ねっ死ねっ! ブゥゥゥゥーッ!」


 こんな精神状態のやつが調節できるわけないだろ。


「くくっ……で、でもさ! もう神白は攫えたから! 好きにしろ!」

「グルゥゥゥゥ……ぅぅう」


 名波の呼吸が落ち着いた。

 彼女はカードをハンドバッグにしまい、黒マスクを少し上げて目を細める。


「んじゃ、そうしゅゆ~!」

「うん……」


 もうそのままどっか行け。マジで。

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