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ロワイアルゲーム ~異世界なんて適当にチーレムやっとけ~  作者: とりうさぎ
復讐編

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【88】ドスケベ

 エリーゼからraffl3sia(ラフレシア)へ光魔法が射出される。raffl3sia(ラフレシア)もすでに四方から木を生やし防御態勢を敷いていた。

 その一秒にも満たない攻防の中で、ニセ神白が俺を押しのけ立ち上がり、放たれた光線をもろにくらった。


「かは!」


 案の定、魔法に直撃したニセ神白の体躯に大きな風穴が空き、血飛沫を上げて倒れる。

 しかし、次の瞬間なぜかエリーゼの体に穴が空き、彼女は膝から崩れ落ちてしまう。


「……ッ!?」

「エリーゼ!?」


 まただ。またエリーゼとニセ神白の状況が逆転した。これは何だ? こいつのスキルなのか?

 ニセ神白は冷や汗をかきながら、それでいて先ほどの致命傷も無かったかのように、片膝をついて立ちあがる。


「こいつが邪神……ふ、ふはは! でも勝ったぞ! 僕の勝ち──」


 高らかに勝利宣言するニセ神白に、raffl3sia(ラフレシア)が蔓を伸ばして体を捕らえ、車両連結部まで退かせる。


「バカ! あんなんで邪神が死ぬわけないでしょ……!?」

「え? でも心臓とか全部ぶっ飛ばしてるし……」

「そんな生物の常識が通用するわけないじゃん!? あいつはそういうの超越してんの! 邪魔だからどいてて! あたしがやる!」


 彼女の言う通り、エリーゼはすでに仰向けから体を起こして床に座り、胸部の穴も服の損壊も何もかも修復させていた。


「あんたが私とやる? 冗談よしてよ」

「あ、あたし一人じゃない!」

「そうね。あの黒蛇もいるわ。この魔導車を連結させたような乗り物の、後方車両に」

「……っ!」

「それともう一体。知らない雰囲気のエラーコードがいるわね」


 すると、車両先頭側にある細い通路から、黒いフードを被った者がひょっこり顔を出した。背丈は百七十センチ前後でやや高め。オーバーサイズの黒コートに身を包んでいる。


「いや~ん。私のこと~?」

「そうよ。妙な動きをしたら、あんた含め、ここにいるムギ以外の命は無いものと思いなさい」

「あらま」


 立ち上がった襟とフードの隙間から、そのエラーコードの赤い瞳が見えた。ハート形の瞳孔が細くなった。

 raffl3sia(ラフレシア)が、その新エラーコードを指さし注意する。


「何普通に出てきちゃってんの!? せっかく背後取ってたんだから不意打ちしてよ!」

「不意打ち……? どうしてそんな恐いこと言うのぉ? めっ!」

「もぉぉぉ! 状況分かってんの、この毒ガエル!?」

「まぁ! 毒ガエルだなんて……そんな呼び方する子とはお話ししません。ちゃんと“ママ”って呼びなさい!」

「もうやだこいつ! ねぇouro6oros(ウロボロス)! 2ana(ラーナ)がウザい!」


 彼女が嘆くと、その背後にある後方車両から黒い蛇が床を這ってきた。


「やかましい……2ana(ラーナ)はすでに手を打っただろう……不意打ちなどせずとも邪神対策は間もなく完遂する」


 そのときエリーゼの服がやけにブカブカに感じた、と言うよりも、彼女の体が見るからに縮まっている。先ほど港で覚えた違和感よりも、さらにその変化は明らかだ。


「あれ……おまえ大丈夫か?」

「……う」


 眩暈でも起こったみたいに彼女はうつ伏せに倒れ、金色のラインの入った白い服の中でみるみる体が小さくなっていく。

 毒ガエルと呼ばれたエラーコードを見てみるが、その瞳は光っていない。今能力を発動しているわけではないようだ。呼称通り、なんらかの毒をエリーゼに盛ったらしい。


「邪神も幼児化したら可愛いものね~。ねぇそう思わない、蛇ちゃん?」

「思わん……相手は邪神だぞ……警戒を怠るな」


 エリーゼは幼稚園児くらいの体型にまで小さくなってしまった。そこで変化は収まるが、彼女はいまだ気を失ったままである。


「おいエリーゼ! しっかりしろ!」


 悪夢に魘されるような呻き声を上げてはいるが、死んだわけではないようだ。若返りの毒でも飲まされたのだろうか?


「一先ずこれで難は逃れたな……麦嶋勇と神白雄介の回収も完遂した……上出来だ」


 小さなエリーゼを抱き寄せながら黒蛇を睨む。


「なんだこれ!? そこのニセ神白も謎だけど、この新幹線とかスキルだよな!? それなのになんでおまえらが出てくるんだよ!?」

「ふ……まぁそういう反応になるだろうな……」


 蛇は2ana(ラーナ)というエラーコードに目配せした。すると、2ana(ラーナ)が細い通路から出てきて、フードを外し、黒いコートのファスナーを下ろした。

 露わになった2ana(ラーナ)の素顔と全身を前に、俺の目は釘付けになってしまう。


「私たちはね、クロー様と休戦協定を結んだのよ」

「んえ……え?」

「休戦協定よぉ~」


 結論から言うと、2ana(ラーナ)はドスケベだった。


 髪型は高めのツインお団子で、巻き毛の黒いロングヘア、毛先側半分が青緑のグラデーションカラーで……なんて情報はどうでもよくて、先ほどまで彼女を包んでいたコートの下が、黒ビキニだったことのほうが重要だった。つまり、ビキニの上にコートを着ていたのだ。そしてデカい。古臭い言い方をしたらボンキュッボンだ! おそらくエリーゼをも凌駕するナイスバディ! 布面積もイカレているとしか思えない少なさだ! やったぁ! いや、やったぁじゃない。こいつは敵だっ!


「こ、この野郎おまえぇ! 休戦……なんだおらっ!?」

「だから休戦協定~。クロー様率いるダークテイルと、ね」


 2ana(ラーナ)は脈絡なく前屈みになって、両腕でその大きな胸を寄せた。


 もはや話の内容が全然入ってこない。今の俺は、眼前にあるたわわに実ったそれを見入るだけのマシーンになり果てていた。情けないとは思う。


「君が噂の麦嶋くんね? へぇ結構タイプかも。あぁぁ……なんかちょっと私まずいわ。ねぇ~え、今から隣の車両で──」


 彼女の細長い指先が俺の頬に触れかけた寸前、ouro6oros(ウロボロス)が間に入ってきた。


「やめろ……麦嶋勇には手を出すなと言われているだろう……?」

「ん~もう。でもそうだったわね」


 ムワッとした湿り気のある手が離れていき、彼女は恍惚かつ寂しそうな表情を浮かべて後ろへ一歩下がった。


「ごめんね勇くん。また今度遊びましょうね?」

「あ……」


 黒蛇が俺に向き直る。


「さて麦嶋勇……おまえに話が──」


 その瞬間、魔法が解けたみたいに我に返り、俺は黒蛇を抱きしめた。


「な……何をするッ!?」

「あぶねぇ……! 今、性欲に持ってかれるところだった! エリーゼが大変なことになって、俺も攫われてんのに! あぶねぇ!」

「この! 放せっ……!」

「おい、2ana(ラーナ)とか言ったな!? おまえぇ……俺だって誰でもいいわけじゃないんだからな! 胸がデカいからなんだってんだ! てか、エリーゼを元に戻──」

「放せと言っているだろうが……!」


 首筋を噛まれて、堪らず蛇を放す。


「いてぇ!」

「けっ……ヴェノムギア様のご命令さえなければ今すぐ殺してやるというのに……」

「は? 命令? どういうことだ!? 教えろ!」

「だから、その話をしようと言っただろうが……!」


 教えてくれるんだ。なんか久しぶりにまともに話せるエラーコードと会ったな。


「──それ、私にも聞かせてくれない?」


 走行する列車内にて、おそらく同年代くらいの女子の声が響いた。落ち着いていて、どこか聡明な雰囲気を思わせる綺麗な声だった。


「あ! 七原さんだっ!」


 raffl3sia(ラフレシア)の背後、最後尾の車両から七原さんが現れた。ouro6oros(ウロボロス)2ana(ラーナ)も目を見開き、彼女の登場に驚いている。


「七原茜……!? 貴様……どうやって?」

「どうでもよくない? それより早く話してよ。私がその気になれば、あんたたち全員七秒で殺せるからね? 別に私はそれでもいいんだよ?」

「……」

「どうする? 話す? 死ぬ?」



 ※  ※  ※


 

 ツッキーの『知恵の実(スマホ)』の周りにみんなで集まって、先ほどの記念写真を見てあーだこーだ言っていたら、急にエリリンが視線をずらして眉をしかめた。


「エリリン?」

「……」


 エリリンは勇の方を見ていた。すぐ側には雄介がいる。

 あの二人何してるんだろう? 七原さんも一人で勝手に船乗ろうとしてるし。さっきの記念撮影、嫌だったのかな? みんないい表情で写ってるのに。勇はずぶ濡れでちょっとおかしいかもだけど、私はこの写真凄く好き。

 なんて思っていたら、エリリンが急に地面を蹴って瞬く間に雄介を押し倒した。


「はい。取り押さえたわよ。これでいいの?」


 エリリンがそう声をかけた。

 押さえつけられた雄介が、勇と何か揉めている。


「──説明してもらおうか? おまえは誰だ? 新幹線って何のことだ?」


 どうしたんだろう? 全然分からない。

 すると、エリリンと雄介の位置が逆転した。目を擦ってみるが見間違いじゃない。今度は雄介がエリリンを押さえている。


「麦嶋勇! 我らと来いッ……!」

「は!?」


 そして、雄介が勇を飛びかかったかと思えば、突如その背後に黄色くて長い壁……これは──


「で、電車!?」


 その電車の出入り口っぽい所から蔓のようなものが伸びてきて、雄介の体をつかみ列車内へと引き寄せてしまった。雄介に捕まっていた勇も一緒に連れ去られる。


「おわぁぁ!?」


 電車は物凄い速度で走っていった。私がいつも乗っている電車より速くて少し短い。しかも、奇妙なことに、その電車の走っているところにだけ線路が生成されていて、電車が走り抜けるとその線路は自然と解体され消えていった。


「ムギ!?」


 エリリンが立ち上がり、無数の魔法陣を全身に展開して走り出した。

 ジェット機みたいなスピードで彼女は海上を駆け抜け、一直線に電車を追いかけていく。


「い、今のなんだ!? どうしてドクターイエローがこんなとこに!?」

「ドクターイエロー?」


 等々力(ロッキー)に聞き返す。


「新幹線だよ! 線路の点検とかする用の列車で日本で走ってる!」

「え……どうしてそんなのが?」

「だから不思議なんだ! あれはエアルスの乗り物じゃない!」


 そんな中、翠斗が辺りを見回して別の異変に気付く。


「あれ? 七原もいなくなってないか!?」


 確かにいない。さっきまで乗船口の近くにいたのに。

 すると、瀬古(せこ)っちが遠ざかる新幹線を見ながら口を開く。


「七原さんも連れ去られたか、もしくはスキルで無理やり乗車したか」

「そんなことできるの!?」

「『7(セヴン)』ならできる……たぶん。ドクターイエローは七両編成だから、自分の位置をその七号車に変える、なんてこともやってのけるかも……」


 彼の言葉に、ツッキーが『知恵の実(スマホ)』を見せながら答える。


「七原さんのカード、物凄い速度で海上を進んでる。麦嶋君が持ってる『餓鬼大将(ビッグジー)』と一緒に。でも、エリーゼさんも向かったし大丈夫だよね? 待ってればいいよね?」


 そうだ。エリリンがいるなら大丈夫。


「でも、あれって明らかにスキルだよな? つまり、クラスの誰かが……ていうか黒尾グループの誰かになるのか。そいつが雄介と麦嶋を攫ったことになるけど、なんで麦嶋まで……?」


 翠斗の疑念にみんな口を閉じた。


 分からない。私と雄介と翠斗の三人は、この前もハンターに狙われていたみたいだけれど、勇は確かそのターゲットではなかった。そもそも私と翠斗だって黒尾たちに恨まれるようなことをした覚えは無いのに(雄介は恨まれて当然)、勇なんてそれこそ恨まれる筋合いがない。彼らに勇を攫う理由なんて無いはずだ。


「……助けにいかなきゃ」


 悪寒がした。エリリンがいるから大丈夫と思いながらも、それを疑い、落ち着かない自分がいた。根拠なんて何一つないけれど、ここで立ち止まってはいけないと思った。

 

「みんな、とりま船乗ろっ! あれに乗ればミラミス大陸に行けるんでしょ? あの電車が黒尾たちの仕業なら、なおさらミラミスに行かなきゃ!」


 しかし、私の後に続く人はいなかった。みんなどうすればいいのか分からないみたいで、顔を見合わせ立ち竦んでいる。


 頭のいい七原さんだったら上手く説得できるかもしれない。エリリンなら強引なやり方でも付いてこさせるだろう。そして勇もきっとみんなと前に進む。


 私は彼らみたいにできそうにない。思えば、私はいつも助けられてばかりだった。mon5ter(モンスター)に襲われたときも七原さんのおかげで助かったし、迷宮では勇とエリリンにおんぶにだっこだった。

 勇に夢を話したとき、彼は凄いと褒めてくれたが、実際は凄いことなんてない。可愛いとか綺麗とか外見的な称賛を貰うことは正直今まで多々あったけど、それだけ。私は何も成し遂げてない。私が生きて踏みしめてきた十五年は、振り返るといつもこんな感じだ。


「…………」


 私たちの小ぢんまりとした沈黙に、船の汽笛が割って入ってきた。お腹に直接響くような大音量が、広い港に鳴り渡る。まもなく出航のようだ。


「……私、勇が好きなの。迷宮で助けてもらった日からずっと彼のことを見てる。エリリンのことも大好き。ツンツンしてるけど実はとっても繊細で乙女なところとか凄く。七原さんとはあまりお話ししたことないし、なんなら嫌われてる気がするんだけどいつかは仲良くなりたいって思ってる。雄介は今ちょっと微妙な感じだけど、それでも一応幼馴染だしさ放っておけないよ……だからその……最悪の事態を考えてさ……居ても立っても居られない的な?」


 あぁ、途中まで上手く話せてたのに、なんか最後の最後でぐだっちゃった。

 でも、ツッキーがこちらに歩いて来た。私を追い越し、船の乗船口にトコトコ向かっていく。


「ま……なんかよく分かんなくなってきたし船乗ろっか」


 適当すぎるよ、と瀬古っちが呆れた様子でツッコミつつ、彼も船へ歩き出した。


「エリーゼさんたち、帰って来ないね。もしかしたらトラブルがあったのかも。となると、待っていても仕方ないよね。僕らも行こう。新幹線と船じゃあ、だいぶ時間差があるだろうけどさ」


 等々力(ロッキー)もそう口にし、先に行った二人を追っていく。

 最後に翠斗がからかってきた。


「茉莉也って優しいよな~。昔から全然変わらん」

「……なんかムカつくんだけど!」


 翠斗は笑い飛ばし、私の肩を叩いて進む。


「暗い顔してんなよ。茉莉也の取り柄は、明るく前向きなとこだろ」

「……」

「行こうぜ。あの女神様とガリ勉ちゃんと、バカ二人を助けにさ」


 四人が私の前を歩いていく。それぞれの歩幅で船へと向かっていく。

 私は自然と口元を綻ばせ、彼らと共に歩き出した。

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