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ロワイアルゲーム ~異世界なんて適当にチーレムやっとけ~  作者: とりうさぎ
迷宮編

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【77】裏切り者

 ハンターギルド長が消えたというpelic4n(ペリカン)の証言を聞き、俺たちは街外れの森の中、瀬古君が作った小屋へ急行する。


「……中を確認するわ。あなたたちはここで待ってなさい」


 エリーゼが、小屋を覆うように張られた立方体の結界を解除する。戸を開けて、中を検める。


「……っ!?」


 彼女は息を飲み、戸を叩きつけるようにして閉めた。そして、鬼の形相でpelic4n(ペリカン)の方へとずかずか歩いてきたのだった。


「あんた……」

「クワ?」


 彼女はpelic4n(ペリカン)のくちばしを掴み、そのまま宙に持ち上げた。


「やってくれたわね! この裏切り者!」

「……ンガッ!?」


 エリーゼがpelic4n(ペリカン)を小屋の戸へと投げつける。

 とはいえ、さすがはエラーコード。普通に受け身を取って事なきを得る。


「何をする!? おぬし!?」

「それはこっちの台詞よ! なんてことを……!?」

「クァ……?」


 pelic4n(ペリカン)は戸に向き直り、ドアノブを咥えて開放する。


「……ク、クワ」


 彼は回れ右して、翼をはためかせながら茉莉也ちゃんの元へと慌てて走ってくる。彼女に飛びつき、抱っこしてもらう。


「ち、違う! 朕は知らん! 朕ではないっ!」


 二人は何を見たのだろう。

 そう思って足を踏み出すと、エリーゼが手を前に出してくる。


「あんなの見るもんじゃないわ」

「……?」

「死体よ。酷い拷問にあったみたいに、全身傷だらけで血肉がそこら中に飛び散ってる」

「え……」


 エリーゼは白いオーラのような魔力を垂れ流しながら、pelic4n(ペリカン)を睨みつける。


「少なくとも私が小屋を離れるまで、あのハンターは生きていた。その後小屋の中にいたのは、ハンターとあんただけ。他の奴が犯人だったとしても、私の結界はそう簡単に破れないし、破った奴がいたら気づけるはずよ」

「だから、朕ではない! 見張ってたら突然あやつが消えたのだ! それで、結界の一部を飲み込んで外に出て、マリヤ達のところへ──」

「じゃあ他に誰がいるのよ!?」

「し、知らんわ……! 大体、朕は他者をいたずらに虐めたりせん! 丸飲みこそ至高だ!」


 なんだこれ? 意味分かんないぞ?

 エリーゼの主張は最もだが、pelic4n(ペリカン)も嘘を吐いている感じじゃない。それに、“ギア”の情報が漏れるのを恐れて、口封じのためにpelic4n(ペリカン)がブレヒャーを殺したのだとしたら、俺たちにブレヒャーが消えたと伝えに来る必要は全くない。さっさと逃げるべきだ。そもそも口封じなら、いたぶる必要すらない。


 かと言って、pelic4n(ペリカン)以外の誰がこんなことできるんだ?

 彼が無関係とするならば、真犯人はエリーゼの結界を突破し、pelic4n(ペリカン)の見張りを掻い潜り、一時的にブレヒャーを消し、なぶり殺したってことだ。果たしてそんなことが可能なのか?


「とにかく朕はやっておらんのだ……! マリヤァ? おぬしは信じてくれるな……!?」

「……」


 茉莉也ちゃんは困惑した表情を浮かべながらも、pelic4n(ペリカン)を優しく撫でた。

 混沌とする状況の中、七原さんが一人で小屋へと歩き出した。


「エリーゼさん、私もいいですか? 私は平気ですから」


 エリーゼは一瞬躊躇うが、勝手になさいと言って道を開けた。

 すると、七原さんはなぜか俺の手を掴み、引っ張ってくる。


「麦嶋も来たいの? 分かった。じゃあついて来て」

「え、え、えっ!? いやいや、ちょ──」


 抵抗していると、七原さんがぐいっと顔を近づけて、耳元で囁いてきた。


「……いいから来い」


 何この子!? 恐い!?

 

 俺はビビり散らして口を噤み、無抵抗のまま小屋に接近していく。

 しかし、グロイのも苦手なので、寄り目をして現場を直視しないよう努める。


「……変顔? どういうつもり?」

「君こそどういうつもりだぁ……!?」


 あれよあれよという間に、俺は彼女と小屋の前まで来てしまった。既に血生臭い。

 天井に吊るされたランプで部屋は照らされていて、その奥あたりに赤黒い塊があった。寄り目でもぼんやり分かる。


「あ、無理……ギブギブギブ!」

「そうだね。結構きついかも」


 とか言いつつ、七原さんは俺の手を引き、平然と中に入っていく。

 俺は片手で目を覆い、顔も逸らして、直視を避ける。


「なんでなのぉ~? なんで俺、連れてこられたのぉ~?」

「あまり大きな声出さないで……向こうに聞こえるでしょ?」

「聞こえたらなんかまずいの……?」

「まぁね……とりあえずは何も見なくていいから、ちょっとそこで待ってて」

「えぇ?」

 

 七原さんが手を離した。この隙に逃げようと思ったが、彼女は『7(セヴン)』とかいうチートスキルを持っている。聞いた話では、mon5ter(モンスター)の寿命を七秒にして殺したこともあるらしい。さすがに同級生を()っちまうなんてことはないだろうが、ここまで強引に事を進めてしまうような子だ。言いつけを破ったら何をされるか分かったものではない。


「ま、まだぁ?」

「うん。まだ──」


 彼女が部屋の中をうろうろする足音が聞こえる。

 しばらくして音は止まり、また声をかけられる。


「ねぇ見て」

「み、見るの? 嫌だけど……?」

「見ろ」

「勘弁してよぉ……」

「大丈夫だから。早くして」


 この子、エリーゼみたいでやだ!


 それでも言われた通り、恐る恐る部屋の隅から視線を向けていく。

 血飛沫があり、なんか肉っぽいものがあり、七原さんがいて、彼女の指し示すところを見る。

 そこには糸のようなものがあった。数十センチくらいの細くて黒い糸。いや、これは髪の毛か。端に付いた血は乾いている。今落ちたものではない。


「じゃ、戻ろっか」

「ちょっと!?」


 歩き出した彼女の手を握ろうとする。そのはずみに、つい目を開いてしまい、現場を直視してしまった。


「わあぁ!? お、おえぇ……!」


 奥の柱にロープで括り付けられたブレヒャーが、全身血みどろになって床に座りうなだれていた……という表現ですら、まだオブラートに包んでいるくらい凄惨な現場だった。

 あまりに残酷だ。いくらpelic4n(ペリカン)だって、こんなことはしないだろう。そう信じたい。


 俺は逃げるように小屋から飛び出して、最強女神ことエリーゼに抱きつこうとした。

 躱され、押され、転ばされる。


「……酷い、酷すぎる! あの現場も! エリーゼも!」

「ふん」


 後から、七原さんが悠々と歩いて戻ってくる。


「ねぇ、何を見つけたの?」


 李ちゃんがそう尋ねてきた。


「えっと──」

「別に何も」


 俺の返答を遮って、七原さんがそう言い切った。


「どうして何かを見つけたと思ったの?」

「え……」


 言われてみれば妙な質問だ。

 俺たちはコソコソ話で会話をしていた。ここからでは数十メートルほど距離があって、あの声量を聞き取れるはずがないし、小屋の中の様子もよく見えなかったはずだ。


「そんな深い意味は……ただ、何かあったのかな~って思っただけ」


 だとしたら、その言葉通り『何かあった?』って聞くべきなんじゃないだろうか。


「それでエリーゼさんどうします? pelic4n(ペリカン)は……私もかなり危険だと思います」


 李ちゃんがあからさまなくらい話題をすり替えてきた。


「そうね。これは私の責任よ。やっぱりこいつは七等級を使ってでも始末しておくべきかもしれないわ」


 その意見に茉莉也ちゃんが反論する。

 

「待ってよ! pelic4n(ペリカン)はやってないって言ってるよ!?」

「新妻さん、エラーコードの言うことを信じるの?」

「だけどさ……」

「いい加減にして。そいつはヴェノムギアの手下なんだよ?」

「委員長……? なんか恐いよ?」

「恐い? 私は恐くなんか──」


 その瞬間、李ちゃんの声が聞こえなくなった。それでも彼女の口は動いているし、茉莉也ちゃんも何か言っている。耳を叩いたり、指でほじくったりしてみるが変わらなかった。

 すると、あれだけ庇っていた茉莉也ちゃんが急に無表情になりpelic4n(ペリカン)をポイッと捨てた。pelic4n(ペリカン)が泣きそうな顔で必死に何かを訴える。エリーゼの目つきが鋭くなり、そして、また李ちゃんが口を開く。


 どうやら聞こえていないのは俺だけらしい。皆は普通に会話しているようで、リアクションなんかも取っている。

 これは一体どういうことだ。体調不良というわけでもあるまい。

 気味の悪さでつい視線を泳がしていたら、七原さんと目が合った。彼女は俺を見るなり“い”の口をした。


 もしかして“しぃー”か? 喋るなってこと?


 わざとらしく口を堅く閉じてみる。彼女は微かに笑みを浮かべた。


 そうこうしているうちに、pelic4n(ペリカン)が姿を消した。能力で口内に逃げたようだ。皆に責められたのか、物凄く悲しそうだった。

 それにもかかわらず、茉莉也ちゃんの表情はとても冷たく、彼女らしくないと思った。


 そして、李ちゃんが言葉を発したかと思えば、皆揃って歩き出し、小屋から離れだす。

 俺も一応それに倣ってついていくが、李ちゃんだけは動かなかった。しばし歩いても小屋の近くでぽつんと立っている。その時の彼女は物凄く暗い顔をしていた。絶望したような、疲弊しきったような、重苦しい表情だった。


「──麦嶋」


 突如耳が治り、七原さんが肩を叩いてきた。


「あ、あのさ」

「しぃー。もう少しだけ……ね」

「……」


 七原さんは人差し指を立てて、俺の口に近づけた。

 

 正直なところ、全く持って意味が分からない。だが、七原さんは何かに気づいているらしい。この中で誰よりも核心に近づいているのだ。

 曇りなき彼女の瞳を見て、俺はそう直感し閉口した。

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