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ロワイアルゲーム ~異世界なんて適当にチーレムやっとけ~  作者: とりうさぎ
迷宮編

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【76】ラブレター

 宴も終わりに差し掛かり、アルさん達も酔い潰れていた。


 一方でエリーゼはというと、冒険者ギルドに猛獣使いがいたらしく、その人の手懐けている獣たちと戯れている。商館前の空き地で、虎だのコブラだのグリズリーだの、見るからに危険な動物たちにお手だ何だと芸を教えていた(無許可)。

 また、俺と同い年にしては貫禄のある男子、等々力(とどろき)君が動物と話せるスキルを持っているらしく、しつけが実に捗るとエリーゼが嬉しそうに言っていた(おまえの動物ではないし、おまえのスキルでもない)。

 しかし、等々力君は意外に温厚な奴で、エリーゼの我儘に付き合ってくれた。七原さんや月咲さん、瀬古君なんかも仲間に入り、何やかんやでエリーゼも馴染めてそうで良かった。


「そのブロック、もっと高くよ! そんなんじゃあ、遊ぶものも遊ばないでしょ!?」

「あの~、虎ってキャットタワーで遊ぶんですかね……?」

「知らないわよ! 私だってやったことないんだから! でも遊んだら可愛いじゃないっ!?」

「もう~何だよこの女神様ぁ。思ってたのと全然違うよぉ……」


 エリーゼの命令で、虎用のキャットタワーを作らされている瀬古君を眺めながら、俺は一人テラス席でクラッカーを齧る。

 分かるぞ瀬古君。頑張れ瀬古君。俺は味方だ瀬古君。


「……さてと、俺はラブレターでも読もうかな」


 李ちゃんから預かったバッグから、ラヴィニアの便箋を取る。

 丁寧に封を切り、三つ折りになった紙を出す。ピンクの可愛らしい手紙だった。

 

『親愛なる我が友 ムギへ──おはよう!』


 いや、朝書いたのか知らんけど。


『実は家族以外の誰かに手紙を書くのは初めてだから緊張している。変なところがあったら是非言ってくれ』


 言っても聞こえないだろ。


『確か、時候の挨拶とやらをするんだったな。魔界はもうすぐ夏だ! 暑くなるから気をつけろ!』


 へ、下手くそ!


『ところで、前に私が強引にキスをしたこと怒ってないか? 怒ってないならいいんだが、もし嫌だったらすまない。どうか嫌いにならないでくれ』


 急になんだ。自由か。まぁもちろん怒ってはないし、嫌いになるわけもない。


『それと、スモモたちがゴルゾラに来たんだ。最初はムギを仲間外れにした悪者だと思って追い返したんだが、何だかんだあって、一先ず許すことにした。中でもスモモは気に入った。スモモとは温泉にも入ったぞ。その後、ナナハラも一緒になって、三人で岩盤浴もしたんだ。いいだろ!』


 いいなぁぁぁぁ。


『恋バナもしたぞ。でも安心しろ。私とムギがキスをしたことは隠し通した。私たちだけの秘密だ』


 本当に隠し通したのか? 李ちゃんの反応を見るに、何かバレてそうだったぞ? ていうか、李ちゃんと七原さんとどんな恋バナするんだ!?


『ムギの方はどうだ? ヴェノムギアの手がかりは見つかったか? ちなみに、私は今とある魔法の特訓をしている。空間魔法以外にお爺様やお父様が得意としていた魔法、分身魔法だ。それをマスターすれば国営を分身に任せて、ムギに会いに行けるかもしれない』


 分身に国営やらせるの? 分身をこっちに寄越すんじゃなくて? 大丈夫それ?


『ガートルードには秘密だ!』


 大丈夫じゃないみたい。


『それじゃあ元気でな。私にできることがあればいつでも頼れ。この私、三代目魔王をな。遠方からおまえたちの活躍を願っている。大好きだぞ、ムギ』


 手紙はそこで終わっていた。嬉しい気持ちとともに、こそばゆい感じもした。

 何となく水を飲もうとするが、既にコップは空だった。


「……返事、書かないとな」


 椅子に寄っかかり、夜風に当たりながら、俺はそう呟いた。



 ※  ※  ※



 勇が魔王から貰ったっていうあの手紙、本当にラブレターなのかな。もしそうなら、なんだか──


「──で、茉莉也はどうする?」

「ん……?」

「ん、じゃねぇよ。聞いてなかったのか?」


 隣に座っていた雄介が顔を覗き込んでくる。


「今なら、あのワイン飲んだって誰からも文句言われねぇよ。チャンスだぜ」


 辺りをキョロキョロしながら雄介は席を立ち、カウンターにあった誰かの飲みかけのワインボトルを取ってくる。


「へへ! まだ入ってる入ってる……!」


 確かに、委員長もお手洗いに行ってるし、麦嶋たちも外にいる。今このテーブルには、私と雄介と翠斗(すいと)しかいない。アルさん達も居眠りしていて、大人の目線も無い。だけど、未成年飲酒をしたいとは到底思わない。


「私はいい」

「あ? ちょっとくらい平気だって」

「別にそういう問題じゃないし」

「んだよ。つまんね」


 雄介はジュースの入ったコップを飲み干し空にする。翠斗は一応止めようとするが、彼はお構いなしにワインを注ぎ始めた。

 この身勝手さと素行の悪さは、昔から何も変わってない。そう思うと、彼が酷く幼稚に見えた。幼馴染であるという理由だけで、彼と行動を共にしていた自分も傍から見たら同じなのかもしれない。


「わ、くっせぇ! 消毒液じゃん!」

「……」


 勇は多分、そういうの全部見透かしてるんだろうな。彼の目に、私は映ってない。

 さっきもそうだった。私がお手洗いに行った時は気にも留めず委員長とずっと喋ってたのに、委員長がお手洗いに行った途端、一人でテラスに行っちゃうんだもん。私だってすぐ近くにいたのに。

 テラス席で例の手紙を読みながら笑みを浮かべている勇を見て、胸がまたズキッと痛んだ。


 私は勇が好きなんだ。その痛みで再確認させられる。

 でも、恋ってもっと楽しいものだと思っていた。翔哉(しょうや)とみくちゃんのカップルだっていつも楽しそうだったし、三つ上の高校生と付き合ってる翠斗も幸せそうだ。

 両思いだから良いのかな。それなら、片思いの私は馬鹿みたいだ。

 でも仕方ない。好きになっちゃったんだから。てか好きにならないとか無理だし。pelic4n(ペリカン)に飲まれた私や皆を助けてくれただけでも超格好良いのに、私があの魔法銃を構えた時、すぐに不安を察して手を添えてくれて……あれ、凄く温かかったな。


「おい見ろ! 一気するから!」


 自分でも気づかないうちに、テラスの勇に目線を向けていたらしく、雄介に肩を叩かれハッとする。


「……ねぇ、それやってて楽しい?」

「楽しいに決まってるだろ! おい翠斗! タイム計っとけ!」

「ねぇ……」

「んだよッ!? 何でそんな暗いんだよ? 生理かぁ? ぎゃはは!」

「最低……」


 私は卓を叩いて立ち上がり溜息をつく。


「は? キレすぎじゃね? こんなんネタじゃん?」

「あのさ雄介。この前の返事、今してもいい?」

「返事……え、マジ? 今!? でもそうか! 無事再会した今だからこそ、だよな!」


 何を勘違いしてるんだろう。流れ的に分かりそうなものだけど。こういう察しの悪いところも不快だ。


「悪いけど、雄介とは付き合えない。気持ちは嬉しい……でもごめん」

「は……?」

「異世界にいてそれどころじゃないっていうのもあるけど、もし地球に戻っても、やっぱり私モデルの仕事とかそっちに集中したいかも」


 すると、雄介も立ち上がり、その大きな体で私を見下ろした。


「ふざけんなよ……おいっ!」

「大声出さないでよ。とにかく付き合うとか無理だから……」


 その場を離れようとしたら、雄介に腕を鷲掴みにされる。

 翠斗もそれを見兼ねて、止めに入る。


「さすがに度が過ぎるぞ!?」

「うるせぇな!」

「いっ……」


 寄ってきた翠斗を空いた手で乱暴に振り払い、雄介はさらに強く腕を掴んで、引っ張ってきた。


「痛いっ……やめてよ!」

「じゃあ付き合え! 今までずっと一緒だったじゃねぇか!? 断る意味が分かんねぇ! 付き合うって言うまで離さねぇかんなっ!」


 力が強くて振り払えない。凄く怖い──


「──どうしたの? 何で揉めてんの?」


 勇の声がした。

 テラスの扉を開けて、中に入ってくる彼がそこにいた。手には空のコップを持っている。


「てめぇには関係ねぇ! 引っ込んでろ!」

「えぇ……」


 勇は窓際のテーブルに近づき、そこの水差しを取って、コップに水を注ぎだす。


「事情が何であれ、女性に乱暴する奴ってヤバいよな。とんでもない極悪女とかならまだ分からんでもないけど、クラスメイトだぜ? 朝吹君まで殴ってたし。友達じゃないの?」

「黙れよ! 関係ねぇつってんだろ! 死ねや!」

「こ、こえぇ。やっぱおまえ無理だわ。何だろうな? 関わっちゃいけない奴なんだろうな」

「ちっ……黙れって言ってんのが聞こえねぇのか!?」


 雄介の注意が勇に逸れた瞬間、私は素早く腕を引き抜いて走り出す。


「勇っ……!」


 そうして勇の元へ逃げ込むと、彼はちょっと驚いた様子を見せるが、すぐにコップを置いて私を背後に回した。

 その様子を見て、さすがの雄介も私の気持ちを察したようだ。


「おい……茉莉也! まさかおまえっ!?」

「そ、そうっ! そうだよ! もう分かったでしょ!?」


 何が、と困惑する勇をよそに雄介はさらに激高した。


「おかしいだろっ!? ぜってぇ認めねぇ……! なんでそんな──」


 その時、何かが窓を突き破ってきて、耳を塞ぎたくなるような大きな音が酒場に響いた。


「大変だぁぁ!!」


 窓を突き破ったのはpelic4n(ペリカン)だった。

 彼は勇の頭に止まって、翼を広げる。


「大変なのだぁ!」

「窓割るなよ! あと頭乗んな!」

「カァッ!? 何が大変か聞くのがっ! 先であろうがぁぁ!」

「いて、いてっ! つつくなって! 分かったよ! どうしたんだよ!?」


 話を中断させられて、雄介が怒号を飛ばす。


「てめぇ邪魔だ! 消えろ!」

「クアァ~? なんだおぬしぃ~!? 丸飲みにしてやるわっ!」


 目を光らせたpelic4n(ペリカン)のくちばしをすかさず勇が掴み、口を閉じさせる。


「落ち着けって」

「ン、ガァッ!」

「神白もいちいち突っかかるな。マジでおまえなんか瞬殺だからな? エラーコード舐めんなよ」

「……クソ」


 勇がpelic4n(ペリカン)のくちばしを掴んだまま抱っこする。

 しかし、彼はすぐ飛び立って、また勇の頭に乗っかった。


「なんでだよっ……!?」


 そして、pelic4n(ペリカン)は、さらっと衝撃の事態を告白するのだった。


「朕が見張っていたあのハンター。なぜかよく分からんが……消えたぞ!」

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