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【6】星流し

「エアルスには人間も魔族も動植物もいる。今もそうかは知る由もないが」

「知らないんかい」

「ああ。俺とエリザベータ様が最後にエアルスの地を踏んだのは、今から五百年ほど前だからなぁ」

「ごひゃく!?」


 エアルスとかいう星の公転周期が地球のそれと全く同じということはないだろうが、それでも五百年はきっと途方もない時間だ。


「な、なぜ五百年もエアルスに行ってないのですか? アダム様?」

「急に敬語になるな気色わりぃ。普通に話せ」

「へへへ。で、なんで?」

「……色々あったのさ」


 アダムは咳払いをし、ばつが悪そうに話題を変える。


「で、ここが衛星ムゥ。エアルスの周りを公転している、動植物のみの星だ。エリザベータ様がお作りになった」

「作った!? 星って作れんの!?」

「当然だ。あの方は創世神だからな」

「へ、へぇ……」

「そして、ここは通常観測不能の秘境であり、存在はエリザベータ様と俺しか知らない……はずなのだが」

「ヴェノムギアは知ってるよな? 俺をここに飛ばしたんだから」

「由々しき事態だ」

「ふ~ん。何にせよ俺は、島流しならぬ星流しに遭ってるってことね」

「そういうことだな」

「仲間外れにもほどがあるだろ……」


 アダムは壁際に置かれた横長ソファへ寝そべる。


「これからどうするつもりだ?」

「どうするって……どうすればいいのやら。ところで、あの女神様は元の世界に戻せたりしないの?」

「異世界転移、だったか? そんな魔法は聞いたことがねぇ。さすがの主でも無理かもな」

「できたらとっくにやってるか」


 小指で耳をほじりながらアダムは気怠そうに欠伸をする。


「仮に戻れても、クラスメイトはどうする? この際、見捨てるか? とりわけ親密な間柄でもないようだし」

「それはちょっとなぁ……俺だけ戻っても気まずいし」

「なら、とりあえず連中との合流を目標にしたらどうだ?」

「だね。まぁでも特にやることないんだけど」

「やることがない?」


 訝しげにそう聞き返す彼に、俺はニヤッと笑う。


「俺が動かなくても、向こうから来てくれるんだよ。少なくとも神白は俺に会いたがってるはず」

「……なるほど。プレイヤーカードか」

「今頃あいつ慌ててるぜ。大事な大事なカードが無くなってんだからな。そして奴は気づく。俺にカードを盗まれたことにっ!」

「……」

「しかも神白はクラスでボス的存在だ。あいつが動けば全員動く。何もせずとも向こうから来てくれるって寸法よ! 俺を仲間外れにしたことを後悔するがいい! うへへへ!」

「良い性格してるな、おまえ……」


 溜息交じりにアダムは続ける。


「しかしそれ大丈夫か?」

「何が? 大丈夫っしょ? みんながどんなスキル持ってるか知らないけど、何とか俺を見つけて衛星ムゥに来ることくらい──」

「違う。ここが誰の星か忘れたのか?」

「……」


 人間嫌いの神。エリザベータの星だ。

 俺を見るなり何の躊躇もなく、心臓に刃を突き刺そうとしたぶっ飛び野郎だ。人間がぞろぞろとやって来たらブチギレるに違いない。

 息を呑み、ベッドから飛び起きる。


「こ、こうしちゃいられない! アポ取っとかないと!」

「同行しよう」


 そうして俺は部屋を飛び出し左に曲がる。


「行き止まり!?」

「馬鹿が。見れば分かるだろ。逆だ」

 

 振り返った先に長い回廊が続いていた。


「あ~そっちね。そっち行って……右かな?」

「違う。直進だ」

「了解。その後は右行って左か?」

「全然ちげぇ! 分かるわけねぇんだから黙って俺の手に掴まれ!」

「掴まる?」


 言われた通り、差し出された手を握ると、アダムはもう片方の空いた手で指を鳴らした。すると、足を動かしていないのに、俺たちは床をスライドするように動き出した。


「うわ!? 何だこれ!?」

「城は広い。歩くのは面倒だからな。床全面に自動歩行できる魔法を使っている。指パッチンすると、足が三ミリ浮き、推進するのだ。俺の数ある大発明のうちの一つ! その名も『ムゥウォーク』! 凄いだろ!?」

「凄いっ!」


 アダムが体の向きを変えると進行方向も変わり、しばらくしてエントランスっぽい所に着いた。

 向かって左には大きな扉があって、そこからレッドカーペットが伸びている。そして、カーペットの上も滑っていき、一定間隔で両側に柱があるだけの単調な回廊を幾ばくか進んでいく。全力疾走くらいの速度で、かなりの距離を進んだが、俺たちは息切れ一つせず、巨大な螺旋階段のある大広間へと辿り着いた。


「主の部屋は最上階だ」


 傍の壁には鋳物の表札みたいなものがあり見たこともない記号が記されている。

 『1F』だ。翻訳魔法のおかげか文字も読めるようになっている。なんて都合のいい魔法!


「これ昇るの?」

「ああ」

「先行ってていいよ。俺エレベーターで行くから」

「エレベーター? なんじゃそりゃ? いいから乗れ。ここも『ムゥウォーク改』で駆け昇る」


 アダムが一段目に両足を乗せ、俺もその隣に立つと、彼はまた指を鳴らした。すると、螺旋階段がエスカレーターのように動き出した。


「おおお!!」


 続けて彼が指パッチンを繰り返すと徐々に加速していき、風を切り始めたところで俺は傍の手すりにしがみついた。

 アダムは涼しい顔で内側の手すりに片手を添え立っている。


「は、速っ! 速すぎるなぁ!? ちょっと!? パッチンやめて! 遠心力が! 遠心力がぁ!?」

「外側にいるからだ。こうなることくらい予想出来ただろ」

「できるかぁぁあ!」


 アダムは一旦指パッチンを止め、片手で手すりにつかまりながら腕を伸ばし、反対側の手すりにいる俺の腕を掴んだ。彼の長い腕は容易に階段を横切り、軽々と俺を内側に引っ張ってくれる。


「ぬぉ!! あぁ、ありがとう」

「おう」


 俺が手すりにしがみつくのを確認して、アダムが指パッチンを再開する。

 螺旋階段は途中から城を突き抜け、さらに天上へと伸びていった。外の景色が丸見えだ。振り落とされたら確実に死ぬ。次第に竜巻のような回転は収まっていき、螺旋階段は停止した。


「ついたぞ」


 最上階。というか雲の上だった。果てしなくどこまでも広がる雲海だ。

 アダムは庭にでも出るようなノリで雲を歩いて行き、俺も慎重に足を踏み出す。体重を乗せても問題ないと分かると、足を早めて彼に追いつく。


「なんも無いけど?」

「見えないだけさ」


 温かい日差しを浴びながら(あれを“日”と言っていいのかは置いといて)、真っ直ぐ歩いていくアダムの後をついていくと忽然と景色が変わり、いつの間にやら豪奢な居室の中にいた。

 赤、金、白を基調とした宮殿の王妃が居座るような一室で、奥の立派な椅子に彼女はいた。


「何よ?」


 エリザベータは頬杖をつき、こちらに目を向けることなく神白のトレーナーカードをじっと見ている。


「エリザベータ様。実はカードの持ち主がここに来るかもしれないと──」

「ええ。来るでしょうね」


 エリザベータはカードを投げ、俺の足元の床にそれを突き刺した。


「そのカード、作った奴は相当な技術力を有しているわ。私でも原理が分からない。人智を超越していると言っても過言じゃないわね。そんな奴が用意した二十のスキル、それだけあればこの星に来ることだって容易いでしょう」


 彼女は立ち上がり俺の方に目を向ける。


「先に言っておくわ人間。あんたのクラスメイトがここに来たら私は迷わず全員殺す。それが嫌ならさっさと出て行きなさい」

「……」

「悪いけど、異世界転移なんて魔法は私にも使えないから、エアルスにあんたを送る。そして未来永劫、この地に足を踏み入ることを禁ずるわ」


 全くいけ好かない奴だ。

 神白のカードを床から抜き、ワイシャツの胸ポケットにしまう。


「はいはい。出て行きますよ。出て行きゃあいいんでしょ? でもいいのかなぁ?」

「あ?」

「あんた、この件には一切関わらないつもりらしいが、ヴェノムギアはムゥの存在も場所も知っている」

「……」

「そんな得体の知れない奴を放置していいのか? ここは俺と手を組んであいつを──」


 エリザベータは鼻で笑い、再び玉座に腰を下ろして細長い脚を組む。


「人間風情と手を組むですって? 冗談じゃないわ。それに、ちょっとおかしな魔法を使えるからって、私の敵じゃない。しばらく様子を見ることにするわ」


 くそ。駄目か。

 エリザベータは手で払いのけるようなジェスチャーをして薄ら笑いを浮かべた。


「しっしっ。ほ~らさっさと消えなさ──」


 が、彼女は動きを止め、口を噤む。


「どうかされましたか?」

「……」


 アダムの問いにも答えず、彼女は突然キョロキョロと辺りを見回す。


「……さっそくお出ましみたいよ」

「え、もう!?」


 マジかよ。神白たちもう来ちゃったの!?


「ま、待ってくれ! いくら人間が嫌いだからって、即殺すなんて横暴だ!」

「違う……」

「え?」

「……人間じゃない。何よこの感じ? 気持ち悪い」


 人間じゃない?

 エリザベータは表情を曇らせながら、肘掛けを指で三回小突く。すると、彼女の目の前に球体のホログラムが出てきた。どうやらこの星を模したものらしい。城もある。

 ホログラムの衛星と数秒にらめっこし、彼女はその一部に指を伸ばす。すると、俺たち三人は光に包まれ、次の瞬間には荒野にいた。城外に移動したようだ。


「──出てきた出てきたぁ~」

「──ほう。かの邪神と相まみえ、なお生き残ったか。なかなか見所のある少年じゃ」

「──見逃してもらっただけだろ……あのプレイヤーは最弱。評価に値しない。さっさと抹殺するぞ……」


 視線の先に、見たことのない変な連中がいた。

 ツインテールの女児と、カブトムシみたいな角の生えた爺さんと、黒い蛇?


 隣のアダムが呟く。

 

「クラスメイトではなさそうだなぁ」

「明らかにな」


 すると、ツインテールちゃんが……てかなんだあの子。頭の上に花咲いてる。馬鹿みた~い。可愛い~。

 とにかくそのピンク髪の子がこっちを指さした。


「あたしは決戦篏合体神将けっせんかんごうたいしんしょうエラーコード! コードスリーの『raffl3sia(ラフレシア)』ちゃんだよぉ~! 無能力者の麦嶋く~ん!? 今ぁ~殺してあげるからねぇぇ!?」

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