【49】エラーコード集結(笑)
エラーコードはまとまりがない。
傍若無人こそアイデンティティであると主張するかのように、大半のメンバーが勝手な行動を取っているのが常である。
したがって、定例会議も平気ですっぽかす。組織の長……ヴェノムギア様も参加する会議であるにも関わらず、だ。
「──これは一体どういうことですのっ!? ouro6orosさん!?」
床も壁も天井も、中央を陣取る円卓までも全て黒い一室にて、9ueenがその卓を叩き、腰まで伸びた白い髪が揺れる。彼女の纏うワインレッドの肩出しドレスは仰々しく、披露宴でも予定しているかのようである。
「何がだ……?」
「決まっているでしょう!? 本日はエラーコードの定例会議! それがなんですか……この絶望的な出席率は!?」
円卓の周りには、我を含めても三体のエラーコードしかいない。
それと一応もう一人。エラーコードではないが、関係者の少女がいるだけだ。
卓上でとぐろを巻き、左隣に置かれた小瓶に目を向けた。瓶の中には真紅の靄がかかっている。
「bac7eriaはいるぞ……」
「bac7eriaさんは知能が無いからいてもいなくても一緒ですわっ!」
「酷い言い草だ……こいつも仲間だろう? せっかく持ってきたのに……」
「持ってきた、とか言っている時点であなたも同じ考えではなくって? 全く! 伝令係はあなたなのですから、しゃんとしてくださらないと」
「ふん、関係ないな……誰が何を言っても来ない奴は来ない……諦めろ」
「あぁぁ、ヴェノムギア様に何と釈明すれば」
9ueenが自身の席につき、頭を抱える。
「……beet1eさんは?」
「ん?」
「beet1eさんの欠席理由は何ですのっ!?」
「ああ……武術は一日にしてならず、とか言っていた」
「武術なんて、いつでもできますでしょ!?」
「我に言われてもな」
「2anaさんは?」
「新しいおもちゃを見つけた、らしい」
「また殿方ですの? 汚らわしい!」
空席になっている2anaの椅子を見て、9ueenは顔をしかめた。
「それで、raffl3siaさんは?」
「行けたら行くと言っていた……これから来るかもしれない」
「く、来るわけないですわっ! 絶対サボりですわ!」
「だろうな」
彼女は大きな溜息をついた。そして、番号順で時計回りに配置された席のうち、四番目の席を見て、これまた深く息を漏らす。
「では、あの狂った鳥……pelic4nさんは?」
「奴は頭がおかしすぎるから呼んでない」
「呼んでくださいまし!」
「同様にmon5terにも声をかけなかった……話の通じない奴らは嫌いだ」
「もはやouro6orosさんの職務怠慢ではなくって!?」
「なら貴様が呼べ」
「お断りですわぁ。あのお二方とは関わりたくありませ~ん!」
最後に9ueenは、隣席に居座る少女に目を向ける。
前を竹箒みたいに整えたセミロングの髪に、蛸の吸盤のような飾りを左右に一つずつつけている。両目を閉じているが寝息は立てておらず、羽織っているコートは髪色と同じ紫だった。
「あなた、octo8usさんの眷属でしたわね? ご本人はいらっしゃらないのかしら?」
「……はい」
「それはなぜ?」
「……分かりません」
消え入るような声で、じっと正面に顔を向けたままの眷属に、9ueenが痺れを切らす。
「octo8usさん! 聞こえているのでしょう!? 直ちに会議へ参加してくださいまし!」
彼女が、無抵抗な眷属の耳を引っ張って叫んだ。
すると、眷属のうなじから赤紫の触手が伸びてきて、9ueenは首を絞められる。
「うっ……」
いつの間にやら眷属が開眼しており、真っ赤な瞳を光らせながら、低い声を響かせる。
「うぜぇ。僕の眠りを邪魔すんじゃねぇよ」
負けじと9ueenも目を光らせ能力を発動した。触手が破裂し消え失せる。
「このわたくしに敵意を向けるなんて……万死に値しますわ」
突如、眷属が閉眼し円卓にうなだれて、octo8usの声も聞こえなくなった。続け様に9ueenが追い打ちをかけようとする。
さすがに制止しようと思い立った矢先、彼女の背後の空間が捻じれ、あのお方が姿を現した。
「──失敬。遅くなりました」
我らが主、ヴェノムギア様だ。
9ueenは慌てて能力を中断し、ヴェノムギア様に抱きついた。
「ヴェノムギア様ぁぁ。聞いてくださいまし! octo8usさんがわたくしの首を触手で締め付けてきたのです!」
「ええ。見ていましたよ。私とエラーコードの皆様の視界は繋がっていますからね。ouro6orosさん、眷属さんを助けてあげてください」
言われた通り、即死させられた眷属の少女を生き返らせる。
少女はむくっと体を起こし、例のごとく目を瞑ったままボーっとする。
一方、殺しの張本人は猫撫で声で主に甘えていた。
「わたくし恐くて恐くて……首に跡とか残っていませんか?」
「大丈夫そうですよ」
「も、もっと近くで見てくださいましっ!」
主が仮面を被った顔を近づけようとする……が、すぐにやめて、主は自身の席に座った。9ueenの席とbeet1e席の間。所定の位置である。
「そんなことを言って、また私に抱きつくつもりでしょう? その手には乗りませんよ」
「んん~!」
彼女はやや大げさに頬を膨らませる。
ヴェノムギア様の前だといつもこうである。見苦しい。
「では、会議を始めましょうか。しかし、相変わらずの出席率ですねぇ」
「申し訳ありません。ご所望であれば……今から全員引き摺ってでも呼んできますが……」
「まぁ、皆さんにも色々と事情はあるでしょう。無理強いはよくありませんよ」
組織の長の招集なのだから、無理強いしても構わないと思うのだが、それをしないのがヴェノムギア様の変わったところだ。
すると、主は付け加えるようにボソッと呟く。
「……それに、エラーコードは自由だからいいんです。わけもなく付き従う者なんて面白味に欠けますから」
急に9ueenが立ち上がる。
「そ、それならばわたくしも、ヴェノムギア様の言うことを無視して今からお手洗いに行って参りますわっ!」
「ふっ。いえいえ、9ueenさんとouro6orosさんはいいんですよ。せめて素直な方も数人はいてくれないと、私も寂しいので」
「わたくし、会議に参加致しますわっ!」
「ありがとうございます。さてと……本日はとてもとても悲しいお知らせと、それと同じくらい嬉しいお知らせ、加えて今後のロワイアルゲームに関するお話しをしたいと思います」
主は卓に両肘を乗せ、黒い手袋で包まれた両手を組み合わせる。
「まずは悲しいお知らせから。昨夜、mon5terさんがお亡くなりになりました」