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【29】殿下の依頼

 魔法使いの三人組が来てから、続々と例のバッジをつけた者らが迎賓館に現れ、一時間と経たずに十余名ほどの魔法使いが一堂に会した。


「ほぉ~新進気鋭の三人組も足を運んでおったか」

 

 彼らにそう声をかけたのは、真っ白い髪と髭をもじゃもじゃ生やした、大魔導士感満載の爺さんだった。


「ええ。何せ報酬が良いですからね」

「しかしながら、殿下直々のご依頼とは……ゴルゾラ侵攻作戦以来の高難度かもしれんぞ?」

「そうですかね? 残党狩りなんて以前に比べれば楽勝ですよ。何なら、僕のパーティだけで事足りるんじゃないですか」

「ほっほっほ! これは心強い!」


 すると、世紀末モヒカン男(あいつ魔法使いなの?)が、斧みたいなごっつい杖を担ぎ物申す。言うまでもなく眉毛は全部剃っている。

 

「ケケッ! 調子乗ってんなよ色男! A級の雑魚女どもなんか引き連れやがって! 魔族にハニトラでも仕掛けるってかぁ?」


 彼らはムッとするが、代わりに、焼けた肌とボディビルダーみたいな体が特徴のタンクトップ男(あいつも魔法使いなの?)が口を開く。彼は胡坐をかいて床に座っており、木製の杖はなぜかひとりでに直立している。


「今回の依頼受領条件はA級以上の魔法使い……ゆえに彼女らにもその資格はある。とやかく言われる筋合いはないだろう」

「あ? だとしてもS級の俺たちと肩を並べる器じゃあ──」

「下らん価値基準だ。魔法使いの力量はそのような階級付けに依存しない。言動に気をつけろ。S級の面汚しめ」

「んだと、てめぇ!」


 一触即発の彼らの間に力士(こいつは絶対魔法使いじゃないッ!)が割って入る。


「や、やめるでごわすッ……! そろそろ殿下もお見えに──」


 瞬間、大広間の中央に一人の男が忽然と姿を現した。


「……」


 黒い貴族風の服。年は三十代ほどか。エリーゼほどではないが背も高く、ミディアムカットの金髪を片耳にかけた色気のある男だった。そして何より、ハリウッドスターみたいに顔面が強い。


「殿下!?」

「……遅い」

「え?」


 どうやらこの人がフォルトレット公国の王、ナタナエル・フォルトレットらしい。


「今、私が姿を見せるよりも早く、その出現に気づけた者は一人だけ」


 彼は横目でエリーゼの方を見た。


「常時、周辺にある魔力の流れを察知していれば容易い事のはず。私のギルドも落ちたものだな。そこの女以外、S級の地位を剥奪するか?」

「……」


 彼はエリーゼの傍にいる俺を見て眉をひそめた。キリッとした青い目が細くなる。


「あぁ……そうか。君たちか」

「え? 僕ですか?」

「ああ。そうだ。君、大通りのレストランに立ち寄ったか?」

 

 え、なんでバレてんの? てかまずい。事情聴取される。


「レストランですか? いいえ。立ち寄ってません」


 あーあー嘘ついちゃったぁ。

 だが、俺の悪友エリーゼもそれに乗っかった。


「レストランがどうかしたの?」


 当たり前のようにタメ口を使う彼女に周囲は戦慄したが、殿下は意外にも突っかからなかった。


「昨日そこで人が殺された。犯人の目星はついている。そいつは、此度の依頼における討伐対象、レジスタンスの一人だ」

「あらそう。大変ね」

「しかし問題はそこではない。あの場には犯人以外の者が放ったであろう闇魔法の痕跡と、目撃証言とは合わない不可解な魔力痕を見つけた。そして、その痕は君ら二人の特徴と合致する」

「……」

「底なしの魔力と、感知不能の魔力……さしづめ魔力を誤認させるような魔法だろうな」


 違うよ。底無しと底抜けだよ。


「なぜそのような小細工をしているかは不明だが、とにかく君らはあの場にいた可能性が高い」

「……」

「そして、あの闇魔法は犯人が現れる前に放たれたと聞いた。となると、必然的にその魔法は犯人以外の誰か、ひいては今回の被害者に放たれたものと推測される。なぜそんなことを──」

「ふん、何それ? 私じゃないわ。ていうか私がそれをやったなら、魔法を天井に外すなんてミスはしない」


 エリーゼの言葉に、彼の目つきが鋭くなる。


「……いつ魔法が天井に放たれたと言った?」

「あ」


 あ、じゃねぇよ。陳腐な自滅しやがって。


「あの場にいたんだな? どういうつもりだ? なぜ人間の店主を攻撃しようとした? まさかレジスタンスに与する者か?」

「……」


 エリーゼは目を逸らし、手元に黒い魔法陣を出した。

 周辺にいた魔法使いも杖を構え、迎撃態勢に入る。


「うおぉぉ!? ストップストップゥ!」


 慌てて俺は両手を広げ前に出る。


「噓ついてすみません! 確かにレストランには行ってました! 容疑者にされるのが嫌で! でもこれ違くて!」

「どきなさいムギ。もうこうなったら全員殺すしか──」

「判断が早いっ! この暴れん坊! とにかくそれ消して! 早く消して!」

「……」

 

 エリーゼは魔法陣を消してくれたが、みんなはまだ臨戦態勢のままだ。

 

「こ、こいつ僕の背後霊なんです! なんか大昔の……偉い魔法使いさんで……それを召喚魔法でちょちょいとね!」

「背後霊の召喚? そんな魔法があるのか?」

 

 フォルトレットさんが物凄い剣幕で睨んできたが関係ない。俺は堂々と嘘をつく。万が一の時に用意していた作り話だ。


「あまり自分の手の内は明かしたくないのですけどこの際仕方ありませんね。かいつまんでお教えしますよ」

「……」

「僕の故郷には、イタコという死者の霊魂を降ろす人たちがいまして、その技術を召喚魔法と織り交ぜ、なんやかんやして……僕は彼女を現世に呼び寄せたのです」

「ほう。ならその術式を見せろ」

「あ、無理です。イタコさんの技術は秘密の技術ですし、先日膨大な量の魔力を消費して発動したので、今の僕は魔力ゼロです。魔法陣は組めません」

「……それで君は魔力が無かったと?」

「はい。それに僕もまだ全然こいつのこと手懐けてなくて、気に食わない奴とか騒がしい奴がいるとすぐ魔法をぶっ放すんです。昨日もそれで店主に魔法を撃とうとしたので僕が止めたんですよ。お騒がせして申し訳ございませんでした」


 頭も下げるが、彼らの疑いの目は変わらなかった。そろそろ身分証を見せろとか言われそうだ。仕方ない。こうなったら話を逸らす他無いな。


「でも、このくらいしなければ今回の依頼は遂行できないと僕は判断しました。だってそうでしょう殿下? なんせ相手は……魔王の一族の生き残りなんですから」

「……!」


 魔王、という言葉に場はどよめき、エリーゼも耳打ちしてくる。


「ちょっと、何勝手にバラシて──」

「関係ない。たぶんもうバレてるよ、あの人には」

「え?」


 すると、 女性二人を侍らせている例のお兄さんが聞き返してくる。


「魔王!? まさかっ……!? 奴らは五年前の作戦で全滅したはずだぞ!?」


 一方で、フォルトレットさんは取り乱すことなく構えている。やはり、彼は気づいていた。


 昨日俺たちが座っていたテーブル席の魔力を感知し、エリーゼが天井にぶっ放した魔法の属性まで知っていた彼なら、あの場で魔王お得意の空間魔法が使用されていたことも気づけるだろう。


「──彼の言う通りだ。魔王は生きている」

「そ、そんな!」

「ここ半年でレジスタンスによる人間殺しが激化したが、奴らの暗殺は迅速であり、殺しが終われば煙のように消え、ろくな手がかりも残さない。ただ一つだけ共通するものがあった。無属性魔法の形跡だ。精査したところ、それは空間魔法による瞬間移動だという事が最近になって判明した」

「空間魔法……それって!」

「魔王一族の十八番だな」


 フォルトレットさんはポケットから一枚の紙を出す。それは昨晩街で見た、レジスタンスの手配書だ。例の少女の絵が描かれている。


「これまでの目撃情報から推察するに、正体は魔王正統後継者の小娘だ」

「……!?」

「先の侵攻作戦では幼さ故、彼女が戦闘に関わることはなかった。しかし既に五年が経過しようとしている。現在の実力は底が知れない。わざわざA級以上の君たちを招集したのはそのためだ」

 

 手配書に皺が入って絵が歪むほど、彼は片手でそれを強く握り締める。


「これが私の依頼。魔界史上最強の一族……魔王。その残党である『ラヴィニア・ゼロ・セリーヌ』の討伐だ」

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