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【21】荒くれ高慢ちき女神

 魔界中央都市ゴルゾラは、C字型に聳える低山に囲まれた盆地で、城壁的なものがない。代わりに“ゼロタワー”と呼ばれる六本の高塔が、都市の周りに等間隔で建っている。それは、空間魔法を得意としていた初代魔王が建てた物らしく、関所以外から都市に侵入しようとすると、空間が捻じ曲がり元いた場所に戻されてしまう。


 ──って、歩きながらエリーゼが教えてくれた。


 さっきビームが跳ね返ってきたのは、ゼロタワーの効果らしい。

 まぁ、小難しい話は置いといて、要は関所からちゃんと入らないと駄目ってことだ。


「──旅人? 困るなぁ。通行証とか身分証がないんじゃ話にならないよ」


 関所にて、グレーの衛兵服に身を包んだお兄さんに行く手を阻まれた。片眼鏡をつけている。

 関所はパリの凱旋門みたいな造形をした入口だった。その先には、正六角形を敷き詰めたような青い結界が張り巡らされている。


 すると、隣にいた口髭を生やしたおじさんの衛兵が俺を見る。


「おまえさん、どっかの貴族か? 身なりが立派だ。見慣れない服装だから、我が国の人間ではないだろうが」


 身なりが立派って、制服のこと言ってんのか? 白シャツにスラックスだけど、立派は立派か?


「しかも美人な天使の()()まで引き連れているときた」

「え? 奴隷!?」

「違うのか?」


 な、何言ってんのこいつ!? 天使ってエリーゼのこと? 翼生えてるけど……でも奴隷って。何なら俺より綺麗な身なりだぜ?

 そう思った矢先、彼の体が激しく燃え始めた。


「え……わぁぁぁあ!?」


 エリーゼが手に魔法陣を出している。


「誰が誰の奴隷ですって?」

「うがっ、ああぁぁあ!」

 

 すぐさま彼女の手を掴んで怒鳴る。


「やめろぉ!?」

「……」


 意外にも彼女はすぐ魔法陣を解き、共におじさんの炎も消えた。しかし、もう一人の衛兵が剣を抜く。


「き、貴様! 我が国において、魔族の人間に対する攻撃行為は極刑だぞ!」

「魔族じゃないわ」

「は? 嘘をつくな、どう見たって──」


 慌てて俺は仲裁する。


「待ってくれ! 違う! 俺だ!」

「何!?」

「あ、あれなんだ! その……あれだ!」

「何だ!?」

「俺の……魔法で」

「何を言ってる? その天使が魔法陣を出したのは明白──」

「いやだから、こいつ自体が俺の魔法なんだ! 背後霊的な!」

「背後霊ぃ?」


 倒れたおじさんを指さし、エリーゼに命令する。


「いけぇエリーゼ! 衛兵さんの傷を癒せぇい!」

「……」


 黙りこくる彼女の腕を引っ張り、耳元を近づける。


「……なんだその呆れた目は。おまえがめちゃくちゃするから無理やりフォローしてやってんだろうが。ぶっ飛ばすぞ」

「やれるもんならやってみなさい」

「い、いいから話合わせろ……! あんまり悪目立ちしてエリザベータってバレたらどうすんだ? そんくらい分かるだろ、馬鹿なのかおまえはぁぁ?」

「……」

「お互いに魔界の現状とか知らないんだから慎重に行こうぜ……! 万が一ここにヴェノムギアとか、その手先がいたらどうすんだよ?」

「それはまぁ、一理あるわね」

「頼むぞ」


 気を取り直し、俺は倒れた衛兵さんにまた指をさす。


「……よし、エリーゼ! 衛兵さんの傷を癒せっ!」

「言い方が気に入らない」

「ぐぬっ。エ、エリーゼ様治してください。お願いします」

「よろしい」


 この荒くれ高慢ちき女神が!


 すると、パワーA、精密動作性E、倫理観Fの背後霊は、魔法で彼を治療した。

 火傷やただれた皮膚はもちろん服も全て元通りになった。それどころか、肌荒れも治り、白髪の混じった髪もブローした後みたいに綺麗になっていく。そこまでやれとは言ってない。


 おじさんは徐に立ち上がり、驚いた表情を浮かべながら肩を回した。


「あ? 肩こりが無いぞ!? 背中で手繋げる!? し、しかも──」

 

 おじさんは、腰をひねり、その場で素早く足踏みまでしだした。


「嘘だろ!? 足腰が青春時代のそれだっ! 活力に満ち溢れている! 虫歯も微熱も蓄膿症も全部無い! なんてこったぁ!」


 お疲れ様です。


「少年ありがとう! 奴隷なんて言ってすまなかった!」

「へへっ。こちらこそすみません。一回燃やしちゃって。コントロールがまだ下手っぴで……」

「構わないさ! ああ! 健康って素晴らしいなぁ!」

 

 病院行ってくれ。


 一方、若い衛兵さんの方が、片眼鏡上げてエリーゼをじろじろと観察する。


「いやぁ恐れ入った。この背後霊は一体どんな魔法なんだ? 無属性魔法だよな? 召喚魔法の類か?」

「え? あ、そんな感じっすね~」


 知らんけど。


「等級もかなり高度なものだろう? いくつなんだ?」

「と、とうきゅう?」


 何それ? 投球? 東急? いや、いくつって聞いてるから等級か? そういえば、チラホラ出てきてるんだよな、等級ってワード。何だろう? 魔法のレベルみたいなことか?


 助けを求めるようにエリーゼに目配せする。目を合わせるなり鼻で笑われた。


「いくつだったかしらねぇ?」


 俺で遊びやがって。

 もういいや。俺ってミスを恐れないタイプの人間だもんね。適当に言っちゃえ! 知ーらねぇ!


「百ですね! 百! 百等級っ!」

「ぷっ……」

 

 エリーゼが吹いた。

 衛兵のお兄さんも苦笑する。


「え? いや、アハハ。等級は六までだろぉ~? 面白いなぁ……君」

「……」


 後でエリーゼはぶっ飛ばすとして……そうか、六までなのね。割と少ない。

 

「ま、まぁ等級なんていくつだっていいじゃないですか。とにかく僕は遠い国から来た旅人です。せっかくなんで中入れてくださいよ? お願いします!」

「う~ん」

 

 手を合わせて懇願すると、ご機嫌な髭の衛兵さんが腕のストレッチをしながら説得してくれる。


「ま、いいんじゃないか~?」

「いや、バレたら僕たちの責任問題ですよ? それに今、軍部も結構ピリついてるじゃないですか? 身元不明者を入れるわけには──」


 瞬間、エリーゼがまた魔法を発動した。今度は両目に魔法陣を出していた。


「……さて終わったわよ、ムギ」

「ん?」


 衛兵の二人はまるで剝製にされたかのように体の動きを止めていた。

 エリーゼは堂々と二人の横を通り過ぎ、俺もその後をついていく。すると、衛兵らが突然、誰もいない場所を見て、意味不明な会話を始めるのだった。


「──そうか。またな! 色々治してくれたのに申し訳ない! 本当ありがとな!」

「こっちも仕事なもんで。今度は身分証忘れるなよ」


 様子のおかしい二人を見て、俺はエリーゼに問う。


「これが幻覚魔法か?」

「ええ。彼らには今、私たちが諦めて帰っていく光景が見えてる」

「すげぇ……エリーゼって何でもできるんだな」

「そんなことないわ。私の幻覚魔法は二等級相当だし、雑魚にしか通じない。言ったでしょ全能ではないって。入口の結界も見たことなかったから、解析に時間がかかったし」


 そう言いながらも、彼女は容易く青い結界を解除した。


 最初から俺たちの目的はこれだった。


 ゴルゾラの状況がどうであれ、関所があるような街で身元不明の者が易々と入れるわけがない。ゼロタワーの空間魔法を掻い潜る方法もあったらしいが、それよりも関所の結界を突破する方が簡単だとエリーゼが言ったので俺はそれに乗った。


「でも、遠くから結界見て、解析した方が安全だったんじゃないか? 俺、変な嘘ついちゃったよ」

「ふっ……百等級」

「笑うな。その面白さまだこっちに伝わってないからな!」

「悪かったわよ。でも、あなたが衛兵とおしゃべりしてくれたおかげで、少しゴルゾラの状況も垣間見えたじゃない──」


 彼女は入口の結界をノールックで張り直し、ゴルゾラへと繋がるトンネルを進んで行く。

 そして、すぐに俺たちは真昼の光に満たされた都市へと出るのだった。


 まるでおとぎの国のような街で、パステルカラーの屋根や赤茶色のレンガ造りの建造物で溢れている。

 舗装された石造りの大路の先には黒く巨大な城があり、それはムゥで見たエリーゼの城と同じくらいのサイズ感だ。あれが魔王城か。街の中心にあるみたいだ。


「──魔族の街ゴルゾラは、人間に支配されている」


 エリーゼは振り返り、やや伏し目がちに言った。

 景色に圧倒されて気づくのに遅れたが、いつの間にかエリーゼの背中にあった翼が無くなっている。


「人間の姿……嫌じゃないのか?」

「死ぬほど嫌よ。だけど、奴隷に間違われるよりは幾分かマシね」

「エリーゼ。魔王のことは──」

「大丈夫よ。五百年も経ってるんだもの。仕方ないわ……」

「……」

「行きましょうムギ。ゴルゾラは広いわよ」

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