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【127】宇宙一綺麗な星

「気が遠くなるほど遥か昔。原因不明の大爆発が起きたわ。超高温。超高密度。そんなエネルギーの発散によってこの宇宙が始まった。時間と空間、あらゆる物理法則が発生し──」

「待て待て待てぇ!」

「何よ?」


 急に壮大な話をし始めた彼女を制止する。


「今ヴェノムギアの話してんだよな!?」

「そうよ。でね、宇宙の始まりとともに──」

「でね、じゃねぇよ! その話の切り口でちゃんとヴェノムギアに繋がんのか!? 全部話せとは言ったけど、さすがに全部すぎるだろ! もっと端折れ!」


 ベンチにて、隣に座っているエリーゼが不服そうな顔を浮かべる。


「……ヴェノムギアの正体は“マティラス”よ。どうかしら? マティラスを倒す方法は思いついた?」

「マ、マティ? えっと……」

「思いつかなかったみたいね。じゃあ記憶消すわね」

「待てよぉ! 端折りすぎだろっ……! てか、誰だよマティラスって……!?」

「ちっ」


 舌打ちしたいのはこっちだわ。

 エリーゼは、田中さんの姿のままベンチにふんぞり返って脚を組む。


「ヴェノムギアもといマティラスについて話す前に、まず私のことを話す必要があるわ。そういえば私がどういう存在なのか話したことあったかしら?」


 エリーゼがどういう存在か? なんだそれ?


「……女神だろ?」

「そういう漠然とした肩書きじゃないわ。もっと本質的なものよ」


 いまいちピンとこず首を傾げていたら、彼女がそれを察して告白を始める。


「私は()()()()()()よ。宇宙の始まりとともに発散されたあらゆるエネルギーの内の一つ、魔力の根源でありその集合体。それが私。いわば、知能と体を有したエネルギーなのよ」

「はぁ?」


 はぁ?


「魔力は扱う者によって炎になったり、雷になったり、はたまた治療効果を発揮したり、まさに無限の可能性を秘めている。だから、今の私のように知能や肉体を手にしたって矛盾は無いでしょう?」

「あーまぁまぁ……そうなのかなぁ?」

「そうなのよ」


 いかんせん腑に落ちないが、そういえば彼女には食欲も睡眠欲も性欲もなかった。なんかそういうのを超越した上位存在だとぼんやり認識していたが、それは彼女が生物ではなく魔力というエネルギーだったから、というわけらしい。


「私は元々白いガスのような姿で、果てしなく長い時間、宇宙を彷徨っていたの。特に何をするわけでもなく、星間を彷徨い、銀河を流れていたわ。でも、あるとき信じられないほど美しい星を見つけたの。それがここ……あなたたちの星よ」

「え、地球?」

「ええ。まさかあなたたちがあの“青い星”出身だなんてね。地球……地球ね。前に“変な名前”とか揶揄した覚えがあるけれど全面的に撤回するわ。地球は宇宙一綺麗な星よ」

「あ、そう~?」


 自分の星を褒められるなんてありそうでない経験だ。

 なんて若干照れ臭さを感じつつも、すぐさま俺はその話の違和感に気づいた。


「ん……なんで異世界にいるはずのエリーゼが地球知ってんの?」

「異世界じゃないからよ。エアルスと地球は同じ宇宙に存在する」

「えー」


 エリーゼは空を見上げ、遠い目をしながら話を続ける。北風が吹き、やや赤みがかった木々の葉が揺れた。


「私が地球を見つけたとき、そこにはすでに無数の生命が存在していたわ。誰かが意図的にそうしたわけでもなく、地球には自然に命が芽生えていたの。まさに奇跡よ。そうして、数億年地球で過ごしているうちに、私は地球のような星をもっと増やしたいって思ったの。で、新しい星を作った。地球とその太陽系をマネしたのよ。組成や規模、星間距離はもちろん自転や公転周期もすべて参考にした。それが、あのエアルスよ」


 エリーゼはエアルスを生み出した創造神であると前に聞いたが、こうして改めて聞くとやっていることが規格外すぎてついていけない。

 これまでヴェノムギアだのエラーコードだの知華子ちゃんだの、神の領域に片足を突っ込んでいるような人たちに出会ってきたがやはり本物は違う。こいつだけは別格だ。


「……にしても、同じ宇宙にあるならどっかの学者が発見してそうなもんだけど、そんな話聞いたことないな」

「かなり遠くに作ったもの。あと、そう簡単に観測されないように魔法で隠したわ」

「なんでまた」

「だって、地球やその生き物たちに見られたら恥ずかしいじゃない」


 なんだその価値観。よく分からん。

 唖然として、気疲れもして俺は息を漏らす。


「……そうなると俺たちは異世界転移じゃなくて、超ウルトラスーパー長距離テレポートをさせられたってことか」

「そういうことになるわ。大体、転移魔法なんて存在しないのよ」

「ちなみにエリーゼは、俺たち転移者(プレイヤー)が地球人だとは思わなかったの?」

「思わないわよ。私が知ってる最後の地球は三億年とかそのくらい前だし。たぶん哺乳類もギリギリいなかったわ」


 いちいち話の規模がデカくてピンとこない。三億年前って哺乳類いなかったんだ。


「へぇ……それで? 今のところ、ヴェノムギアもマティラスってやつもまったく出てきてないけど?」

「本題はここからよ」

「なげぇな」

「あなたが聞かせろって言ったんでしょ。記憶消されたいの?」

「それ恐すぎるから冗談でもやめろ」


 エリーゼは組んでいた脚を組み換えて、ベンチの肘掛けに腕を置き頬杖をつく。


「エアルスを作っておよそ一億年……生物が生まれる気配は皆無だったわ。だから、むりやり魔法で微生物を生み出したんだけど──」


 なんかまたしれっとぶっ飛んだこと言ってんな。もう面倒くさいから突っ込まないが。


「──エアルスには魔力があるせいか、地球よりずっと早く進化していったわ。藻類や魚類が海を支配し、両生類や爬虫類といった脊椎動物が陸へと上がっていった。続けて鳥類と哺乳類が台頭し、中でも特に知能の高かった二種族……人間と魔族がエアルスを支配していったの────」

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