【12】協力
エリザベータの部屋にて。彼女が先ほど使用していた、とある装置を起動する。
この星を模したホログラム……それはライブ映像のようで、現在の星の様子を確認できた。案の定、例の結界も映っている。
「えぇっと、なんか触ってたよな、あいつ……」
結界の内部に指を差し、適当に何度か突っつくと、ホログラムが光り出した。
「──ん? む、麦嶋ッ!?」
俺はまたもや瞬間移動した。狙い通りだ。アダムに名前を呼ばれた。
「おまえ無事だったのか!」
「よっ。所々怪我してるけど、概ね無事だよ」
「そのくらい俺が治してやるさ!」
やや興奮気味でアダムが駆け寄る中、エラーコード達は目を丸くしていた。
「ouro6orosはどうしたんじゃ?」
「ああ。今頃、城の敷地内で救護活動でもしてんじゃないか?」
「救護活動?」
一方、黙って見ているエリザベータに断りを入れる。
「悪い。部屋の瞬間移動マシンみたいなやつ勝手に使った。どうしてもおまえと話がしたくて」
「何よ。あんたと話すことなんて──」
「そんなに人間が嫌いか、エリザベータ?」
「……」
おい、とアダムが肩に手を置き心配してくれるが、構わず彼女の方へと歩いていく。
「で、結局おまえって何がしたいの? 俺を殺したいの? 生かしたいの?」
「は? 生かしたいわけないでしょ?」
「じゃあなんでプレイヤーカード返してくれたんだよ?」
「え?」
やや戸惑いを見せた彼女に詰め寄る。
「俺がこの星で悪用する可能性だってあっただろ? 本当に人間を信用してないなら、あのままおまえが預かっておくべきだったんじゃないのか?」
「それは……ほら、本当の持ち主がここに来ても困るし。それに、すぐエアルスへ送るつもりだったから」
「だとしても、せめて忠告すべきだ。ムゥではスキルの使用を禁止する、とか何とか。でもおまえはそれすらしなかった」
「……」
「俺さ、正直おまえのこと嫌いだけど、でもそこまで嫌な奴でもないんじゃないかって思うんだ。何となくだけどな。だから、今一度素直に言わせてもらう」
黙りこくる彼女に手を差し伸べる。
こうして正面に立つと、彼女のスラッとした背丈がよく分かる。
「手を貸してくれ、エリザベータ」
「……」
すると、raffl3siaが水を差してくる。
「そんな奴の言うこと聞いちゃ駄目だよ邪神!? 人間だよ!? あんたの大嫌いな──」
「おまえに話してねぇ! 黙っとけ、うんこ野郎ッ!」
「う……麦嶋ぁ!! おまえマジで死ね!」
「エリザベータ! はっきり言う! 俺だけじゃあいつらは倒せない! でもおまえが協力してくれれば、あんな奴ら──」
しかし、彼女は手を取らず、そそくさと横を通り過ぎた。
「……悪いけど協力はできない」
「……」
呆然と立ち尽くす俺に、raffl3siaが小声で、ざまぁと言っているのが聞こえた。
「協力はできないけれど……少し気が変わったわ」
「あ……?」
「あんな奴ら、私一人で十分だって言ってんのよ──」
彼女は背を向けながら、巨大な魔法陣を地面に展開した。瞬く間に、辺りを覆っていた結界が粉々に破壊される。
「エ、エリザベータ……」
「あんたはアダムの傍で大人しくしてなさい。邪魔だから」
「か、かっけぇぇ……! エリザベータばんざーい! ばんざーい! ばんざ──」
「うっさいわね! 早く行きなさいよ!」
俺は走ってアダムの方へ向かい、同時にraffl3siaに舌を出す。彼女は舌打ちをして、地面からまた木の幹を出した。
だが、それと共に突風が巻き起こり幹は容易く斬り刻まれる。エリザベータが手の平に緑色の魔法陣を出していた。
「邪魔しないでよぉ! あーもうっ! どうすんのbeet1e!?」
彼女の問いにジジィが難しい顔をしていると、そこへ黒蛇が姿を現した。能力で瞬間移動してきたらしい。
「邪神め……まさか、そちらに着くとはな」
横目で見ながらエリザベータは蛇を煽る。
「降参する?」
「驕るなよ? 我らは……貴様がかつて相手にした人間らとはわけが違う……」
「あら、驕ってるのはそっちじゃないかしら? あのバカ一人を満足に仕留めることもできないくせに」
「貴様……」
「何? 事実でしょう? ほら、やるなら三体まとめてかかってきなさい。時間の無駄だから」
黒蛇は仲間二人に指示を出す。
「raffl3sia……beet1e……予定変更だ」
「え、本気なの?」
「ああ……我々で邪神をやる。麦嶋勇はそのあとだ……」
「わしらでいけるのか?」
「我がいれば問題ない……そうだろう?」
「…………」
「邪神がプレイヤー側になった時点で、麦嶋勇はゲームにおけるジョーカーとなった……これを討つなら今が最大の好機だ。もし今後、奴が他プレーヤーと共謀すれば……討つのはさらに厄介となる。やるなら今しかない」
蛇の言葉に二体の目つきが変わった。
「気をつけろエリザベータ! 俺が生き残れたのは運が良かっただけだ! そいつらちゃんと強いぞ!」
「無駄な忠告どうも」
「無駄ぁ~?」
エリザベータは天空に巨大な魔法陣を出し、俺とアダムを白いオーラのようなもので覆った。何となく体が丈夫になった気がする。加護魔法的なやつだろうか。
辺りを見ると、そのオーラは星全体に発生していた。あらゆる動植物に魔法の効果を及ぼしているみたいだ。
「まぁ、見てなさい。金輪際、私に生意気な口が利けないくらい、神の何たるかを教えてあげるわ」