【119】マジで勝った
長い夜が明けた。
あと二十分ほどで、このリニアモーターカーは火山島に到着する。
眠っていた人たちも起床して、俺たちは一つの車両に集結していた。計十二名。それにエリーゼとアダムを加えたら十四名だ。
「も……もうすぐ火山島だよ。委員長はまだそこにいるみたいだけど……どうする?」
電車大好き桐谷君が、車内の先頭に立ちこちらを見てそう聞いてくる。
「どうするってなんだ!? 俺たちは委員長を助けに来たんだろ!? ビビるなよ桐谷さん! 俺がついてるッ!」
車内後方から神白の熱い言葉が飛んできて、何人か吹き出していた。桐谷君も苦笑いする。
すると、俺がさっきまで座っていた席を横取りしたエリーゼが、肘掛けで頬杖をつきながら口を開く。
「本当に七等級は撃たなくていいの? いつでもやれるわよ?」
物騒なことを言う彼女に、隣に座る茉莉也ちゃんが言葉を返す。
「いいって。委員長、誰かと戦ってる感じじゃないし」
「でも、もしかしたら彼女、磔かなんかされてて、私たちをおびき出すエサに使われてるかもよ」
なんだその悪魔的発想。しかし、ありうる。ヴェノムギアならやりかねない。それでまた俺の近くで彼女を殺して、スキルを俺に譲渡させようと企んでいるかもしれない。
「実はその島から魔力を感じるのよね。ちょうどその“イインチョ”って子がいる辺りに」
彼女の発言に、脚を組んで椅子に座っていた七原さんが血相を変えて立ち上がる。
「本当ですか……!?」
「そんな嘘つかないわよ」
マジかよ。エリーゼの説がやや有力になってきた。
「心配なら私が先行して様子を見に行くけど?」
もしヴェノムギアどもがそこに潜んでいれば、エリーゼなら即座に感知できる。そうしてもらうのが吉か。
一同、彼女の意見に賛成の意を示した。
「──分かったわ」
エリーゼが席を立ち、なぜか俺の方を見てくる。
「何してるのよ。あなたも来るのよ」
「え、なんで?」
「当然でしょ? ヴェノムギアがいたら速攻で七等級を撃つつもりだけど、 私その“イインチョ”って子と会ったことないもの。このままだとその子助けられないわよ?」
「会ったことない……? いやモレットで会っただろうが!? セーラー服でおさげの子だよっ!」
「知らないわ。来なさい」
「もぉ!!」
七原さんが手を上げた。
「あの……心配なので私も行っていいですか?」
「いいわよ。来なさい」
茉莉也ちゃんやアダムも手を上げるが、それをエリーゼが制止する。
「二人はここにいて。あなたたちを危険に晒したくないの」
俺と七原さんはいいのかよ。
「しかし、エリザベータ様……」
「平気よ。ちょっと様子見るだけだし、私とムギとセブンがいたら無敵だから──」
意外と七原さんのこと信頼してるんだな、と思った矢先、俺たちの足元に灰色の魔法陣が出た。
瞬く間に辺りが光で満たされて、数秒後には見知らぬ屋外にいた。
黒っぽい地表に覆われた場所で、視線の先には湯けむりのようなものが上がっている丘があった。
どうやら、ここが火山島らしい。
「──おお! おまえ瞬間移動使えたのか!?」
「無属性魔法をちょっと練習したのよ」
一緒に移動した七原さんはすぐ辺りを見回して彼女を探す。
「ち……知華子!?」
意外とすぐ近くに彼女の姿はあった。
膝をかかえてポツンと地べたに座るセーラー服の女子がいた。
「あ、よかった。やっぱり来てくれた。久しぶり茜ちゃん。麦嶋くんにエリーゼさんも。それで……他のみんなは? 月咲さんのスキルで私の居場所見つけて来たんじゃないの?」
彼女は傷一つなく、顔色もすこぶる良かった。
「知華子ッ──」
涙ながらに七原さんが駆け寄ろうとするが、その眼前にエリーゼが手を出して進行を阻む。
「あんたが“イインチョ”? 言われてみれば見たことある顔ね」
「え、覚えてないんですか?」
エリーゼが目に魔法陣を出し、彼女を凝視する。
「妙ね。どうしてあんた魔力があるの? ムギたち異世界人には魔力が無いはずよ?」
「ああ、それは──」
知華子ちゃんはゆっくりと立ち上がり、カードを取り出した。
「──このスキルだと思います。エアルスに存在する魔法を使えるんですよ」
彼女が指さしたのは『美魔女』というスキルだった。三等級相当の魔法を使えるらしい。
そして、彼女がカードを上に向けて実演する。火の属性弾が放たれた。
「ヴェノムギアの死体を燃やすのにこのスキルをたくさん使ったので、そこら中に魔力が──」
「え!? ヴェノムギアの死体!?」
なんかしれっととんでもないことを口走ったので、俺はつい声を張り上げてしまった。
すると、知華子ちゃんは微笑んで答える。その表情からはどこか虚無感のようなものを感じた。
「そうだよ麦嶋君……私勝ったの。ヴェノムギアを倒したんだよ」
「マ、マジで?」
知華子ちゃんはこちらに歩いてきて、俺にカードを差し出した。
「『虚飾性』ってスキル使ってみて? ウソかホントか分かるから」
「え、あぁ……」
カードを受け取り、言われた通りにしてみる。
「『虚飾性』……」
すると、知華子ちゃんの頭に『ホント!!』という文字が浮かんだ。どうやら俺にしか見えていないようだ。
「うお!? ホ、ホントだぁ!!」
七原さんとエリーゼも同じように確認し、二人揃って唖然とした。
知華子ちゃんは目を伏せて、申し訳なさそうに言葉を発する。
「死体……残しとけばよかったよね? でも復活したら嫌だし、全部燃やしちゃったの」
「……」
七原さんが俯き、知華子ちゃんのカードを見つめる。その手は小刻みに震えていた。
「どうでもいい……そんなの」
「え……」
「なんで一人で行っちゃったの!? 私たちがどれだけ心配したか分かってるの!?」
「茜ちゃん……で、でもちゃんと倒したから! ヴェノムギアはもう私が──」
七原さんが彼女の頬を引っ叩いた。あの運動オンチな彼女にしては、とても綺麗なフォームのビンタだった。
「あなたがヴェノムギアを憎んでたのは分かる! あの迷宮で見たあなたの過去はそれだけ悲惨だった! けど、だからって一人で行くなんて……ひどい」
「……」
「確かに、あなたはスキルもたくさん持ってて強いかもしれない。私たちのことなんて足手まといだって思ってたのかもしれない。でも、私たち友達でしょ!? 勝手に全部一人で抱え込んで……いなくならないでよ!!」
涙を流して激高しながらも七原さんは彼女を抱きしめた。叩いたことを帳消しにするかのように、強く優しく抱擁したのだった。
「だけど……無事でよかった。本当によかった。またあなたに会えて本当に嬉しい」
李ちゃんもそれに応え、彼女を強く抱き締めながら消え入るような声を発する。
「……ごめんなさい」
「許さない……いくら謝ったって一生許さないんだから……」
言いたいことはおよそ七原さんがすべて言ってくれたので、二人の再開に水を差さないよう俺は黙った。
エリーゼもこれといって言葉を発することなく、俺に目配せして海の先を顎でさした。
みんなの乗っているリニアモーターカーが見えてきた。
──その後、十分とかからずみんなも島に上陸した。
知華子ちゃんがヴェノムギアを倒したことを伝えると、もちろんみんな驚いていたが、もはや疑う余地はなかった。
そして、黒尾たちが死んだことについても知華子ちゃんと情報共有した。詳しい経緯は長くなるので後回しにした。
「──そっか。八人も死んじゃったんだね」
「ごめん。クラスメイト集めるって言ったのに。上手くいかなかった」
「麦嶋君が謝ることないよ。悪いのは全部ヴェノムギアなんだから」
すると、最後に『虚飾性』でヴェノムギアの死亡を確認した月咲さんが、カードを知華子ちゃんに返す。
「わ~ホントにやっつけちゃったんだ~。委員長強すぎ~!」
瀬古君はいまだ半信半疑な様子で眉をひそめる。
「てっきり僕は、ここでみんなで大集合してヴェノムギアと最終決戦……的な流れを予想してたんだけど、一人で倒しちゃったか。凄いなぁ」
同感だ。まさか本当に一人で終わらせるとは思わなかった。
映画や漫画でよくある『故郷に帰ったら結婚するんだ』的な死亡フラグを建てた登場人物が、本当にそのまま無傷で故郷に帰って結婚しているかのような裏切りだ。いや、もちろんそれが一番ハッピーだから構わないんだけど。
「でも、ヴェノムギアを倒したってことは私たちの勝ちってこと?」
茉莉也ちゃんの素朴な疑問に朝吹君も首をかしげる。
「まだ倒してないエラーコードとかいるよな?」
等々力君が自身のカードの裏面を見せながら指摘を入れる。
「いや、プレイヤーの勝利条件はヴェノムギアの抹殺……ってルールだから、これで終わりなはずだよ」
神白が腕を組みながらそれを覗き込む。
「てことは……俺たちの勝ち?」
「そうなるね」
「おぉやった。なんかヌルっと終わったなっ!」
「うん」
俺たちは互いに顔を見合わせ、その場に変な空気が流れる。
みんな謎に沈黙し、雲藤さんが吹き出し、茂田君が肩をすくめて両手のてのひらを上に向けるジェスチャーをし、ふくよかな地雷系女子(ごめん名前忘れた)の目が泳いだ。
なんだこの締まらない終わり方。
アダムとエリーゼが俺の背中を押してきた。何か言えということだろう。任せとけ。
俺は一歩踏み出して集団の中央に立つ。親指を立ててグッドマークを作り、ついでにウインクもした。
「何はともあれ勝ったならオッケー! ロワイアルゲーム、完ッ……!!」
完じゃないです。『復讐編』は完です。
次章『邪神編』までは、また期間が空きます。『復讐編』は空きすぎたので次はもっと早く上げたいです(希望)。たぶんもう結構終盤ですし。
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(๑⁰ 〰⁰)ケローン