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105/150

【105】四剣豪

訂正


「【92】異世界デビュー」の内容が間違ってたので直しました。

「【93】ダイブ」と同じ内容になっていたので。

失礼しました。

 ダークテイルのアジトを後にした俺たちは、ビーチを囲う石灰岩の断崖絶壁を登り(エリーゼの身体強化魔法で楽々クライミングした)、その先の景色を臨む。そこに道はなく、背の低い草木がまばらに生えているだけの荒れ地が広がっていた。


「アントワール辺境伯領中心都市は、この隠れ家から海岸線に沿って約六キロメートル北上した地点にある……って言ってたよね?」


 さっき青髪お姉さんから聞き出した情報を確認すると、七原さんが頷いて答えた。

 天気のいい昼下がりで、数キロ先にある城壁もよく見えた。たぶんあれだ。その中に、山のように大きい塔もある。


「見つけた! あそこにカエルのエラーコードいるよ!」


 エリーゼが瞳に魔法陣を出しながらその城壁のある街を指さした。

 ちょうどそのときだった。街から花火のような物が打ちあがり、それは放物線を描きながら高速でこちらに向かってきたのである。


「何だあれ?」


 そうこうしているうちに、それは俺たちのいる場所まで落ちてきて、砂煙と共にその正体を現す。


「──けけけけ! 何かとんでもない魔力の塊が動いてるかと思えば貴様か! 邪神エリザべータ!」


 ダークテイルの黒いコートを着た人で、フードを外すと白くボサボサの髪が出てきた。声質的にも一応男みたいだが、痩せこけていて死にかけの老婆にも見えた。


「クロー様の話では、当分はあの結界に閉じ込められていると聞いたが、こりゃどういうことだぁ!? しかも、ナナハラまでいるじゃねーの!?」

「……」


 彼のビジュアルは、エリーゼにはちょっと恐かったみたいで、俺の後ろに隠れてしまう。


「誰あんた? 黒尾の手下?」


 七原さんが臆せず問いかけると、男は腰からレイピアのようなものを抜いた。

 

「クケケ! オレ様はダークテイル四剣豪(よんけんごう)が一人! “流星剣(りゅうせいけん)のカルモ”だ! クロー様から授かったこの二つ名は、オレ様の目にも留まらぬ剣捌きを表し──」


 なんかごちゃごちゃ言ってる間に、七原さんが石を拾ってえいっと投げた。腰の入っていない弱々しい女の子投げだったが、風を切るような剛速球で男のレイピアを掠めた。『7(セヴン)』は使っていない。さっきエリーゼにかけてもらった身体強化による効果だ。

 てか、自分から聞いといて攻撃すんなよ。


「外れた」

「な!? て、てんめぇ……!」

「麦嶋も投げてみなよ」


 彼を無視して、七原さんが俺に石を渡してくる。


「このカルモ様を侮るなよぉぉ!?」


 彼がレイピアを構え地面を蹴るが、動きはスローモーションだった。『7(セヴン)』を使ったな。

 俺は貰った石を握りこみ、大きく振りかぶって投擲する。例のごとく石は剛速球となる。


「うぎゃぁぁああ!?」

「あ、ごめん! 違う違う! 剣狙ったんだけど! ごめん!」


 野球経験はろくにないが、ドッジボールは小学生のころ死ぬほどやっていたので、コントロールには自信があった。しかし、パワーが思いのほか上がっていたせいで手元が狂い、彼の小指に直撃してしまった。

 七原さんがカルモの鈍化を解くと、彼はレイピアを落としその指を押さえながら倒れた。たぶん折れてる。


「お、覚えてやが……れ……」


 勝った。


「ねぇ、黒尾はあの街にいるんだよね? 街のどこにいるの?」


 七原さんが倒れた彼を見下ろし問いかける。


「教えるわけ──」

「いいから答えろ」


 彼女がカードをちらつかせ、一回りも年上であろう彼を脅す。

 すると、さすがに観念したようで彼は口を動かす。


「ク、クロー様は現在──」


 瞬間、カルモの腕にクナイみたいなものが刺さった。彼はそのまま意識を失ってしまう。


「カルモめ。そう易々と口を割ろうとは。四剣豪の面汚しよ」


 今度はつむじ風みたいなものが吹いて、そこから忍者みたいに新しいダークテイルが出てきた。同じく黒いコートを着ているので分かりやすい。黒い日本刀みたいなものを持っている。ハゲ頭だ。


「しかれども、カルモは四剣豪の中でも最弱。次はこの“邪気剣(じゃきけん)のグォーク”が相手だ。いざ尋常に──」


 邪気のなんたらかんたらが話している最中に、エリーゼに指示を出し風魔法を撃たせた。あえなく彼は絶叫しながら大海へと飛ばされる。


「四剣豪って言ってたからあと二人来るのかな? ちょっとテンポ悪いな。早く街に向かわないと」


 なんて話していたら、次は地面に灰色の魔法陣が出てきて、赤毛を三つ編みにした同い年くらいの女子が召喚された。鉛筆みたいな物を持っている。


「あたいはダークテイル四術師(よんじゅつし)の一人! “雀斑杖(じゃくはんじょう)のコメリ”──あひん!?」


 七原さんが勢いよくビンタして、彼女を横に吹っ飛ばし気絶させる。


「どんだけいんの!?」

「俺に言われても」

「二人とも走ろう! 街まで強行突破!」


 彼女が走り出し、俺とエリーゼもそれについていく。身体強化のおかげで、おそらく乗用車くらいの速度で荒野を走り抜け、いくら走っても疲労感がこない。


 途中で四術師の残りとか、四闘士(よんとうし)なんかも強襲してきたが、エリーゼと七原さんが雑に迎撃した。


 十分弱走ると、もう街の前までついた。

 そこは海に面した港町であり、市街地は灰色の城壁で囲まれていた。強化された体で跳躍し、三階建てくらいの壁に飛び乗る。

 

 街には蜂蜜色の建造物が並んでおり、中心にはこの土地のヌシとも言うような巨塔がそびえていた。

 頂上に近づくほど階層が狭まっていくような、ずんぐりとした円錐台。各階層にチェスのルークみたいな柱がずらっと一周並べられていて、コロッセウムにやや似ていた。ただ、高さは東京タワーくらいあって、その重厚感は相当なものである。


「むむ!? なんだおまえら!?」


 近くにやぐら的なものがあり、そこにいた黒コートのおじさんたちに見つかった……と思ったら、エリーゼが即風魔法を放って、やぐらごとおじさんたちを吹き飛ばす。

 

「おぁぁああ!?」


 エリーゼが城壁の上から身を乗り出して、街路の茂みに落ちていった彼らを見下ろしながら、呑気に感嘆の声を漏らす。


「あわわ……いたそぉ~!」


 おまえがやったんだろ。


「エリーゼ、ちょうどよくやってくれな? あの人たちは……ギリ生きてるからいいけど」

「ちょうどよく~?」

「あんま関係ない人殺すなってこと」

「え!? ダメなの!?」

「ダメッ! 魔法もあれな! 三等級くらいで上手くやれよ!?」

「え……よっわ」


 十分だろ。何こいつ? 俺が注意しなかったら六等級とか使ってたってこと? 破壊神かよ。


「あの、カエルってどこにいます?」


 七原さんがエリーゼに質問する。


「えっとね、あそこ!」


 彼女が指さしたのは、あの巨塔のてっぺんだった。



 ※  ※  ※



 僕はこの巨塔、アントワールタワーの屋上が好きだ。建物の屋上とは思えないほどの広さを誇り、羅針盤みたいな模様をした金の床も気に入っている。何より、ここから街を一望するのが好きだ。行き交う人々や、その喧騒を眺めていると、自分の成し遂げた偉業を改めて自覚させられる。僕はこれだけの数の人を救ったのだ。


 すると、屋上中央にある昇降機がここまで上ってきた。

 鋼鉄の骨組みで作られた大型の昇降機で、鳥籠みたいなデザインがこれまた格好いい。


「ルビロネたちの準備が整ったみたいだな」


 僕が振り返ってそう呟くと、2ana(ラーナ)が腕を組んできて甘い声を出す。


「もうですかぁ? せっかくクロー様と二人きりだったのに……」


 昇降機の扉が開き、ルビロネとパーズが現れた。後から、白髭を蓄えた大男もやってくる。

 ルビロネたちは屋上に立ち入るなり、粛々と跪く。あの男勝りなルビロネが、いつになく神妙な面持ちだった。どうも様子がおかしい。


「クロー様。報告いたします」

「……?」

「先ほど、アントワールタワーの自動感知術式にて、都市南方からこちらに向かう膨大な魔力を感知いたしました。四剣豪のカルモ、グォークが先行して様子を伺いに行ったところ両名共に撃沈。その後向かった四術師と四闘士もやられました」

「カルモたちがやられた? 誰に?」

「はい。実はそれが“邪神”という情報が入ってきまして……他にも黒髪の少女と、クロー様と同年代くらいの男子が同行しているようです」


 邪神と……七原と麦嶋? ouro6oros(ウロボロス)の結界で閉じ込めていたはずだが。


「あら? 結界はどうしたのかしら? 蛇ちゃんが解いたの? でも、彼はまだ帰ってきていないはずよ?」


 2ana(ラーナ)の言葉を聞いて、僕が聞き返す。


「え、ouro6oros(ウロボロス)ってまだ帰ってないの? てっきり僕、とっくに帰ってるのかと思ってた」

「いいえ、帰っていません。蛇ちゃんには、逐一状況を報告をするよう言っておきましたから。今朝、名波ちゃんとお出かけするという報告を受けてから、私一度も会っていません」

「今朝から? それってなんかトラブってない?」

「んん……まぁ心配ありませんよ~! だって蛇ちゃんは、私たちエラーコードの中でも特に真面目で優秀ですものぉ~」


 そんな真面目なやつが、今朝から行方をくらましてるから問題なんだろ。彼女も大概適当だ。

 しかし、それならどうして邪神たちが外に出てるんだ? じっくりとここで戦力を整えてから七原を捕まえにいく算段だったのに、どうしよう。


「失礼。わしのほうから2ana(ラーナ)殿に一つお伺いしたいことが」


 そう手を挙げたのは四剣豪の一人、ディスカドラだった。


「お聞きした話では、邪神は2ana(ラーナ)殿の毒にやられて弱体化しているとのことでしたが、それが解毒された可能性はありませんでしょうか? 邪神が復活すれば結界も破られるのではないかと……」

「私の毒がぁ~? ありえませ~ん」


 ありえない。それは僕も自信を持って言える。


 辺境伯を倒してからというもの、僕は何度も帝国側の人間に命を狙われた。元はと言えば、2ana(ラーナ)もそのうちの一人だった。結果、彼女は僕に倒され寝返ったわけだが、改めて彼女の実力を見るため、()()()()()()を使ってその毒の効能を見せてもらったのだ。


 そうして、僕はそれの凶悪さを思い知らされた。

 彼女の体液を元に作られるその毒は、一ミリグラムでも触れてしまえば効果を発揮し、被毒者をヤドクガエルに変えてしまう。また、彼女がその組成をいじれば毒の回る速度も思うがままで、カエル以外にも変身させられる。要するに幼児化も可能で、体や知能、魔法の実力すらも変化させられるのだ。まさに応用力と自由度が計り知れない能力だった。


 2ana(ラーナ)曰く、この世でそれを無効化できるのは三人だけらしい。

 チートスキル『復讐者(リベンジャー)』を持つ僕と、不死身のouro6oros(ウロボロス)、そして9ueen(クイーン)とかいう僕はまだ知らないエラーコード。それほどまでに彼女の毒は強力かつ高度なものなのだ。


2ana(ラーナ)の言う通りだ。それはないね」

「さようでございますか……」

「君らが言うのは本当に邪神なの? そいつはどんな姿をしてるか聞いた?」

「琥珀色の綺麗な瞳を持つ幼い少女とのことです。長い銀髪を下ろしており、金のラインが入った白の装いを──」


 それを聞いた2ana(ラーナ)は得意気になった。


「少女の姿なら、まだ解毒できていませんね! さすが私の毒っ!」

「だったら、どうやって結界を解いたんだろうね? まさかouro6oros(ウロボロス)が裏切って解いたのか? あ……でもそれなら邪神の解毒もするか。何これ、どうなってんの?」

「そうですね。うーんうーん……」


 彼女はあざとく顎に指をあて、くねくね体をよじりながら考える素振りをした。たぶん何も考えていない。

 ところで、彼女はビキニの上にコートを羽織っているだけなので、動く度にその透き通った素肌が見え隠れするのでいやらしい。

 しばらくして彼女は笑みを浮かべ、僕の腕に大きな胸を押し付けてくる。


「クロー様ぁ~! 分かりませ~んッ!」

「はぁ……」

「うふふふ!」


 別になんだっていいか。なんらかの方法で結界を脱出したあいつらは、きっと本館に残ってるサイアから状況を聞き出したんだろう。それで、僕のやったことに怒って攻めてきた……ってとこかな。あー愉快愉快。


 なんにせよ、こっちに向かってきてるんなら捕まえて聞き出せばいい。邪神が復活していないなら楽勝だ。七原の『7(セヴン)』もディスカドラたちがいればどうとでもなる。


 さて、少し予定が早まったが作戦決行だ。僕に歯向かったこと、後悔させてやる──

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