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2-2



最上階の奥にあると聴いたが、七階に入った途端真っ暗になった。唯一の光は蝋燭の灯火しかない。


実際廊下に窓がないし、教室らしい部屋もない。あるのは長く感じる廊下。


…なんか出そうだな。と思ったら、いつの間に車椅子を押している龍と隣を歩いているスイは目が開いたまま止まっていた。


…そう来たか。


スイはちょっと警戒が足りていないだけだが、龍まで幻覚に惑わされるとは…


「ふふっ、油断しすぎたな」


暫く笑っても戻ってくる様子もないから、ふたりを置いていくことにした。


自分で歩いてもいいけど、後々で面倒くさくなるから、しょうがなく影の人形を召喚、竜の代わりに車椅子を押してもらった。


暗い廊下を少し進むと頭に黒い角の男性も同じ幻覚を見ている。黒い翼は出していないが、角見るだけで魔族だということがわかる。


魔族か。


竜族と同じ上位種族で、同じくほぼ寿命がないと言われる長寿の種族。


スプラウーには全種族の十五歳から二百歳までの者しか入学できない。


滅多に魔界から出ない魔族、しかも五百歳でも子供と思われているのに、よくこんな若い年齢で中間界に来たな。


暫く待っていたが、全く起きる様子がないから、さらに奥に進むことにした。


それにしても廊下が意外と長いな。


進んで約十分ぐらい、頭に灰色の獣耳の女性が呆然と立っている姿が見えた。龍たちと同じく幻覚を見せられている。


後ろの尻尾と耳から判断すると恐らく犬か狼の半獣人かな。


後でお願いしたら、耳か尻尾を触らせてもらえるかな。


ふふ…きっと断られるだろ。耳は良しとしても、尻尾は獣人にとっては番でけに許される部位だもの。


今のうちに触ってもいいかなとバカげな考えをしながら更に奥に進んだ。


今度はちょっと進んだら、鮮血のような赤い髪の毛の女性が床に座り込んでいる。勿論、彼女の意識もここにはない。


外見は人間とほぼ同じだが、恐らく吸血鬼かな。


…おや、純血な吸血鬼。封鎖的な吸血族がよく彼女を放したな。


それに…彼女の服が露出度がかなり高いな。胸の半分を出して、スカートの長さは膝の上。今の座り方だとパンツが丸見えだな。


幸い暗い廊下だし、他の者も幻覚に惑わされている。収納空間から薄い毛布を掛けた。


彼女が他の者と比べてかなりしんどそうだ。鋭い牙が自分の唇を噛みしめている。


…彼女の幻覚を覗いだらかなり奮闘している。どうやら術者が各自にとって、一番思い出したくない記憶を見せている。


勝手に記憶を覗いてお詫びとして、彼女にとって幸せな記憶を見せてあげた。


それにしても、本当に悪趣味だな。


彼女は恐らく最後でしょ。人数を考えると廊下で会った者たちは恐らく同じSクラスの者でしょ。


考えた通り、さらに奥に進むと黒い扉に金色の紋章が光っているのが見えた。


影がぼくの代わりにドアを触ったら右手が燃やされたが、召喚された影の為手がすぐ元通りに戻った。


よく見たら扉にある紋章はバッジにあるのと同じだった。


バッジを持っていないと開けれないように設定されたのかな。


いちいち面倒だな。


手で扉を触ったら予想通り光が消えた。もう一度影にドアを開けさせたらすんなり開いた。


正直目の前にある光景が教室というイメージからはだいぶ離れている。


廊下と逆で一面のガラス窓、外から太陽の光が教室に降り注いている。そのガラス窓の近くにティータイム用の机と椅子のセットも置いている。その他にも食事用の長テーブルと三つの扉が見える。


教室の中央に大きなソファーが三つ並んでいる。その内の一つにふわふわの淡黄色の髪の持ち主が顔の上に開いた本を載せたまま横になっている。


長い白衣を着ているが、中のシャツがくしゃくしゃで、黒いズボンも皺だらけで。


あまりにもだらしないからうっかり見すぎたかもしれないな。


隙だらけに見えるが、実際ぼくが入った瞬間からずっと警戒している。


思わず溜息をついた。


影がぼくの代わりに彼の顔の上にある本を取った。


彼の額に群青の菱形の刻印を見た時些か驚いた。


竜族に竜眼、魔族に黒い角、そして天族は菱形。


滅多に見えない種族が一堂に会している。この中に一番面白いのはスイだけどな。


ふふふ…これからの学院生活に楽しみだな。


それより、この期に及んでも寝ているふりするのはさすがというべきでしょ。


「いつまで遊ぶつもり?」


瞼を開けた彼の目は海と同じ色。その瞳に露骨な怠惰な感情。


ぼくの顔を見た第一反応はため息。


「早くない?彼らのトラウマとか一つ一つ見てからでもいいじゃない?」


ポケットの中のタバコを取り出し、何も聞かずに吸い始めた。煙を入り口に向けて吐いたら、廊下から声が聞こえた。


一番早く教室に入ったのは龍。


いつもの定位置はぼくの後ろなのに、彼が珍しくぼくの前にしゃがんでいる。


ぼくを見ている黒い竜眼が混濁していて、まるで初めて会った時のような、迷子の目だった。


全く体だけ成長しているだけだな。


どうせ竜族の皮が分厚いし、遠慮なく彼の頬を思い切り抓った。焦点が定まらない目がようやっと普段に戻った。


「おはよう。良い夢だった?」


そうではないとあんな程度の幻覚を破れないわけない。油断とはいえ、気付いた瞬間に戻れるはず。


最悪と呟きぼくの後ろに移動しながら、召喚した影を勝手に解除した。


「ふふふ…」


龍が入ってから、先廊下で見た者たちが次々と教室に入ってきた。みんなの顔色があまりよろしくなかった。それもしょうがないことだと思うな。朝から嫌なものを見せられたらこうなるな。最後に到着したスイが入ってから、ずっとタバコを吸い続けている彼が相変わらず立ち上がる様子がない。


「ほら、ぼさっとしないでさっさと座ってくれ」


タバコを吸い終わったら、彼が再び横になった。


入口に立っている彼たちの中に、スイが最初に彼の言葉に応じた。


「満様、隣でもよろしいですか」


先と同じ穏やかな笑顔を見せてくれた。流石怒るのではないかと思ったが、思った以上謙虚で我慢強いな。


「どうぞ」


ありがとうございますと言いながら、ぼくの左のソファーに座った。


赤い髪の女性は何故か不機嫌そうでスイを一瞥した。彼女の目線にスイが微笑みながら会釈したが、そのままスイを無視した。


「いい?」


白い手がぼくの右にあるソファーを指している。


「どうぞ」


彼女の次には魔族は興味津々でぼくたちを見ながらスイの隣に座った。


隣に失礼。獣人は小声で吸血鬼に声をかけた。


悪夢を見たからか顔色が真っ青だった。あまりしゃべりたくなさそうに見えたのに、礼儀正しい者だな。


意外と文句言わずに彼の言うことに従ったな。それもそうだな。実際油断したから、文句を言える立場ではない。なにより目の前にだらしなく大きなあくびをしている彼が己より上の立場にいることがわかったからでしょ。なぜならというと、この学院には強者が絶対だから。


そうでないとSクラスの担任には相応しくないだろ。


ただ、全員が座っても彼は全く動く様子がない。どうやら実力以前の問題だな。


このままだと進まないな…と考えている時、龍から紅茶を入れたティーカップを渡された。


「おや、いつの間に。スイにも入れてあげて」


ぼくの言葉ですぐソファーから飛び上がった。


「ああああっあ、そんな!いけません。自分で入れます!よろしければ、皆様もいかがですか」


「アタシも飲みたいから手伝うわ」


耳と尻尾と同じ灰色の髪をツインテールしている獣人も立ち上がった。


先まで顔色が悪かった彼女がすっかり戻った。


さすが獣人だな。


獣人は魔法との相性がかなり低い為、獣人は基本的に魔法が使えない。その代わりに、獣人の身体能力がかなり高いし、魔法への耐性と感知もかなり強い。


魔法が使えないのに、魔法を感知できるのは面白いな。


「助かります。他の方はどうですか」


「俺も飲みたいっス」


素直に手を挙げたのは魔族。ネイビー色の短髪で、両耳に二ずつのピアスがついている。


動きもそうだが、バラ色の目に好奇心があふれている。


なんだか落ち着かない者だな。


ワタクシはいいと吸血鬼の彼女が言った。


スイと獣人の子が龍が指した方向に向かった。


それより、獣人と逆に彼女の顔色がますます悪くなってきた。


ふん…ああ、そうか。これはなかなか興味深いな。


指を鳴らしたら、教室にある一面のガラス窓のカーテンが一気に閉められたから、教室が真っ暗になった瞬間魔族の彼がすぐ光の魔法で教室を照らした。


落ち着かない割に気が利くな。


「ありがとう。今日は暑いな」


「そっすね。俺もまだアオゾラになれてないっすネ。魔界が赤空だから~」


「見てみたいな」


「今度魔界(うち)来ません?ガイドするゼ」


「いいかもしれないな」


後ろからどこぞの竜族がぼくの名前を呼んだ気がしたが、きっとぼくもみんなと同じ幻覚を見せられたのかな。


…ありがとうとぼくの袖を引っ張ると吸血鬼の頬が薄いピンクに染められた。


派手な外見と違って、なかなか可愛らしい者だな。


「何の話?アンタも暑いの?」


「…ん…暑い…」


ぼくの反応に戸惑いながら頷いた。


誰かと接するのが慣れていないことにも庇護欲が唆られる。


「ちょうどよかったな。冷たいお茶でも飲む?今なら間に合いそう」


「うん…」


弟の面影を重ねて、思わず彼女の頭を撫でた。


急に触ったりして、女性に失礼だなと思ったが、幸い彼女が嫌ではなさそう。


ちょうどスイと獣人が紅茶とお菓子を一緒に持ってきた。


スイが紅茶を入れて、獣人が皆にカップを配っている。その後ろに立っている龍、寝たふりをしているセンセイと吸血鬼の彼女の分もちゃんと用意した。


さすが獣人の耳だな。


「センセイ、お茶会しながら、点呼でもしたら?」


スイがいくつかのお菓子を置いた小皿を持ってきてくれた。


「げっ、本当に教師なの?」


獣人の顔に信じられないとはっきり書いていた。


この素直の部分がいいな。


口の周りにお菓子のカスがついてるのも可愛らしいな。


ずっと横になっているセンセイが観念したか目を開けた。横になったままでお菓子を食べながら、みんなの顔を一周してから大きなため息が聞こえた。


「お前らは訳アリ過ぎで、こっちの身にもなってくれ」


小声でぶつぶつ言っているのを聞かないことにしようか。


だが、彼の気持ちがわからなくもない。


ハイエルフなのに混ざっている。


吸血鬼なのに太陽を浴びても平気。


二百歳未満で自力で中間界へ来た魔族。


魔法で目の色を変えた獣人。


それぞれの顔を見ると、これからの学院生活がきっと面白くなるな。


「お前さ、わかって笑ってるのか。お前も含まれてんの」


どうやらぼくの笑い声が漏れてしまったようだ。


白い目で見られるのは新鮮だな。


「あーー!もう、時間の無駄だわ。この者鼻からやる気がないから教師らしく求めても意味ないわ」


我慢しきれなく叫んだ獣人がセンセイを睨んでも、彼は全然気にせずお菓子を食べている。


「確かにネ。そうだったら、自己紹介しショ。名前が知りたい…デス」


魔族ものりのりで賛成した。


「良い提案ですね。でもどなたからにします?」


優雅に紅茶を飲んでいたスイも獣人の提案に乗った。


吸血鬼が無言で頷いた。


「アタシが提案したから、トップバッターはアタシにするわ。このメンツだとアタシだもんな…」


何故か自分の言葉にため息をついた。自分の顔を軽く叩いて気持ちを切り替えたら、太陽のような笑顔でみんなに向かった。


「アタシは鈴音(すずね)観音(かんのん)。国にいる時は自分が強いと思ったけど、全然違ったっぽいね。四年もあるから、すぐ貴方達を超えるから、首を洗って待ってってちょうだい」


本当に表情がコロコロと変わるな。突っ込んだりへこんだりしているのが忙しそう。


スズネのように感情をそのまま隠さないタイプなのは周りにあまりいないな。


どこの竜族の表情筋がすでに死んでいるからな。とはいえ、彼の場合は表情で判断ではないから分かりやすい範囲になるかな。


それより、よく魔法の痕跡が残らずに綺麗に目の色を隠しているな。


「何?アタシの顔になんか付いてる?」


すぐにぼくの目線に気付いたスズネの尻尾が少々反応した。どうやら警戒しているようだな。


「ふふっ、綺麗な目だからつい」


「……それはどうも」


率直に褒めたのに、スズネがレモンを齧ったように顔が歪んでいる。


それでもちゃんと礼を言うのがかわいいな。


「もう次!」


仕切っているスズネが不機嫌そうに声を張った。


些かせっかちのようだな。


「よっし、次俺みたいデスネ。クレマン・ジハーウデス。今まで年齢近い者がいなかったから何だが新鮮。仲良くやりまショー」


ん…魔族の顔立ちとハイエルフと綺麗さはジャンルが少し違うようだな。


無邪気な笑顔なのに、何故か者を惑わす雰囲気を出すのが恐ろしい。実際クレマンの笑顔を見たスズネはまたレモンの顔になった。


「どうした?」


スズネの反応に疑問を感じたクレマンが問いかけた。


「ナンデモナイワ」


へ~気になるネと心にもないことを言ってるクレマンを全無視したスズネが次へと進行させた。


先から静かに紅茶を飲んでい吸血鬼が周りのメンバーを見て軽く会釈した。


真姫(まき)七々扇(ななおうぎ)…これからよろしく」


長い髪の毛をいじりながら名乗った。


スズネがその手をずっと見ている。


「どう…した?」


「貴女…いいね!手が白くて、爪の形も綺麗だね。ほら、アタシの爪が黒だから、ネイルがやりたくてもあまり合わないから、後で良ければネイル塗っていい?」


興奮のあまりにマキの意見を聞かずにマキの手を掴んだ。


確かにスズネが言った通り綺麗な手だな。


「ネ…イル?」


「え?ネイル知らない?後で教えてあげるわ。貴女なら赤いのがとても似合いそうだわ」


「いや…わたし…」


傍から見るとマキが困っているが、スズネが夢中で喋っているから全然気づいてなかったようだな。


「アノ~鈴音サンー自己紹介してない者がいるケド」


クレマンの言葉にはっと夢の世界から覚めたようで、ぼくたちの顔を見て小麦色の顔がピンクになってしまった。


「こほっ、真姫ちゃんも終わったから、次に行こう」


開き直ったスズネがそのままマキの手を掴んで離さない。


そして、先からスズネからの行動と呼び方に戸惑っているマキが消化できなく完全にフリーズ状態になった。


「女性たちが仲が良いのはいいことですね。私は(すい)緑川(みどりがわ)です。未熟者ですが、どうぞよろしくお願いいたします」


春風のような微笑みで彼女たちを見守っているスイを含めて平和だな。


この学院ならもっと血まみれでお互いを疑う生活になるかと想像していたが、どうやらぼくが考えすぎたかもしれない。


どちらかというとこのように平和の方がいいな。


「最後は貴方だ、自己紹介する前に、一つ訊いていい?」


未だにフリーズしているマキの手を離さないスズネが真剣な顔でぼくを見つめた。


「どうぞ」


「貴方って…(オス)(メス)?」


「おや?」


「ん~女じゃないデスか」


「え?てっきり満様は男性だと思っていました…」


「貴方達に聞いてないわ!どっち!?」


クレマンが好奇心が強いのは薄々感じたが、まさかスイも気になっているとは些か意外かもしれないな。


ぼくの性別の話を聴いたマキもようやっとフリーズから目醒めたようだな。何も喋っていないが、大きな目に答えへの期待が溢れている。


「ふふ…ぼくは満。後ろのは龍。ぼくの性別は…アンタたちが好きのように考えていいよ」


「え?なにそれ?はっきりしてよ」


スズネはすごく不満そうに叫んだ。


まだ朝なのに、吠えるのが些か早いのではないかと。


不満そうなのはスズネだけじゃなく、マキとスイもがっかりの顔している。クレマンはつまらなさそうな目線に向けている。


困ったな。まさか性別くらいでこんな騒ぐと思わなかったわ。



こんにちは、水おうです。

本当は水曜日更新しようとしましたが、ゲームに夢中すぎてつい日付を忘れてしまいました(汗

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