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2-1



結局、昨日は椅子に座ったまま寝てたらしい。


目を開けた時、見慣れてない天井を見て、かなりの時間が経ってからスプラウーにいることを思い出した。


横になっている間に、ノックもせずに龍が入ってきた。手に持っている朝ごはんをサイドテーブルにおいた。


お互いの気配を感じれるから別に驚いたりしないが、礼儀としてはどうかなと思うな。


「寝る時はちゃんとベッドで」


「…まずおはようでも言ったら?」


朝一で説教するのはどうかな。


確かにぼくが思ったよりチョーカーに慣れていないかもしれない。


旅路の疲れと些か遊びすぎたからかな。


本当に面倒くさい体だな。


「…やっぱり調整したほうがいい」


そう言いながら、チョーカーに触り始めた。


ぼくの魔道具は外せないから…厳密に言うと外してはいけないのが正しいな。


だから、つけたままで調整しかできない。


「今日よく喋るな。変なキノコでも食べた?」


調整なんて必要ないのに、後一週間くらいあれば体が勝手に慣れてくるから。


勿論、龍も知っている。だから調整って言ってもただのメンテナンス。


チョーカーの次は指輪。


メンテナンスと朝食が終わった時、ちょうど七時半になった。


あの悪趣味な規則の中に、スプラウーの簡単なキャンパスが載っている。


とりあえず壱番館に行けばなんとかできるはず。


この距離だったらどこかの竜族も体に悪いとか口に出さないはず。


「ちょっと早いけど行こうか」


龍が何も言わずにぼくを車椅子に座らせた。


だから普通に歩けるのに、なんで車椅子を使わないといけないのか全く理解できない。


ため息をつくな。


ぼくの目線を無視して、壱番館への転移魔法を使った。


いつになったらぼくの話を聴くだろ?







壱番番館のメイン道路にある二列の桜が春風に吹かれ、道が花びらでピンク色に染められた。


観たことがない景色なのに、何故か心から懐かしい気持ちが湧いてきた。


あの時もぼくと他のふたりがいるはずだが、顔が全く思い出せない。



満。



記憶と現実の声が重なっていた。


「…」


龍の表情は変わっていないが、恐らく今すぐスプラウー(ここ)から連れ出そうと思っているだろ。


「皆、あそこに集まっているな」


指を指したところは掲示板の位置。


恐らく教室の場所を表示しているからでしょ。


これじゃ見れないな…


遠いところから、茶色の長い髪を束ねている男性が群衆の中から出てきた。


長い耳の特徴を見る限りハイエルフかな。


…ほう?


「実は隠し子でもいるのでは?」


少なくとも千年以上生きてきた龍なら、子供がいてもおかしくないな。


想像するとクスクス笑ってしまった。


どうせ無表情だから、振り向かなくても龍の反応がわかるな。


「ふふふ、怒らないで。冗談だよ」


「…」


「おはようございます」


ぼくたちの前に立っているのは、『ハイエルフ』の彼が爽やかな笑顔でぼくたちに挨拶した。


ちょうど目線があったとはいえ、まさか声をかけられると思わなかったな。


「おはよう」


「貴方様もSクラスでしょうか」


「も?」


「ええ、私もSクラスです」


襟にある黄金のバッジを見せた。


ぼくのバッジは収納空間に置いたままなのを思い出した。


取り出す前に龍はもう勝手に取ってぼくの手に置いた。


白い箱にあるのは彼と同じ黄金のバッジ。


「よくわかったな」


ぼくがSクラスのこと。


「ええ…実は、入学式でずっと君と話したかったですが、タイミングが合わなくてできなかったので、今こうして君と話せるのはきっと母樹の導きでしょう」


ハイエルフの母樹か。


確かにハイエルフは木から生まれた種族。ハイエルフを生み出した木は母樹と呼ばれている。その母樹が海や空やいたるところに点在している。ハイエルフとはいえ、色々なハイエルフが存在している。母樹によって生み出されたハイエルフの外見と能力は全く異なるらしい。


例えば、目の前にいる彼なら翡翠の瞳と体の周りに纏う土の匂いから判断すると翡翠のハイエルフかな。彼らの母樹は一見普通の大樹に見えるが、木も枝も葉も全部翡翠。


だが、彼は純粋なハイエルフではないな。


面白いな。


「ふふっ、良かったな」


(すい)緑川(みどりがわ)です」


爽やかな笑顔でぼくに手を出した。


…何故かみんながハイエルフの顔立ちが綺麗だと噂する理由が今でわかった気がした。


「ぼくは満、彼は龍」


龍を見た瞬間スイが明らかに固まったが、すぐ爽やかな笑顔に戻った。


今の反応は何だろな?


竜族が珍しいから…だけではないな。


「そ、そういえば先ほど掲示板で教室の場所を知りましたので、一緒に行きませんか」


あからさまに話題を変えたな。


ま、教室の場所がわからないのも事実だし。


「お言葉に甘える」


「喜んで。先ほども言いましたが、満様にお願いしたいことがあります」


無事に話題を変えたからかな、スイがとても喜んでいるように見えた。


「おや、道案内の代わりに代償を請求されると思わなかったな」


「そんな、そのつもり…」


綺麗な顔がすぐ真っ赤になった。


本当に純粋だな。


「冗談だよ」


意地悪い事を言われてもスイは怒るところか、逆にぼくが怒ってないことに安堵した。


どこの無愛想な竜族がスイのことを見習ってほしい。


…いや、やはりいい。爽やかな笑顔をしている龍を想像するだけで鳥肌が止まらない。


ぼくの鳥肌をすぐ気づいた龍が収納空間から薄めの上着をぼくに羽織らせた。


風に当たって倒れたことないのに、何故そこまで心配するのか理解できない。


「過保護にも程がある」


「…」


ぼくの小言を聞かないふりするのが誰よりも上手のようだな。


「仲がいいですね」


「そういう風に見えるか」


「ええ、とっても」


スイは穏やかに微笑んでいる。


ハイエルフの皆がそうなのか、それともスイだけなのかわからないが、仕草一つ一つ優雅で穏やか。からかわれた時の反応はおっちょこちょいで面白い。


「ぼくにお願いしたいことは?」


スイの笑顔で願い一つを聞いてもいいかもしれないな。


「よろしければ、あの…手合わせしてくれませんか」


「おや、初日でCランクに落ちる気か?」


ぼくは構わないが。折角綺麗な者と同じクラスになったのに、すぐいなくなるのは些か残念だな。


「いいえ、決闘ではありません。私はそこまで愚かではありません。ただ、父からの教えは強者と手合わせすればするほど強くなれると」


あくまでも手合わせくらいで駄目でしょうかと恥ずかしそうにぼくに申出た。


強くなりたいと思いずつ、Sランクから落ちたくないという貪欲さは嫌いではない。むしろ面白いと思う。ただ…お家はどんな教育している?戦闘狂育成法?


ふふっ、弱い?あまりに可笑しい話に失笑してしまった。


「あの…満様?」


「スイは弱くないよ」


「お世辞はよろしいです。私は強くなりたい」


翡翠色の目から伝わる真剣さは随分伝わったが、ぼくから見ればスイは決して弱くない。


一体誰と比べて弱いというのでしょ。


ま、彼がそう思わない限り、ぼくが何を言ってもきっと響かないでしょ。


「…わかった。夜七時頃湖の周辺で待ち合わせしよか」


満。普段より低い声でぼくの名前を呼んでいる声はきっとぼくの幻聴だな。


龍の反応が気になりずつ、スイはお願いしますとぼくに言った。


「他に頼める者がいるはずでは?」


「何をおっしゃっています?他に誰かいます?常に力を押さえながら吸い取られても普通に動けるのは誰にもできるものではありませ。まして満様のように三つ同時に身に着けているのは尚更いませんよ」

おやおや、これは面白いな。


見破ったのは簡単だけど、効果までわかるは珍しい。


「それに満様がつけている魔道具材料は全部…」


「小僧」


ほお…この一年間で一番面白い事だな。


あのぼく以外と喋らない龍が自ら他者と話す自体がレアなのに、他者(スイ)の言葉を遮断するのはこれで初めてかもしれないな。まさしくレア中のレアだ。


ぼくが感心している時、龍はスイに威嚇を向けた。上位種族の竜族生まれつきの圧を押さえないと弱い種族にとっては毒より致命的な攻撃。


実際押さえていても敏感な動物には絶対近づかない。だから龍は魔道具で馬まで作った。


それより、こんな貴重のシーンを見れるとはな。


スイに感謝しないと。


その前に、あの大人げない竜族の威嚇を止めないとスイが命を落としてしまうな。


はぁ…威嚇までするなんて餓鬼ではないか。


でも、スイは龍の威嚇を浴びせられていても気絶せず立っていられる。


これを見る限りにはスイは決して弱くないが、彼自身が納得いかないでしょう。


そろそろ限界かな。


「やめなさい。自分より年下の仔に何してる?」


言葉が終わったと同時に威嚇が収束した。


龍は決して短気な性格ではないが、よほどぼくに知られたくなかったのでしょ。


…ああ、そっか。手合わせのお願いもあるからか。


実は短気なのかな?


「いいえ、元は私が失礼な事をしました。それに、龍様が威嚇を一番最小限に押さえてくださったので、そうでないと私なんてとっくに気絶していました」


唇まで真っ青になっても、必死に龍の代わりに弁解している。


思わずため息をつく。


「ぼくに知られたくないなら、誰にも見破れないくらいやりなさい」


龍はいつも通りぼくの話を無視しスイを回復した。


ありがとうございますと龍に礼を言ったスイはかなり緊張している。


その翡翠色の目は恐怖ではなく、あり溢れている尊敬だった。


「やっぱり隠し子?」


そうではないと話が合わないな。死にかけだというのに、その相手に敬愛の目指しをする者はイカれてるか、もしくは他に理由があるとか。


「そんな事ございません!」


龍の回復魔法が効いたからかな、スイが大声で反論した。自分の失態を気づいたスイはすぐ真っ赤の顔で謝った。


「元気そうで良かったな」


ようやっとからかわれた事に気づいたスイは耳まで赤くなってきた。


本当に面白いな。


こんばんは、水おうです。

本当は昨日更新しようとしましたが、ゲームに夢中すぎて忘れました(汗

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