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ぼくは生まれてからずっと体が弱い。弱いというのも些か違うかもしれないな。簡単に説明するとぼくの力があまりにも強すぎて体が耐えられない。力が強くなるたび、体がどんどん弱くなっていく。だから普段から車椅子を使っている。
正直いらないと思っているけど、過保護の家族と隣に本を読んでいる龍がうるさくて折れただけ。
本当に面倒くさいな。
今だって、龍が思えば転送魔法を使えばすぐにもスプラウーに行けるのに、態々面倒な馬車で行くのも長距離の転送魔法が体に負担かかるから。
本当に心配性だな…
ま、のんびり行くのも正直悪くはないから。
ちなみにこの馬車は龍が造った魔道具の一つ。種族のピラミッドに上位の竜族だから、抑えても生まれつきの圧が抑えきれない。簡単に言うと、動物と無縁の種族。だから、普通の馬だったら龍に近づくと気絶してしまう。
それでも馬がほしい龍が造った。
なかなかかわいいところだな。
「ごめんくださ~い」
元気そうな声が馬車の外からだ。
「オレもう走るのは嫌だから、ちょっと載せてってもらえる?」
面白いから、龍にドアを開けてもらった。
どこか面白いというと、この馬車はずっと高速で走っているのに、まるで止まっている馬車に声をかけるように聞こえるから、おそらくずっと馬車のドアに捕まっている。
確かに目的地のスプラウーの周りにはなにもないから、この方向に行くならきっと未来の同級生か先輩しかいないけど。
でもスプラウーはそんなお互いを助け合おう穏やかな学院じゃないはずだな。
「ああ~ありがとう~めっちゃ助かったわ!スプラウー学院が遠いの聞いたけど、まさか一週間走っても全然見えたりしないのが想像外だね。死ぬところで馬車を見て本当に運がいいねオレ」
馬車に入ってきたのは茶色のちょっと天パで、近所の子供みたいで明るい男性。
一週間ずっと走っているに見えないくらい元気だな。しかもぺらぺらと喋っている。
体に染みるくらい血の匂いがなければきっとちょっと変な明るい人にしか思わないだろ。
「オレ、今年一年生のすの、おっと、ここでは名前が先だもんなぁ~ええと、命・須野。今後よろしくっす」
「ぼくは満。同じ今年の一年生だ。隣のは龍。ぼくの従者として一緒に来てくれた」
スプラウーに入学試験で合格した者は従者一名の同行を認めされる。従者は主と全く同じ待遇だが、主の代わりに試験の参加と決闘の権利はないと入学前に届いた書類に書いてた。
「へーー?そういえば、みっちは男?女?声がちょっと男っぽいけど、男としてはちょっと高いね。ボクっ娘って言うの?」
どうやらぼくのことをみっちって呼んでいるらしい。
ますます面白い者だな。一週間ずっと走っていたからか、顔が真っ黒になっている。服だって汚くなった。
「ふふふっいきなりだな。性別はアキラが好きの方で考えていいよ。」
「そっか。みっちはこの世界…ん?チュウカンカイ?から生まれた子?」
「中間界で育てられたな。どこの世界から来た?」
「え?バレたの?オレニンゲンカイ?から来たらしい。任務の途中で死んでしまって、起きたら神らしい存在が暇つぶしとしてこっちの世界で生きて頂戴って言われてっさ。ってこっちに来た場所がまさかの入学試験。どうしたらいいか全っ然わからなくてとりあえず生きてきた。やっぱオレの運がいいよね。そう思わない?」
バレたって言っても隠す気がサラサラないのに、にしても話が長いな。
ずっと汚いままの顔がどうしても気に食わないと思って、ハンカチでアキラの顔を拭いたらアキラが一瞬戸惑った。
満。
さっきからずっとアキラを無視している龍が隣から不満そうな声で呼んだ。
龍の意見は意見じゃないとぼくの主張だから、無視。
「運も実力のうちだからな。にしては珍しいな。人間界は基本他の世界とつながってないのにね。きっと神の気まぐれでしょ。神らしい存在から今から行くスプラウー学院のこと何か説明されたか?」
「ちょっとだけ…です?」
なんで疑問?それに今更の敬語なんだ?
「ふふふっ、教えてあげるか?」
「え?オレ何もねぞ?」
「いいよ、龍何も喋ってくれないからつまらないんだ。しばらくぼくの話相手してくれるだけでいいよ」
「おお!お安い御用」
といいずつアキラがちょこちょこ龍のことを観察している。
本当に面白い者だな。
この世界に竜族は少ないし、人間界で育てられたなら尚更珍しいと思うでしょ。
「どこまで知ってる?」
暇つぶしといえ、知ってる内容をもう一回説明する気はないな。
「え?あ…んん?おっ、確かに四年制度で学院の中でやられても自己責任で、四年まで無事生きて卒業できるもんはお金もらえるらしい?それにどこの国にいてもいい仕事もらえる?」
「もう知ってるのでは?時間つぶしにもならななかった」
「いやいやいや!?どこが?」
ん?アキラは確かに頭弱そうに見えるが、どこか期待していたのにまさかそのままバカだな。
「やめてくれよ。憐れなもんを見てる目で見るなよ」
何故かアキラは泣き始めた。
いや、事実だからしょうがない。
「逆に何かわからないの?」
「え?」
「もう自分の口で全部のこと言ったのでは?」
「オレオタクじゃないからようわかねけど、普通ならもっとああしてこうしての設定とかあるじゃねの?」
オタクとかよくわからない言葉だな。
「元気だな。強い方が上で、不満なら上位に逆らえばいい。わかりやすいのでは?ぼくは好きだよ」
簡単で分かりやすいのが一番と思う。
「ええ?じゃーなんでみっちはそれをつけてんの?」
それって僕の両手にある二つの指輪と首にあるチョーカーを言っていると思う。
おや?意外と目がいいね。
灰色の目を通して中身を覗いてみた。おやおや、こんなに大量の恩恵を持っているのは龍以外会ったことないな。
魔力感知、瀕死回避、体力増加、幻覚魔法抵抗、精神魔法無効など、ん?召喚術も出来るんだ…おや?一つの能力だけ黒ペンに塗りつぶしてしまった。
ふふふっ、まさかぼくが確認できないのがあると思ったら、アキラへの興味がますます増えてきた。
それに、恩恵以外能力も多くて、大体暗殺系。人間界は平和って聞いたけど、向こうも向こうで大変そうだな。
能力感知があるから気付いたな。あっても気づかない者が多いと思うから、さすが神からのギフトだな。
「あの…オレなんかマズイこと言った?」
ずっと見られているからかな、ちょっと落ち着かなかったみたい。
「ふふっ、何も。ありがとう、心配してくれたね。でもぼくは大丈夫、これが無いと逆に動けないから」
「え?ええ?え?だってあれつけたままだと…?」
明らかにパニックっている。
表情の変化が多くて、ある意味こっちのほうが暇つぶしになるな。
「満」
「ああ」
ずっと閉まっているカーテンをちょっと上げて覗いてみた。
いつの間に周りが真っ白な霧になった。方向がわからなくて馬車もそのまま止めた。
「誰か召喚したよね?」
霧の奥から大量の魔獣が現れて馬車の外から僕らを囲んでいる。
つい先までパニックっていたアキラがいつの間に冷静に戻った。
「実力重視の学院だから、無事に到着できるかどうかも試練の一つかもしれないな」
にしても中途半端な術だな。
アキラが周りを観察し、おもちゃを見つけたように笑った。
「んじゃ、オレがやるぜ。みっちが載せてくれたから、今度オレが何かやんないとわりに合わねえな」
大量の魔獣に囲まれている状態にもかかわらず、アキラは躊躇なく馬車から降りた。
懐から出した短剣が逆手持ちで余計な動作がなく、確実に魔獣の目を狙って攻撃している。アキラなら一撃で魔獣を殺せるのに、あえてそうしないで、魔獣たちの怒りと悲鳴に喜んでいる。
実際魔獣がアキラの攻撃を受けた後、痛みによって激怒した魔獣たちの攻撃がますます激しくなってきた。それを感じたアキラもどんどんよろこんでいる。まるで無邪気な子犬たちと遊でるだけ。実際、五分間ずっと魔獣たちと遊んでいるけど、数が全然減っていない。アキラは攻撃するけど、別に命を奪っていないから。何より術士を見つけない限り魔獣が消えない。
それを知っているから馬車から降りた時、使い魔を召喚し、自分が魔獣とやり合っている。折角の遊び時間だから、あまりに邪魔したくはないけど、同じことを繰り返しているだけで、見る方が飽きてしまった。
「アキラ、そろそろだ」
喜んでるのは別に悪いことではないが、いささか遊びすぎると思う。
「えー!う…わぁったよ」
いやいやながら自分の使い魔を呼び戻した。もちろん使い魔が術士を連れて戻った。
術士が完全に気絶してしまったから魔獣と霧も綺麗に消えた。
そのまま術士を殺すと思ったが、アキラはただ術士を気に縛ってから馬車に戻った。
「アレそのまま放置する気?」
「ん?あ、オレはね、依頼が無いと人を殺さねえよ?でも攻撃されたから何か仕返ししないとなんかもやもやすんじゃん?だからちょっとだけ痛めつけちゃった。それにしても弱いね。量だけで勝負しようなんてあまりセンスねえよな」
「ふふっ、ぼくもそう思う」
せっかく拭いた顔がまた汚れてしまったから、先使ったハンカチをアキラに渡した。
ありがとうと言いながら自分の顔と手を拭いた。
全部拭いたから白いハンカチが綺麗な赤色に染まった。
「うう…ごめん、新しいのを買うから、その時返してもいい?」
アキラの頭の上に存在しないはずの犬耳が垂れている。
最初は近所の子供と思っただが、違ったみたい。
猟犬の子犬だな。兇猛な牙を持ちながら純真な心を持ってる部分が子犬だな。
「ふふっ、いいよ。別に気にしてない」
「………」
何も言わずにずっとぼくの顔を見ているアキラが心の中で何か悩んでいる。
殺し屋なのに、感情も考えも全部顔に出してもいいの?
よくここまで生きてきたな。それとも人間界だからなのか?確かに人間界は魔法とか使える者が少ないって噂を聴いたことがある。
「わからねぇよ」
忙しいね。悩んだりはしゃいだり。
「みっちの性別はナニ?全然わからね…」
シクシクとわざとらしく泣いている。
そっか。ぼくの性別に悩んでいたか。
「ふふ、好きにしていいよ」
「これ結構重要じゃん?最初ね、骨格が女の子寄りと思ったけど、服とチョーカーのせいであまり判断できねぇな。それに遮断魔法を使う可能性もあるじゃん。ま、それにこっちは色々種族いるって聞いたから、元の世界にある骨格はこっちにも通用するかわぁんねな。骨格だけで判断するのもアレだな~でもみっちは人間って知ってるぜ。顔だって可愛い男の子に見えるし、かっこいい女の子にも見えるし…だかね、おっぱいで判断しようと思ったけど、貧乳の可能性もねぇわけねーし…ああああーーーどうしよう?」
悩みすぎて髪をぐちゃぐちゃ掻いて、元々天パだからあまり影響がないけど。
それにさりげなく女性に失礼な事言ったな。
「そんなに悩む事か?」
「え?」
「今日は男と思えばぼくは男。明日は女と思えば女でいいのでは?」
ちょっと修正しました。