その一
やっと悪夢から逃げ出したと思ったのに、入学の初日に担任の魔法で過去の記憶に囚われた。廊下に入った瞬間で気付いた。魔法にかからないように努力したが、やはり無理でした。
つい最近逃げ出した地獄。
醜い現実。
ゲスの男の息と汗たく体。
「はあ、はあ…ああ気持ちいい!」
肉体と肉体が擦れ合う音。
下品な女たちの嘲笑い目と笑い。
「可愛いらしい顔がこんなに汚れて本当汚いわ。よくこんなので楽しめるわ…貴方はただの穴よ。本気に愛されると思わないで!わかったか?ああ~臭い臭い~」
嫉妬まみれの言葉。
もう耐える必要なのに、無意識と己の心を殺し無意識に耐えようとしている。
画面がまた一転。
真っ暗の空間に、足元からロウソクが一つずつ光った。その真中に親の死体がある。
ミーラのよう体に血も水分も一滴もなかった。そして、大量の従者たちの首が親の周りに飾っている。
明らかに異常の光景なのに、自分以外の存在が大きな歓声と拍手の声。耳を塞いても親族の阿鼻叫喚が聞こえる。目を閉じても、親族が睨んでいる目線を感じれる。
「お前なんか産まなければ良かった」
「あなたが普通の子でよかったのに」
「全部貴方様のせいです」
「存在すべきではありません」
先程の情景は単なる体へのダメージなら、今目の前の景色こそ真姫にとっての絶望。
心を殺せない。殺してはいけない。決して目を背けない。
自分のことを愛してくれた親と従者たちだけはみんな自分のために死んだから。
乾いたかと思った涙が抑えられなかった。
なんで死んだのはわたしじゃない?
この力を求めていないのに、なんで?
お父さん、お母さんと一緒に笑って生きていきたいだけなのに。
いっそこのまま自分の息を止めればいいと思った…
突然目の前暗かった空間から一気に明るくなった。
それは幼い時、囚われる前に、みんなが嬉しく生きている時のみんなの姿。
「真姫」
あまり笑わないけどいつも優しく頭を撫ででくれた父親。
「私達大事な真姫」
満面の笑顔で真姫に好きをくれた母親。
「お嬢様、今日も可愛いですね」
不真面目そうに見えるけど、親に一番忠誠を捧げて自分にも尽くしてくれた良。
「こら!お嬢様、お勉強の時間だよ!隠れないで早く出てきて頂戴」
この後自分を見つけた家庭教師の知紗が自分の鼻を軽く摘んだ笑顔が素敵だった。
「よっ!お嬢、未来の旦那はこのオレより強くないとだめだぞ!」
護衛の衛はいつも肩に乗せてくれた。高い景色が見えていつも楽しかった。
みんな笑っている。真姫にとってこの時間は一番かけがえのない記憶。
誰かナイトメアの性質を変えてもらったとすぐ悟った。その者に感謝を言いたいが、すぐこの夢から覚めたくない。もうちょっと大事な者たちに囲まれたい。
短かったとはいえ、久しぶり安らぎを得た気がした。
魔法が解けて、目が覚めたら膝にかけれれた毛布を気づいた。
真姫が戸惑った。見ず知らずの者の好意を受けていいものか。どうして助けてもらったのも理解ができなかった。もしかして自分の血とか力を利用したい輩がまた近くにいるのかと不安と苛立ちを感じてしまった。
あの地獄はもう戻りたくない。
そう思っていたが、教室に入ったらこの空間で一番歪な存在が目に見えた。
外見からすると、ただの人間の子供。しかも華奢で風に吹かれたら倒れそうな儚い存在。だけど、その儚い子供は優しい笑顔で竜族の頬を抓っている。
真姫も初めて本物の竜族を見たが、格の違いは見ればわかる。彼を少し近づくだけでも息苦しく感じるのに、あの子供は平然と彼の隣に居られる。
アンバランスのふたりをみるとマキがとても困惑している。その同時に、真姫を手助けた者はきっとこの子供ということは直感でわかった。
竜族のせいですぐ気づかなかったけど、子供から尋常じゃない魔力の量を感じた…
子どもの両手にある指輪と首元にある飾り物はなんかおかしく感じる。後で話を聞くとあれは力を吸い取ったり抑えているものらしい。
もっと知りたい、もっと近づきたいと思ったのに、緑の髪の毛の男に先に隣の席を取られてちょっと焦った。眼の前に優しそうに笑っている男は…なぜか彼を見ると嫌悪感が止まらない。できれば近づきたくない。それにあの子と親しみそうでよけに不満。
久しぶりの太陽だから眩しいと思ったら、あの子はすぐカーテンを降ろしてくれた。言い慣れていない礼を述べったら、あの子は自分のためだと笑顔で誤魔化した。
おかしい話かもしれないけど、その笑顔はなぜか亡き親の笑顔を重ねてしまった。
嬉しいと悲しいを織り交ぜた際に、頭から柔らかい手のひらの温度を感じた。すぐ理解できなかったが、幼い時に父親に撫でられたように優しい手つき。
驚いたけど、決して嫌な感じがしなかった。それにずっと焼かれているような喉が不思議と緩和された。
出会ってから短い時間だけど、あの子からすると自分はただの同級生にすぎないということを理解した真姫はとても安堵した。
獣人の鈴音の提案によって各自自己紹介することになった。
正直必要性を疑ったけど、あの子の名前を知れるなら別にいいと。
自分の番にただ自己紹介したのに、妙な目線を感じたから、隣にいる鈴音に声かけた。
鈴音はこの中に一番弱い。だからこそ無意識に警戒してしまう。
警戒されても鈴音は全く気にしない。むしろより近づいて、真姫の手を掴んで心のそこから褒めた。何十年ぶりにこんな純粋な笑顔に向けられて、真姫はその手を追い払いたいのになぜかできなかった。
ハイエルフの彼も自己紹介を終えて、やっと人間の子供になるかと真姫は妙に胸が高鳴る。
「貴方って…男?女?」
その前に鈴音が我慢できずに聞いた。
真姫からするとどちらでもいい。ゲスは男でも女でも、性別だけで変わるものではない。
だからあの子は性別がない方が良い。
「ふふ…ぼくの性別は…アンタたちが好きのように考えていいよ」
満の答えに対して鈴音はかなり不満だけど、真姫からするとどうでもいい。もちろん気にならないのはウソ。でも己の血が必要としない満なら性別がなくてもいい。
ただ嬉しい気持ちはそう長くなかった。先生の質問と同級生たちの答えを聞くと、自身の不甲斐なさを知らされた。
流されたままスプラウーに入学した真姫は先ほど満によって見えた安らぎの夢で、やっと自分がやるべきことを見つけた。
もうこれ以上我慢する必要ない。大事な存在はもう誰も居なくなった。だから、今まで大事な者たちが受けた被害と真姫がこれまで我慢した分全部奴らを返さなければ。だけど、今のままは無理。事前の準備をしなければ…
亡き親族の為にゲスやつらを全員殺す。願わくば種族ごと破滅すればいい。
心苦しいです。




