4-1
その日寮に帰ったらすぐ熱が出た。この二日間ずっと動いているから、幸い合間に睡眠を取ったから朝になったら熱が下がったから。ただ、午前中の授業は過保護龍のせいで止められた。でもこれからが問題なんだ。龍はあらゆる寮から出る方法を封じた。明らかに午後の授業も出させる気がない。やり方本当にどうかどう思うな。
「龍」
「駄目」
「まだ何も言ってない」
「…」
いつもの本を読んでいる。目線さえこっちに向けない。
確かに龍の意見を無視してもスイと手合わせした上倒れたから、龍が過敏になるのもしょうがないこと。
正直自力で寮から出れないわけではないが、無理やり出たら後々で面倒だから。龍も理解した上でこうしたのだな。ある意味お互いのことを理解するのも厄介なものだな。
「今日一日ならいいだろ」
「一週間」
「……そういえば今日アキラと約束したな。アンタはお留守番気分だな。ぼくはもうそろそろ出るわ」
やっと本からぼくに向けた。
怒っても無表情とはな。この空間はぼくだけで良かったな。そうではないと龍の威圧で倒れるかもしれないな。
「おや、一緒に授業出る気になった?」
一週間を言わなければ聞いてあげるつもりだ。だから結論でいうと龍が悪い。
「一日力を使うな」
「ふふ…それは他の者次第だな」
「…」
ああ、これは相手を殺そうと考えているな。愚かな者が現れないよう願おうか。
授業よりかなり早めに寮から出た。何せよ、これ以上寮にいると、また龍が何か知らない理由でぼくを強制的に休ませると面倒だから。
食堂でも行ってみようと考えていたが、今日の龍を考えると大勢の者がいるところをやめた方が良さそうだな。最終的にSクラスの教室に行くことにした。
教室に着いた時僕以外の全員が教室にいる。スイはバッジの中の時間割を確認している。マキとスズネがお茶を飲みながら会話している。実際スズネが一方的に話しているにも見える。クレマンがつまらなさそうで空を眺めている。
「おや、みんな揃ってるな」
声をかけた瞬間、マキはすぐ立ち上がって長い爪がぼくの方に襲ったが、龍に止められた。マキが攻撃の同時にクレマンが魔法の矢でぼくに攻撃したが、同じく龍が片手で追い払った。スイはおそらく誰より早くぼくたちのことを気づいたから動いていないが、武器まで出して臨戦態勢になった。それに対してスズネが驚いたままでぼくを見ている。
「ふふふ、昨日会ったばっかりでもう忘れられた?」
「はぁあ!?馬鹿な事いうじゃないわよ!息だけではない匂いまで隠す相手が急に現れると誰でも驚くでしょう!それに昨日じゃなく、もう二日前わよ!」
ぼくの冗談に対して、スズネが大声で叫んだ。
「確かに面白い反応だな」
「あのさ…この前もそうだけど、満さんって悪戯好きっすネ」
目が死んでいながら半笑いでぼくたちを見ている。
「ふふ、何の話?」
龍がぼくを教室の真ん中にあるソファーのところに押してくれた。立っているスイはぼくと龍に対して会釈した。
「満様、おはようございます」
「おはよう」
「顔色がよろしくな…」
「龍、紅茶が飲みたい」
今一番言われないといけない話だから、無理やりスイの言葉を遮断した。龍はぼくに一瞥してから厨房の方に行った。
「ごめんね、過敏のお年寄りの前でぼくの体調とか言わないでね」
「…はい、失礼いたしました」
「それとマキ」
まだ教室の入り口に立っているマキがぼくの呼び声に呆然と向いてくれた。
「来て」
素直にぼくの隣に歩いてきたマキを見るとまるで人形のような感じだな。いずれ自分のために生きるようになれる日が来るといいな。
「ふふ、いい子。マキもごめんね。あいつはぼくより手加減ができないから」
厳密に言うとしないというべき。
先程龍に止められた左腕にひどい跡が残された。
確かに吸血鬼のマキの回復力が強いだが、龍からのダメージは短時間で治せる物ではない。ましてマキは完全な状態ではいないから。
「スイ、お願いしていい?今日のぼくは一日力使うなって言われたから」
「はい」
「大丈夫…すぐ治る…」
小声で自分の手を回収したが、ぼくがその手を軽く握った。マキなら簡単に振り払えるが、ぼくの笑顔にマキはなぜかぼやっとした。その隙間にスイは素早く治してくれた。
「なんで使っちゃダメデスか」
窓辺側にいたクレマンもソファーのところに歩いてきた。
「ふふ、年寄りに訊いてみて」
そう言ったら、クレマンが舌を出したままで肩を竦めた。
そういえば、昨日から一番しゃべるスズネがずっと黙ったままで遠くところに下向いて座っている。
おそらく先程の反応で一番遅いことに気になってるでしょ。プライト高いお嬢さんだからな。確かに四位のクレマンと比べるとかなり差がある…彼女が変に隠そうと思ってなければいいのに。
「スズネ」
「なによ」
「マキが一緒に午後の授業したいって」
「え?」
まさか自分の名前が出ると思わなかったマキがかなり驚いた。
スズネのぺったとした耳が一瞬ピンっとなって、猛ダッシュでぼくの隣に座っているマキを抱きしめた。
「本当?真姫ちゃんがアタシと?何なら夜一緒にご飯しない?アタシの部屋に来ない?友達とお泊り会したいのがアタシの夢なのよ」
マシンガンのような喋りでマキは明らかに戸惑っている。でもスズネが純粋さにマキもどうやって返せばいいかわからないようだ。
「そうでしたら、もし授業まだ決まっていませんでしたら、皆様一緒に行きましょうか」
スイは本当に優しいな。
邪魔されたスズネは不満そうだが、マキがぼくの袖を掴んでいるのを見て、言いたい言葉を飲み込んだ。
本当に可愛らしいな。
「イイネ、俺もまだ決まってないから」
「ふふ、ぼくは…」
「みっち!探しに来たぞ~」
ぼくが話そうと思ったときに、教室外からとある子犬の声が聞こえた。
二度目だからか、スイはぼくが言う前にもう入り口の方に行って、アキラを中に入らせた。
「やっほー昨日ぶりだね。うわっ、なになに?めちゃくちゃヒトいるじゃん。Sクラスって顔面偏差値が高くないと入れんのか?オレこの空間に浮いてるぅ~」
今日のアキラもテンションの高さと話しの長さが安定だな。
「何こいつ?みっちって満のこと?子犬って言ったからアタシと同じ獣人と思ったのに」
「ふふ…アキラ、みんなに自己紹介して」
「アイアイサーAクラスの命・須藤だ~みっちの飼い犬になる希望…えええ?なに?熱っ!」
話の途中急にお茶ポットとコップが物凄く早いスピードでアキラの方に飛んできて、驚きながらアキラは溢れずにキャッチした。
ある意味アキラってすごい者かもしれないな。龍がここまでちょっかいを出すのは本当に珍しいものだな。うん……初めてかもしれないな。
「ちょうど飲みたかったから、ありがとう」
「え?待って!明らかにオレの顔に狙ってません?みっち?なんで無視したの?え?」
文句を言いながら紅茶を用意した。
「ん~A ランクの三位?へへへ…実に興味深い。オレはクレマン・ジハーウだ。よろしく」
しみしみとアキラを見計らった後、クレマンがアキラに名乗った。
「はぁ…鈴音・観音」
明らかにアキラに興味がないスズネが挨拶したら厨房の方に行った。
…どうやらマキでスズネのモチベーションをあげるのはほんの一瞬の効果だけだな。
スズネから解放されたマキは無意識にぼくの袖を掴んで、大きな瞳でアキラの事を睨んでいる。
「…真姫・七扇」
無理もない話だな。血の匂いに敏感な吸血鬼にはアキラが外見のような間抜けに見えない。逆に警戒してしまう。先のように攻撃しないのは恐らくぼくの知り合いという事でしょ。
ますます家にいる弟と似たような事するな。実に可愛らしいと思いながらマキを撫でた。撫でられて恥ずかしがるのも弟と同じだな。家族の反対を無視して入学したぼくにきっと今は怒っているだろ。想像するだけでも面白いな。
「ご機嫌がよろしいですね」
アキラからお茶ポットを引き継いでみんなにお茶を配り終わったスイはお茶を飲みながらそう言った。
「ふふ、マキを見ると弟の事を思い出した」
何故かマキが固まって、それを気付いたクレマンが憐れな目でマキに見た。
「どうした?」
「みっち、オレがいうのもアレだけどさぁ、レディーに失礼だぞ?」
何故かアキラに呆れたな。
「…確かに女性に弟に似てるというのが少々失礼かもしれないな」
マキごめんね。と言ったら、何故かマキの目が更に死んだ気がした。
「うはははは――そっち?ウソだろ」
爆笑したクレマンと呆れたアキラ、そしてスイは遠くの方を眺めている。
「貴方達何をしているのかしら?」
厨房から出てきたスズネが両手にパン、スープとデザート等様々な種類に載せたトレーに持ってきた。その後ろについているのは龍。
「鈴音様が用意しましたか」
スイはすぐ長テーブルに食事を用意している龍とスズネの手伝いに行った。
「…たまたま龍さんが用意したの見たから、どうやら注文すれば食堂から転送してくれるらしい。どうせ貴方達はまだ食べてないと思ったからついでに頼んだ」
「はっはは…いや、俺も笑い過ぎてお腹が空いたっス」
笑いながら飛んで行ったクレマンに対して、スズネが室内で飛ばないでと怒られた。
「いいねぇ~平和な感じぃ」
龍の代わりにアキラがぼくを押してくれた。マキはぼくの隣に歩いている。
「A クラスは?」
「ふん~皆なんかねぇ~殺伐?会話もあまりしねぇし、教室にもいないって感じ?」
この学院では普通かもしれないな。最初ぼくもそうなるかと想像したが、意外と友好ってある意味助かった。
「ふふ、だからぼくを誘ったか」
「そぉよぉ、しくしくぅ」
わざとらしいな。この者は本当に思っていないことをすらすらとしゃべれるな。
「で?何の講義にするのかしら?」
全員がテーブルに着席した後、スズネが授業リストを探し始めた。
「アレぇ?みんな一緒の授業すんの?」
アキラがパンを食べながらしゃべったら、スズネに食べてから喋りなさいと怒られた。
「ええ、せっかくの機会ですので」
「えぇ~ってことは、みんな世界の創生を受けるんだね~早く選択しないと時間切れるよ?オレSクラスじゃないから、早く選ばないと人数オーバーだと大変~」
「待って!なんで貴方が決める訳?」
アキラがあったりまえの態度に不満のスズネがすぐ反論したが、アキラはわれ関せずにバッジをいじっている。
「だって、みっちと約束したもん~みんながみっちと一緒なら、オレも一緒ってことだろぉ?オレも一緒ってことはみっちと約束した俺が選んだものになるわけじゃん~」
「笑うじゃないわよ!そもそもなんで今さらそんな講義をわざわざ受ける必要あるかしら?誰も知ってるでしょ」
「異議あり!知らないから受けたい!」
「命サンに同意。中間界と魔界の神話の差が知りたい!」
スズネの話が終わった途端、アキラがすぐ手を上げながら立ち上がった。その次にクレマンも同じ動きで立ち上がった。話の終わりでお互いの顔を見てニヤッとした。
貴方達!と呆れたスズネがいる。
…アキラとクレマンのテンションが合いそうだな。これからにぎやかになりそうだ。
「良いことではありませんか。スプラウーの授業ですので、さぞ私達が想像するより勉強になるかと思います」
かぼちゃのスープを飲み切ったスイはにこやかでアキラとクレマンをカバーした。
スイまで声出したから、スズネもしょうがなくバッジで授業を選んだ。ずっと話に参加していないマキはぼくの名前が出されたときにもう手続きを終わった。




