落とし物
「おぅい、助けてくれ」
そう言われて振り返った瞬間、腰が抜けた。
そこにあったのは、地面に投げ出されたスーツを着た男の体だった。それだけでも十分驚く光景だが、それ以上に私を恐怖させたのは、その男の首から先がなかったからだ。
「そこの人、頼むから助けてくれないか」
へたり込む私に向けてなのか、この場に似つかわしくない朗らかな男性の声が聞こえる。
私は慌てて周囲を見渡した。しかし、周囲には私と首のない男の体以外、人っ子一人いなかった。
「そこの、座ってる君。そう君!」
せめて声の出どころを探ろうとキョロキョロと見渡す私に、声は喋りかける。
「驚かせてすまない。しかし、僕一人ではどうにもできないんだ」
私は声がする方向、倒れ込んだ男の体の下に何か挟まっている事に気づいた。
「ちょっと、拾って欲しいものがあるんだ」
男の声を無視し、恐る恐る男の体の下を覗き込む。
そこには、男の首が挟まっていた。
口は半開きになっており、血走った目がぎょろりとこちらを向いた。
「ひぃっ!」
私は飛び退き、這うようにその場から逃げた。
「あぁ、行っちゃった」
男は自分の体の下で、ため息を付いた。
「これで3人目だ」
男は口に入った砂利をぺっぺと吐き出しながら、考える。顔がある面が地面を向いたまま、自分の体に押しつぶされてしまったので、喋るたびに口に砂や石が入り込み、気分が悪かった。
「ただ首を拾ってくっつけて欲しいだけなのになぁ」
男は寂しそうに、そう呟いた。