第09節 こうして魔物は現れた
その後ルイーズは、どうしていたか?
ギネスの酒場を後にするとルイーズは
恋人に会いに来た。
待ち合わせ場所として決めた
広場の噴水はロマンチックである。
その雰囲気の中でルイーズは
小さな可愛らしいボトルに入った
惚れ薬入りの酒を飲むよう勧めた。
「久しぶりの味だな、
君と初めて酒を酌み交わした時の
ウイスキーだ。
あの頃の君はアルコール中毒では
なかった…。
残念だよ」
ルイーズの彼氏は
そういうとまたウイスキーをぐっと飲んだ。
そろそろ惚れ薬が効く頃である。
「私たち、やり直さない?」
「もう遅いよ…。
ん、いや、遅くないな。
今からでもやり直すか…。
あれ、不思議だな。
こんな気持ちになるなんて」
「うふふふふふ…」
ルイーズは湧き上がる、
してやったりの快楽を堪えきれなかった。
「ルイーズ…」
「なあに、あなた…」
しっとりとしたいいムードである。
「もっと酒をよこすんだよお!!」
そういうと彼氏は
ルイーズを殴りつけてきた。
地面に倒れ込むと
パチパチパチという拍手が聞こえてきた。
「いやあ、笑えますねえ。
抱きしめてくれるか、と思いきや
痛ーいパンチですから。
どうです、ルイーズさん。
彼氏に飲ませたのは、惚れ薬ではなく
頭がウルトラハイになる麻薬ですよ」
ボーラが魔王としての本性を出してきた。
「なんですって、麻薬!?」
「人生に失敗して
気持ちが弱った女を騙すのは、
なんて簡単なんでしょう。
憎いでしょう、悲しいでしょう?
魔王はそういう闇を喰らって、
エネルギーにするんですよ。
あなたが支払うお代という訳です」
魔王ボーラは手を振りかざした。
ルイーズに魔法をかけたようだ。
するとルイーズの体からたくさんの邪気
が溢れ出した。
魔王ボーラはそれを飲み込む。
「うまい、なんて素晴らしい味なんだ。
冥土の土産に教えてあげましょう。
光と闇の法則でね。
人々が愛で満たされると勇者が強くなり、
人々が悲しみや憎しみで満たされると
魔王が強くなるのです。
私の未来予知能力によると
異世界より勇者が来るのです。
宿敵であるやつと戦うためにも
力をつけておかないと」
体から邪気とはいえ
エネルギーを大量に奪われた
ルイーズは喉がカラカラに乾いた。
思わず噴水の水を見ると、
なりふり構わずガブガブと飲んでしまった。
すると体が突然変化し始めた。
髪の毛はバサバサになり、爪はどんどん伸び、
口には牙が、顔には鱗が出てきた。
「ふはははは。
私は人間を属性に分けて
魔物に変えられるんですよ。
火なら人魂、水ならサハギン、
土なら泥人形、風ならガーゴイルとね。
さあて、そろそろ勇者が現れる頃だ。
私は隠れるとしましょう」
魔王ボーラは広場に通じる裏通りへ
隠れてしまった。