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終わりは突然だった。
二人が塔から出ると、アイナは待っていた男たちに連れて行かれてしまった。
アートはアイナと別れた後、しばらく町の広場でぼやっとしていた。
噴水の前のベンチに座り、さっきまで一緒だった変わった少女を思い出していた。
屋台の菓子を上品に頬張り、町のいたる所を、物珍しそうに眺めては、嬉しそうに笑った女の子。
町に来るのは初めてで、王家の別荘では、湖でボートに乗って遊ぶらしい。
「アイナ……か。王女様と同じ名前じゃないか。それにどう見てもお手伝いには……見えないよなぁ」
アートは大きくため息を吐いた。両肘を太ももに置き、両手で顔を覆った。
「一目ぼれだったんだぞ。…………どうしてくれるんだ」
一目で恋に落ちた。
でも相手はとても幼くて、妹くらいの年の女の子。
そう思って気の迷いと片付けようとしたのに、相手は自分と同い年だという。
止まらなくなった気持ちは、膨らみ続けるばかりだ。
「……どうしようもないか。所詮……身分が違い過ぎる。しばらくすれば、また元通りになってるさ。」